懲戒解雇・退職金没収規定(就業規則の読み方・活かし方 第16回)
懲戒解雇・退職金没収規定(就業規則の読み方・活かし方 第16回)

懲戒解雇・退職金没収規定

社会保険労務士 江尻育弘
2018年4月16日

<規定例>

次の各号に1つに該当する場合、退職金の一部を減額する、ないしは、退職金の支給をしない。なお、すでに退職金が支払われている場合は、その全部または一部の返還を求める。

  1. 諭旨解雇されたとき
  2. 懲戒解雇されたとき
  3. 在職中の行為に諭旨解雇ないし懲戒解雇に相当する行為が発見されたとき
  4. 退職後に守秘義務ないし競業避止義務に違反したとき

規定例に記載されているように「なお、すでに退職金が支払われている場合は、その全部または一部の返還を求める。」は大変重要な文言です。

なぜでしょうか?

1及び2の事項である諭旨解雇や懲戒解雇により退職金を支給しないとすることは可能ですが、3及び4の事項となると一旦退職金を支給している為、それを返却してもらえるか?というと難しいと考えられます。
なぜなら、本人がすでに自己都合で退職している場合は、懲戒解雇等は出来ないからです。

その為に「なお、すでに退職金が・・・」の文言を入れることで、会社に返還請求権を持たせているわけです。

しかし、退職金没収と懲戒解雇の問題は規定があれば常に良いというわけでは有りません。

該当判例を見てみましょう。

この事件では痴漢行為で懲戒解雇になった職員に対し3割にあたる退職金の支払い命令が下されました。

一般的に退職金というのは在職中の功労に報いる報奨的な性格もありますが、賃金の後払い的性格もあります。「賃金」の性格がある場合、基本的には全額払いとなる為、諸条件を付けて全額不支給というには制約があるのです。

退職金を全額不支給とするには長年の勤続の功を打ち消してしまう程の重大な不信行為が必要です。業務上の背信行為でなく、業務外の非違行為であればその企業に与える実損等の影響から判断していきます。

これは二つに分かれています。

一つ目の典型例は業務上の横領、背任等の会社に対する直接の背信行為です。この場合は、懲戒解雇も可能ですし、退職金没収も可能となります。

二つ目は私生活上での非違行為です。この場合は会社への名誉、信用を著しく害し、実害の程度などから無視し得ない状況等により判断されます。

この事件では3割の退職金が支払われましたが、この割合は一律ではなく、その時の諸事情で裁判官が判断します。

就業規則の中で「長年の背信性を・・・」等と記載する必要はありませんが、規定をまず設けること。規定があっても裁判例上勤続の功を無にする程の重大な背信行為があるか否か、そこが要件として隠れていることになります。規定の当てはめには注意が必要です。

※文書作成日時点での法令に基づく内容となっております。

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