トップ
「就業規則の読み方・活かし方」本則編
就業規則
沖縄情報1
沖縄情報2
沖縄情報3
沖縄情報
人事労務ニュース
人事賃金
人事賃金
人事賃金
人事賃金
人事賃金
お問合せ

 

令和7年 賃金構造基本統計調査を読み解く ― 介護施設編

2回:初任給競争と「中堅介護福祉士の離職」の構造

 

あかまち理事長(100名規模・社会福祉法人/介護施設) × 江尾社労士(えび)

 

■ 介護の初任給は上がっているのか

 

あかまち理事長:えびさん、前回は介護施設を取り巻く賃金環境の全体像を教えていただきました。今回は初任給の話ですね。来月、専門学校の就職担当の先生と会う約束があるのですが、その前に相場感を知っておきたいんです。

江尾社労士:良いタイミングです。今回の調査では、新規学卒者の賃金が全学歴で大幅に上昇しています。介護施設に関わりが深い高卒と専門学校卒のデータを確認しましょう。

 

【新規学卒者の学歴別賃金(男女計)― 令和7年】

高  校 207,300円(前年比 +5.0%

専門学校 230,700円(同 +3.5%

高専・短大 235,500円(同 +5.2%

大  学 262,300円(同 +5.6%

大 学 院 299,000円(同 +4.0%

 

あかまち理事長:高卒が207,300円で5.0%増、専門学校卒が230,700円で3.5%増。介護福祉士養成校は専門学校が多いですから、230,700円が一つの目安になりますね。

江尾社労士:はい。ただし注意すべきは、この230,700円は全産業の専門学校卒平均だということです。介護施設の専門学校卒の初任給が、製造業や情報通信業の専門学校卒と同じ水準かというと、実態としては下回っているケースが多いでしょう。とはいえ、学生の側は全産業の水準を見て就職先を比較しますから、大きく下回ることは採用上のハンディになります。

あかまち理事長:うちの施設の介護福祉士の初任給は、専門学校卒で約19万円台後半です。処遇改善手当を加えてようやく21万円程度。全国平均の230,700円と比べると1万円以上の差がある。

江尾社労士:沖縄の賃金水準が全国の約79%であることを考慮すれば、ある程度の差は説明できます。ただ、介護福祉士養成校の学生は県内だけでなく県外の施設からも求人を受けています。特に東京や大阪の大手法人は、住居手当や引越し費用の補助まで含めた条件を提示してきますから、初任給の額面だけの比較では見えにくい差がさらにあります。

 

 

■ 「頑張っている中堅」が辞めていく構造

 

あかまち理事長:初任給を上げなければいけないのは理解できるのですが、問題はその先です。先月、勤続6年目のユニットリーダーが退職届を出してきまして。理由を聞いたら「新卒と自分の手取りがほとんど変わらない。リーダーとしてシフト管理や家族対応もしているのに、割に合わない」と。

江尾社労士:まさに賃金圧縮の問題が現場で起きていますね。調査データで構造を確認してみましょう。高校卒の年齢階級別賃金を見ると、初任給の上昇が中堅層との差を圧縮している様子がわかります。

 

【高校卒・年齢階級別賃金(男女計)】

19歳  209,400円(前年比 +4.8%

2024歳 225,200円(同 +3.6%

2529歳 251,700円(同 +3.6%

3034歳 276,200円(同 +4.1%

3539歳 296,600円(同 +4.8%

4044歳 309,000円(同 +2.6%

4549歳 322,200円(同 +1.7%

 

新規学卒者(高校)の初任給 207,300円(同 +5.0%

 

あかまち理事長:新卒の高校初任給が207,300円で5.0%も上がっているのに、2529歳の層は251,700円で3.6%の伸び。新卒から510年働いても、賃金の差が44,400円しかないんですね。

江尾社労士:月額44,400円の差で、その間にリーダー業務や夜勤、新人指導を担っているわけです。さらに深刻なのは、40代以降の伸び率が鈍化していることです。4044歳は2.6%、4549歳は1.7%と、中堅〜ベテラン層ほど賃金改善が遅れています。初任給は外部市場の圧力で上がりますが、中堅以上は内部の昇給制度に依存するため、取り残されやすいのです。

あかまち理事長:辞めたユニットリーダーは28歳でした。このデータの2529歳の層にまさに該当します。彼女の感覚は、データに裏付けられていたということですね。

 

賃金圧縮の問題は、介護施設では特に深刻である。夜勤手当やリーダー手当を加えても、新卒との差が実感できない水準にとどまっている場合、中堅職員は「経験を積んでも報われない」と感じる。処遇改善等加算の配分を検討する際に、初任給引き上げだけでなく、中堅層への重点配分を意識的に行う必要がある。

 

 

 

■ パート介護職との処遇バランス

 

江尾社労士:次に、正社員とパート職員の賃金格差について確認しましょう。介護施設ではパート介護職の比率が高いですから、このバランスは非常に重要です。

 

【雇用形態別賃金と格差 ― 令和7年】

《全産業・男女計》

正社員・正職員 358,800円(前年比 +2.9%

正社員以外   241,700円(同 +3.7%

雇用形態間賃金格差 67.4(前年 66.9

 

《医療,福祉・男女計》

正社員・正職員 325,500円(同 +2.9%

正社員以外   242,800円(同 +4.6%

雇用形態間賃金格差 74.6(前年 73.4

 

あかまち理事長:医療・福祉の非正規の賃金上昇率が4.6%で、正社員の2.9%を大きく上回っている。格差も74.6と全産業の67.4より小さいですね。

江尾社労士:そうなんです。介護分野では人手不足が深刻で、パート介護職の時給を引き上げないと人が集まらない状況が続いています。その結果、パートの時給上昇が正社員の月給上昇を上回るという逆転現象が起きています。

あかまち理事長:うちの施設でも、パート介護職の時給を毎年上げてきました。今は時給1,050円から1,100円程度ですが、近隣のコンビニやスーパーの時給がどんどん上がっているので、差が縮まっています。

江尾社労士:そこが介護施設の悩みどころです。介護の仕事は身体的にも精神的にも負荷が高いのに、小売業やコールセンターと時給が変わらないとなれば、パート職員の確保は難しくなります。沖縄でも最低賃金が着実に上昇しており、パート介護職の時給は最低賃金プラスαの水準に押し上げられています。

あかまち理事長:正社員の介護福祉士からすれば、「夜勤もして、資格も持って、責任も重いのに、パートさんとの時給換算ではそれほど変わらない」という不満が出ますよね。

江尾社労士:はい。同一労働同一賃金の観点からは、正社員とパートの業務内容・責任の差を明確にし、それに応じた処遇差を設定する必要があります。介護施設の場合、正社員には夜勤義務、ケアプランへの関与、委員会活動、新人指導などの責任がありますが、これらが賃金制度の中で可視化されていないケースが多い。処遇差の根拠を制度として整備することが重要です。

 

 

■ 沖縄の介護施設が直面する「三方向の人材流出」

 

江尾社労士:ここまでの話を沖縄の文脈でまとめると、あかまち理事長の施設には三つの方向から人材流出の圧力がかかっています。

 

1の流出先は「沖縄の他産業」。コールセンター、小売業、ホテル・観光業など、無資格でも働ける仕事の時給が上昇しており、介護補助者や事務職が流出するリスクが高まっている。第2の流出先は「県外の介護施設・医療機関」。特に介護福祉士の資格を持つ職員は、東京・大阪など賃金水準の高い地域への転職が容易になっている。第3の流出先は「沖縄の他の介護施設」。処遇改善等加算の取得状況や配分方法は施設ごとに異なるため、同じ介護職でも施設間で手取りに差が生じ、条件の良い施設への移動が起きている。

 

あかまち理事長:三つ目の「施設間移動」は、まさに今起きていることです。近隣の新しいユニット型特養がオープンした際に、うちから3人が移りました。「基本給はほぼ同じだけど、処遇改善手当の配分が多い」というのが理由でした。

江尾社労士:処遇改善等加算の配分方法は、施設の経営判断そのものです。加算の取得率を上げることはもちろんですが、それをどの職種・どの層に重点配分するかが、職員の定着に直結します。全員に一律配分するよりも、離職リスクの高い中堅層や、採用が困難な介護福祉士に傾斜配分する方が、限られた原資の効果を最大化できます。

あかまち理事長:ただ、傾斜配分すると、配分が少なくなる職員から不満が出るのではないかと心配で……

江尾社労士:そこが経営者の腕の見せどころです。大切なのは、配分の根拠を明確にし、職員に丁寧に説明することです。「なぜこの職種・この層に多く配分するのか」を、データと経営課題に基づいて説明できれば、多くの職員は納得します。逆に、根拠を示さず一律配分を続けていると、結果的に中堅層の離職を防げず、採用コストが膨らむことになります。

 

 

■ 2回のまとめ

 

江尾社労士:今回のポイントを整理しておきましょう。

 

1に、新規学卒者の初任給は高卒207,300円(+5.0%)、専門学校卒230,700円(+3.5%)と大幅に上昇しており、介護施設の初任給がこの水準から大きく乖離すると新卒採用で不利になる。第2に、初任給の上昇は中堅介護福祉士との賃金圧縮を引き起こし、ユニットリーダー等の離職リスクを高める。処遇改善等加算の中堅層への傾斜配分が有効な対策となる。第3に、医療・福祉の非正規賃金上昇率4.6%は正社員の2.9%を上回っており、パート介護職と正社員の処遇バランスの見直しが必要である。第4に、沖縄の介護施設は他産業・県外・近隣施設の三方向から人材流出の圧力を受けており、処遇改善等加算の戦略的な配分が経営課題の核心となる。

 

あかまち理事長:処遇改善等加算の配分を見直すとなると、賃金テーブル全体の再設計が必要になりそうですね。

江尾社労士:はい。第3回では、60歳以降のベテラン介護職の処遇、外国人材の賃金実態と育成就労制度、そしてこれらを包括した介護施設の賃金体系の再設計について、沖縄の文脈でお話しします。

 

 

 

(第3回「シニア介護職・外国人材・これからの介護施設の賃金設計」に続く)