健康経営 第9回
社会保険労務士 江尻事務所(健康経営アドバイザー 江尻育弘(東京商工会議所・認定番号 19000112))は沖縄県内でより多くの企業に「健康」について知ってもらい、取り組んでもらうことができれば、県内の労働環境の改善につながると考えております。(「健康経営について」を読む ›)
従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、健康に関して投資を行うことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や株価向上につながると期待されています。
沖縄にやってくるプロのスポーツ選手のコンディションを管理されている株式会社ヘルスケアグループファルコン 代表取締役の磯谷貴之様に、ご専門である身体の健康についてコラムを寄せていただいております。
新型コロナウイルス感染症の流行のため、外出もできず自宅に籠りきりになり、ストレスを抱えている方も多くいらっしゃるかと思います。その結果、心身のバランスを崩してしまう人たちも中にはいるのではないでしょうか。連載第7回からはこのコロナ禍における、「運動の役割」や「運動によって心身を整える」ことを中心にお話しいただきます。
連載第9回は「肩こりは「筋肉の硬さ」が原因」です。
肩こりは「筋肉の硬さ」が原因
「肩こり」は日本人、特に女性の不調でもトップ3に入るほど、多くの方が悩まされています。
ちなみに英語で「肩こり」という言葉がないように、 世界の中でも日本人が特に感じやすい不調のようです。
そしてコロナの流行とともに在宅ワークが増えた影響で、私の運営するトレーニングスタジオでも肩こりを訴えるお客様が以前よりも増えました。
そのように多くの方が悩まされる肩こりですが、「どのように改善したら良いのかわからない」という方が多いのも事実です。
様々な要因が考えられますが、パーソナルトレーナーとして10年以上活動した経験から言えるのは、「筋肉が硬い」ということが一番の原因です。そしてこの「筋肉の硬さ」は「慢性的な運動不足」が原因であることが非常に多いです。
「体が柔らかい=筋肉が柔らかい」ではない
そもそも女性は「関節の可動域」が男性より広い傾向にあるので、前屈や開脚などでも大きく動かせる人が非常に多いです。(下図)
男性と女性が同じストレッチをしても、多くのケースでこのような状態になります。
骨盤の大きさの違いや女性ホルモンの影響が、この「男女の関節の可動域の違い」を生み出していると言われます。
そしてみなさんがよく使う「体が柔らかい」というのは、この「関節の可動域が広い」ことを差しています。
ただし、これは「筋肉が柔らかい」のではなく「関節の可動性が広い」だけなので、全く別の問題になります。
けれども前屈でビターと倒せると「柔らかいね」とひとくくりにされてしまうので、本当の原因が見逃しがちになります。
実際、このように肩の可動域が広くても、肩こりに悩まされている女性はたくさんいます。(下図)
筋肉の理想の状態とは?
まず「筋肉が柔らかい状態」をもっと具体的に定義する必要があります。
理想は「赤ちゃんの肌」です。
筋肉に弾力があり、もちもちして、ツヤがあります。
このような状態が「筋肉が柔らかい」、つまり理想の状態と言えます。
逆に、肩こりはもちろん冷えやむくみを抱えている方は、「筋肉が硬く、かさついていて、コリやハリがある」という状態の方が多いです。
例えば、冷えや腰痛を抱えている方は、かかとがカサついていたりヒビ割れしているケースが多いです。
「靴下のあとがくっきり残る」ようなむくみがあるふくらはぎは、マッサージをしても指が中に入らないほど硬くなっていることも多いです。
逆に、トップアスリートは筋肉に弾力があり、肌や足の裏も非常にきれいな選手が多いです。
裸足で行う柔道の選手でも、トップクラスの選手は足裏が綺麗です。
筋肉に弾力があるということは、それだけ血液や体液も循環し、基礎代謝も良い状態と言えます。
基礎代謝が良ければ、老廃物がたまる部位もなく、疲れや疲労の元となるコリやハリもできにくくなります。
だからこそまずは「筋肉の弾力を取り戻す」ことが最優先になります。
どうやって筋肉の弾力を取り戻す?
ではどうやって筋肉の弾力を取り戻すか?
方法は2つあります。
まずは単純な「ストレッチ」
ここで定義するストレッチは同じ姿勢を保つ「静的ストレッチ」ではなく、動きながら行う「動的ストレッチ」が理想です。
【例】肩の動的ストレッチ「肘回し」
そこまで筋肉の硬さがひどくない方は、「起床後」「お風呂後」「デスクワークで肩まわりが重 たいとき」にこのストレッチを行うだけで筋肉の弾力は取り戻せます。
ただし筋肉の硬さが強い方は、ストレッチだけでは弾力は取り戻せません。
ストレッチでとりきれない方は、コリをつぶすような「セルフマッサージ」が必要になります。
少し難しい話になりますが、痛みの原因となる「コリ」「しこり」を「トリガーポイント」と呼びます。
そしてこのトリガーポイントは、痛みを感じている部位とは少し離れた場所にあることが多く、 例えば、腰痛の場合なら「おしりの横」であったり、膝痛であったら「ももの前」であったりし ます。
そして肩こりであれば「肩甲骨の間」にトリガーポイントがあるので、その部位のコリをボールを使ってつぶします(テニスボールの硬さが理想です)。(下図)
ボールを上記の場所に当てたままあお向けに寝て、腕を横方向に5回、バンザイ方向に5回動かします。
動いている最中は痛みを感じますが、終わった後は肩まわりがすっきりしているのを感じられると思います。
このようなケアは、自分自身でマッサージと同じような効果を得られるため「セルフマッサー ジ」もしくは「セルフケア」と呼ばれます。
「動的ストレッチ」「セルフマッサージ」の順序が理想
まとめると、筋肉の弾力を取り戻すには
@動的ストレッチ
Aセルフマッサージ
という順序です。
この流れで「肩こり」の多くは改善します。
まとめ
肩こりは「専門店のマッサージ」でほぐしてもらう方が多いと思いますが、自分自身で動かした方が肩こりが改善されることは、科学的にもすでに証明されています。
なぜなら自分の意思で筋肉を動かすことで、筋肉の「良い状態」を脳に記憶することができるの で、コリのない良い状態が長続くするからです。
これは人にやってもらうマッサージではできないことです。
「マッサージでゆるめても、翌日には元どおり硬くなってる」という経験をされた方も多いと思います。
そのため、これからは「自分自身で改善する」意識を持っていただければ幸いです。
そして「自分自身で改善するエクササイズ」を覚えることで「習慣化」につながります。
運動が継続できない方は「やる気」や「モチベーション」といった理由よりも、そもそもの
「運動のやり方」
「運動の順序」
「運動スケジュールの組み方」
など、「知識」を持たないまま始めてしまう方が多いからです。
まずはきちっと頭の中を整理してから運動をスタートすれば、習慣化するのはそれほど難しくありません。
運動を習慣化することで、慢性的な不調や痛み改善への「第一歩」となります。