障害年金制度について
沖縄県は障害年金の不支給割合が高いと言われています。少し古い調査ですが、平成27年(2015年)厚生労働省の「障害基礎年金の障害認定の地域差に関する調査結果」によれば、全国平均の不支給率は12.5%であるのに対し、「17.6%」と約5ポイント上回っていて、一番低い県は栃木県の4%なので、約13ポイントと大きな開きがあります。
社会保険労務士 江尻事務所はより多くの人や企業に「障害年金制度」について知ってもらうことで、現状の改善につながると考えております。
また弊所にも年に数件、障害年金に関するお問い合わせが来るのですが、現在はより専門性が高く、信頼できる先生におつなぎしております。
そこで、沖縄県宜野湾市で「沖縄唯一の障害年金請求支援専門」を掲げておられるオフコース障害年金プラーザの中島隆史(なかしま・たかし)先生に、ご専門である障害年金についてコラムを寄せていただきました。
第一回は「障害年金制度について」です。
筆者自己紹介
社会保険労務士江尻事務所ホームページ・メルマガ愛読者の皆様、初めまして。私は沖縄県社会保険労務士会会員の中島隆史と申します。今回、ご縁があり、今回の執筆を担当させていただくこととなりました。お付き合いのほどよろしくお願いします。
今回より5回に渡って、障害年金制度についてお話をします。単に制度の説明をするだけなら、日本年金機構のサイトを眺めてみる、あるいは市販されている本を読めばそれである程度は理解できます。でもそれでは面白くないですし、「実際はどうなのよ?」「こんなケースもあったの?」というようなお話が良いのかなと考えましたし、また参考書に載っていないことをお話するほうが皆様も退屈しないだろうと。
私の、ものの考え方、今までの経験や結果も織り交ぜながらお話していきます。できるだけ簡単な表現にしていきますね。
少し自己紹介をします。私は平成23年8月に開業登録をし、平成24年からは、「沖縄唯一 障害年金請求支援専門」という看板を掲げて、請求手続きの代行業務だけを主にやって、ここまで社会保険労務士(以下、社労士と称す)として生計を営んできました。
一時期は毎月2件程度の新規受託もあったのですが、ここ数年は、ライバル社労士が増えたこともあり、また、私自身の実績(認定決定率)も、90%→75%程度まで低下しましたので(現在は78%)、最近は年間15件程度の受託で落ち着いています。
残念ながら成功報酬を支払わずに逃げちゃう不埒な客が、毎年ひとり以上発生する苦々しい状況がありまして、やる気を失くすこともあります。生活保護のお客様の受託をしますと、着手金はおろか立替金すらもらえないこともあります。情に流されてしまったダメなケースですね。2万円程度の金額でしたが、これは諦めました。(現在は、生活保護の方からの依頼については、連帯保証人を付けない限り受託をしないことにしています)
また患者様によっては認定基準と照らし合わせてみて、状態は軽いかな、当てはまらないかな、認定厳しいかなって感じる場合は、その認定基準をお見せして「認定は難しい」旨を伝えるようにして、受託を拒むようになりました。それと、セカンドオピニオンではありませんが、ほかの社労士にも意見を聞くよう促すことが増えましたね。
数年前までは、たくさん実績を積みたいばかりにできるだけ多く受託しようと考えていましたが、受託するからには認定されなければ意味が無いと思うようになりまして、私自身の考え方も変化してきました。もちろん、今まで手がけたほとんどのお客様は良い方ばかりでしたよ。 現在は、良い縁に恵まれて事業所関係の業務も手掛けるようになりました。そのため「沖縄唯一 障害年金請求支援専門」という看板が若干偽り? になってきたようですが(笑)。さて、本題に入りましょう。
日本の年金制度の概要
日本の年金制度をお話する上で、どうしても制度の趣旨や立法の背景、歴史に触れないわけにはいかないのですが、これを話すといくらページがあっても足りませんので、簡単に触れたいと思います。
年金の定義は、国民年金法、厚生年金保険法によると、「老齢、障害または死亡」に関して必要な(保険)給付を行うとなっており、障害年金は、障害に関する(保険)給付ということになりますね。
昭和36年4月から、日本に住んでいる20歳以上の方で、厚生年金保険や共済年金に加入できない自営業者・農林水産業に従事している方を対象にした国民年金の制度が始まりました。これによりすべての国民が何らかの形での年金制度に加入できるようになりましたが、国民年金・厚生年金保険・共済年金の制度は各々独立した制度でありました。
しかし、昭和61年4月から年金制度が大改正となりました。この時点からは基礎年金制度が創設され、まず日本に住む20歳以上の方については国民年金に強制加入となり、全被保険者共通の年金として、国民年金から基礎年金を支給する仕組みにしました。厚生年金保険(共済年金)は、国民年金から支給される基礎年金に上乗せして支給される年金制度に改正されたことで、いわゆる二階建てと呼ばれる年金制度がここからスタートしたのです。またこの時点からは、国民年金の第3号被保険者の仕組みも導入され、いわゆる「サラリーマンの妻」についても国民年金に強制加入することによって、妻自身の年金がもらえるように保証をしたわけです。
3つの要件
現在の年金制度は今お話したとおりですが、障害年金をもらうためには、国民年金法、厚生年金保険法各々の法律に共通の3つの要件があって、そのすべてをクリアしないと、どんなにその傷病が重くても支給されることはありません。その3つの要件を今回はお話します。
初診日要件
まず一つ目は、「初診日要件」です。障害年金の請求を検討される際、請求できる年金は、初診日(身体に異変を感じて最初に医師・歯科医師の診察を受けた日)の日において加入している年金制度によって異なります。(図解1参照)
初診日の際、サラリーマンやOLの方・公務員の方については、厚生年金保険の被保険者でありますので、これらの方については障害厚生年金の請求となります。
一方、自営業の方・農林水産業に従事の方・学生や無職の方、サラリーマンや公務員の被扶養配偶者の方(サラリーマンの妻)については国民年金の被保険者ですので、これらの方については障害基礎年金の請求となります。
ほか、平成27年9月30日までに初診日のある公務員・私学共済の加入者の方については、障害共済年金の請求となります。(今回のコラムでは、障害共済年金についてのお話は省きます)
初診日が20歳になるまでの間にある方については、年金制度にそもそも加入していませんので、これらの方については一律に「20歳前障害」として、障害基礎年金としての請求となります。
つまり、20歳前障害を除いて初診日の段階において、年金制度に加入していなければいけません。未加入の場合は、そもそも年金請求ができないこととなります。なぜなら年金制度は「保険」だからです。「厚生年金保険」ですよね? 国民年金の場合は「国民年金保険」ではありませんが、これは20歳前の障害の方も対象にしていますから、保険の仕組みからすると例外なのですが、基本的な考えは厚生年金保険と一緒です。公務員の方が加入する共済年金の仕組みも、考え方は厚生年金保険と同じです。
「障害」という保険事故に遭遇したら、「年金保険」で対応しますという意味ですから初診日において、たまたま年金制度に未加入だった場合はそもそも請求ができません。「障害年金は保険である」というこの仕組みをわかっていない方が意外に多いのです。例えば、海外在住時に初診日がある場合、国民年金は海外在住の日本人については任意加入被保険者になりますから、その方が初診日時点において国民年金に加入していなければ、請求はできないのです。 (なお、医師か歯科医師の診察を受けた日が初診日です。看護師・カウンセラー・臨床心理士・柔道整復師等の診察は初診日として認められません)
障害認定日要件
二つ目の要件は「障害認定日要件」です。病気や怪我になったからといって、どんな状態でも障害年金の請求ができるというわけではありません。国民年金の場合は、障害等級が障害認定基準(以下、基準と称す)の1級か2級に該当すれば、障害基礎年金が支給されます。厚生年金保険の場合は、障害等級が基準の1級から3級までに該当すれば、障害厚生年金が支給されます。(図解1参照)
なお、基準の1級〜3級は、身体障害者手帳や精神障害者保健福祉手帳の等級とは一致しませんので注意が必要です。なぜなら根拠となる法律が異なるからです。
私が過去に手がけた例では、
@ 身体障害者手帳6級→障害基礎年金1級(肢体障害)
A 精神障害者手帳2級→障害基礎年金不支給(うつ病)
がありました。過去のお客様ですと、市町村役場の誤った説明によって年金請求はできないものと思い込んでいた方がいました。「お客様は手帳が6級だから、年金出ませんよ」と役人から言われたとのことです。その説明から数年後に私に年金請求の依頼がありましたが、結果は上記@のとおり、1級で認定されています。(事後重症請求)つまり、このお客様は、市町村役場の誤った説明が無ければ、もっと早くから年金がもらえていた可能性があったわけです。
では、1級・2級・3級の判定はいつの時点ですか? ということです。
原則は、先ほどお話した初診日から1年6か月を経過した時点で判断します。この初診日から1年6か月経過した時点を「障害認定日」といいますが、この時点で障害等級を判断し、自分の病状が基準の1級から3級に該当すると、障害認定日のある月の翌月から年金が支給されます。ですので、病気やけがをしてから1年6か月間、その傷病の経過が問われるのです。病気やけがをしてすぐに年金請求できるわけではないのです。しかし、例外もあります。
例えば手足の切断・離断といった障害は、もう元には戻りませんので1年6か月間待つ必要は無く、切断・離断の日が障害認定日となります。また、心臓にペースメーカーや除細動器を装着した場合も、1年6か月間待つ必要は無く、ペースメーカー等装着日が障害認定日となります。他にも例外がありますが、ここでは省きます。
保険料納付要件
そして最後の三つ目の要件が「保険料納付要件」となります。初診日の時点できちんと保険料を納めているか、または免除しているかとのことです。
@ 初診日の前日において、年金に加入しなければならない期間のうち3分の2以上の期間保険料納付済期間を有している(3分の1以上の期間未納が無いこと)(図解3参照)
A または、初診日の前日において、初診日の前々月までの直近1年間の間に保険料の未納が無い(初診日が令和8年3月31日までの特例)(初診日において65歳未満であること)(図解4参照)の@かAのいずれかの要件をクリアしなければなりません。文言はわかりにくいので、図解で確認をしていただきますが、要は保険の仕組みを採用していますから、保険料納めてない人に保険金出ませんよねという理屈です。
例えば、私は自家用車に自動車保険を掛けています。しかし、今日の午後4時で保険が失効します。午後5時になり、私は自損事故を起こしました。「まずい」と思って慌てて、ATMに行って保険会社に保険料を送金しました。この場合、保険会社は保険金出しませんよね? だって保険は失効していますから。障害年金も考え方は自動車保険と全く一緒なのです。つまり、保険料の未納は本来あってはならないことなのです。
先ほどもお話しましたが、20歳以降日本に在住している方は年金制度への加入が義務付けられています。でも、何らかの事情で、保険料の納付ができない時期もありますよね? 私もそんな時期がありました。納付ができない場合は、きちんと免除の手続をしておけば良いのですが、なかなか時間作って年金事務所や市町村役場に出向くのも大変です。
ですので、さきほどお話した@の3分の2要件は、これが保険料納付要件の原則になるのですが、結構ハードルが高いのですね。そこで、@のように3分の2以上無くても良いよ、直近1年の間に未納がなければ良いよと、Aの柔軟な規定が設けられています。
実務では、Aの直近1年要件をまず確認し、これがクリアできない場合、@の原則要件を確認しています。なお、国民年金の免除は未納ではありませんので、保険料は納付したものとして取り扱います。
私が社労士として業務を受託した場合、何はさておき最初に確認するのは保険料納付要件であります。年金事務所に出向き、お客様の年金記録(原簿)を確認し、受領できる原簿をもらって自分の眼で確認をしています。年金記録(原簿)が読み取れないのでは、この業務をやってはいけません。
お客様がお話しされた初診日も、初めて診察を受けた病院も、本人の認識と違ってずれることがあります。その場合は、再度病院と初診日を確定し、保険料納付要件を確認しなければならず、神経をすり減らします。
また、国民年金の納付・免除をしていても、初診日以後の納付や免除申請は認められません。逆選択になるからです。つまり医師の診察後に免除手続きをした、保険料を支払ったという場合は、免除とは認められません。ですから「初診日の前日」で判定するのですね。
(例えば、10月2日に病院へ行ったが、この段階では免除手続きをしていなかった。そこで10月2日あるいは3日に免除手続きを行ったという場合は、病院へ行った後に手続きをしていますので、年金記録上は免除が認められたとしても、障害年金請求の際の保険料納付要件としては、未納扱いとなります)
保険料納付要件をクリアできないと、どんなにその傷病が重かろうが請求はできない、また請求をしても100%却下であります。「却下」の結果が出るということは、社労士がお客様から業務を受託した場合で、最も恥ずべきことであります。ですので、絶対に「却下」だけはあってはならないと心掛けて業務に励んできました。
以上、障害年金をもらうための3つの要件をお話しました。要件がクリアできればあとは認定されるか、それともされないかだけであります。ではどんな傷病が対象になるの? というお話は次回にて。