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令和7年 賃金構造基本統計調査

沖縄 × 全国 比較分析レポート

― 沖縄の賃金水準と構造的課題を読み解く ―


出典:厚生労働省「令和7(2025)年賃金構造基本統計調査」(令和8年3月24日公表)


社会保険労務士 江尻育弘

 

エグゼクティブサマリー


令和7年賃金構造基本統計調査によると、沖縄県の一般労働者の賃金(所定内給与月額)は268,300円であり、全国計340,600円の約78.8%にとどまっている。全国計を上回ったのは東京都・神奈川県・愛知県・大阪府の4都府県のみであり、沖縄県は47都道府県の中で最も低い水準の一つに位置している。

本レポートでは、令和7年賃金構造基本統計調査の全国データを軸に、沖縄県の賃金水準を多角的に分析する。産業別・企業規模別・年齢階級別・雇用形態別の全国データに沖縄の地域係数(約79%)を当てはめた推計値も用い、沖縄の事業者が自社の賃金水準を検討する際の参考資料として活用できるよう構成した。


【要点】沖縄の賃金は全国の約79%。全産業で72,300円の差がある。この差は企業規模・産業・性別・年齢階級ごとに異なる構造を持っており、一律に「全国より低い」と捉えるだけでは対策につながらない。本レポートでは、全国データを基準に沖縄の立ち位置を多面的に把握し、人材確保・賃金設計の判断材料を提供する。

 

沖縄と全国の賃金水準 ― 全体像


一般労働者の賃金比較


区分

全国

沖縄

差額

対全国比

男女計

340,600円

268,300円

△72,300円

78.8%

(参考)東京都

418,300円

122.8%

(参考)沖縄県

268,300円


沖縄県の268,300円は、東京都418,300円と比較すると150,000円の差がある。年収ベース(賞与を含まない月給×12か月の概算)では、沖縄約322万円に対し全国約409万円、東京約502万円となり、生涯賃金にすると極めて大きな差になる。

性別の比較


全国データでは男性373,400円(前年比+2.8%)、女性285,900円(同+3.9%)であり、男女間賃金格差(男=100)は76.6と過去最小を記録した。沖縄県の性別データは概況では公表されていないが、全国の男女比率を参考にすると、沖縄の男性は概ね295,000円前後、女性は概ね225,000円前後と推計される(※推計値)。沖縄は全国と比べて第三次産業の比率が高く、女性就業率も全国と異なる構造を持つため、実態はこの推計から乖離する可能性がある点に留意が必要である。

 

企業規模別の比較


企業規模別の賃金データは、沖縄の中小企業が置かれている環境を理解する上で極めて重要である。沖縄県は全国に比べて大企業の立地が少なく、中小企業の比率が高いため、中企業・小企業のデータが沖縄の実態により近い。


企業規模

全国賃金

前年比

格差(大企業=100)

前年の格差

大企業(1,000人以上)

385,100円

+5.7%

100.0

100.0

中企業(100〜999人)

326,200円

+1.0%

84.7

88.6

小企業(10〜99人)

305,600円

+2.1%

79.4

82.1


最も深刻な変化は、大企業と中小企業の格差拡大である。大企業が前年比5.7%増と大幅な賃上げを実現したのに対し、中企業は1.0%増にとどまった。企業規模間賃金格差(大企業=100)は、中企業が前年の88.6から84.7へ、小企業が前年の82.1から79.4へと、いずれも格差が拡大した。


【沖縄への示唆】沖縄県は中小企業が経済の大半を占めるため、全国の中企業326,200円・小企業305,600円のデータが参考になる。沖縄の地域係数(約79%)を適用すると、沖縄の中企業は約258,000円、小企業は約241,000円と推計される(※推計値)。大企業の賃上げペースに中小企業が追いつけない構造は、沖縄ではさらに顕著であると考えられる。

 

産業別の比較


産業別の賃金データは、沖縄の産業構造を踏まえた分析において特に重要である。沖縄経済はサービス業・観光業の比重が高く、製造業の比率が低いという特徴を持つ。


産業

全国賃金

前年比

全産業比

沖縄推計※

電気・ガス・水道業

444,000円

+1.5%

130.4%

約351,000円

学術研究・専門技術

440,300円

+9.6%

129.3%

約348,000円

金融業・保険業

437,000円

+6.4%

128.3%

約345,000円

情報通信業

406,000円

+3.8%

119.2%

約321,000円

建設業

366,300円

+3.9%

107.5%

約289,000円

全産業平均

340,600円

+3.1%

100.0%

268,300円

製造業

330,000円

+3.6%

96.9%

約261,000円

教育・学習支援業

379,400円

+0.9%

111.4%

約300,000円

医療,福祉

315,700円

+3.0%

92.7%

約249,000円

運輸業・郵便業

312,700円

+2.6%

91.8%

約247,000円

生活関連サービス・娯楽

295,200円

+3.3%

86.7%

約233,000円

宿泊業・飲食サービス

277,200円

+2.9%

81.4%

約219,000円


※沖縄推計は、沖縄の対全国比(78.8%)を各産業の全国賃金に適用した参考値。実際の沖縄県内の産業別賃金とは乖離がある可能性がある。


沖縄の主要産業への示唆


沖縄経済を支える宿泊業・飲食サービス業は全国で最も賃金が低い産業であり、全国平均277,200円の約79%と推計すると約219,000円となる。沖縄の観光産業が人材確保に苦戦する構造的な要因がここにある。一方、沖縄で近年成長が著しい情報通信業は全国406,000円であり、沖縄推計でも約321,000円と比較的高い水準にある。コールセンターやIT企業の進出によって事務系人材の賃金相場が上昇しており、他産業との人材争奪が激化している。

医療・福祉は全国315,700円(全産業比92.7%)であり、沖縄推計では約249,000円となる。介護施設や医療機関の賃金は、沖縄の全産業平均268,300円をさらに下回る可能性が高く、人材確保は極めて厳しい状況にある。

 

年齢階級別の比較


年齢階級別の賃金データは、沖縄の賃金カーブの形状を推測する上で有用である。全国データを基準に、沖縄の各年齢帯の賃金水準を推計した。


年齢階級

全国(男女計)

前年比

年齢格差(20-24=100)

沖縄推計※

〜19歳

208,300円

+4.5%

85.8

約164,000円

20〜24歳

242,800円

+4.4%

100.0

約192,000円

25〜29歳

279,400円

+4.6%

115.1

約221,000円

30〜34歳

312,300円

+4.3%

128.6

約247,000円

35〜39歳

340,600円

+3.6%

140.3

約269,000円

40〜44歳

364,300円

+3.7%

150.0

約288,000円

45〜49歳

377,900円

+1.4%

155.6

約298,000円

50〜54歳

388,800円

+2.2%

160.1

約307,000円

55〜59歳

396,200円

+1.1%

163.2

約313,000円

60〜64歳

329,300円

+3.7%

135.6

約260,000円

65〜69歳

285,300円

+3.6%

117.5

約225,000円


※沖縄推計は全国値×78.8%の参考値。


賃金カーブの特徴


全国データでは、賃金は20〜24歳の242,800円を起点に年齢とともに上昇し、55〜59歳の396,200円でピークを迎える。ピーク時の賃金は20〜24歳の約1.63倍である。60歳以降は329,300円へと急落し、55〜59歳比で約16.9%の低下となる(「60歳の崖」)。

沖縄推計では、ピーク(55〜59歳)が約313,000円、20〜24歳が約192,000円となり、倍率は全国と同じ約1.63倍と想定される。ただし、沖縄は年功賃金の傾斜が全国より緩やかである可能性があり、実際の倍率はこれを下回る可能性がある。沖縄の賃金カーブが全国より「フラット」であれば、若年層と中高年層の賃金差が小さく、中堅層の「頑張り損」感覚がより強くなりやすい構造と言える。

 

新規学卒者の初任給


学歴

全国初任給

前年比

沖縄推計※

高 校

207,300円

+5.0%

約164,000円

専門学校

230,700円

+3.5%

約182,000円

高専・短大

235,500円

+5.2%

約186,000円

大 学

262,300円

+5.6%

約207,000円

大学院

299,000円

+4.0%

約236,000円


※沖縄推計は全国値×78.8%の参考値。実際の沖縄の初任給は事業者ごとに異なる。


新規学卒者の初任給は全学歴で前年比3.5〜5.6%の大幅上昇を記録した。全国の高卒初任給207,300円は、令和3年の179,700円から4年間で27,600円(15.4%)上昇しており、初任給の上昇トレンドが鮮明になっている。

沖縄の事業者にとって重要なのは、初任給が「全国水準」で比較される時代に入っているという点である。介護福祉士養成校や看護専門学校の学生は、県内だけでなく県外の事業者からも求人を受ける。県外の事業者が住居手当や引越し費用補助を含めた好条件を提示する中、沖縄の初任給が全国水準から大きく乖離していれば、新卒人材の県外流出が加速する。

 

雇用形態別の比較


区分

正社員

正社員以外

格差(正社員=100)

前年の格差

全産業・男女計

358,800円

241,700円

67.4

66.9

男性

387,400円

268,100円

69.2

68.8

女性

304,900円

218,400円

71.6

71.5

医療・福祉(男女計)

325,500円

242,800円

74.6

73.4


雇用形態間賃金格差(正社員=100)は全産業で67.4(前年66.9)とわずかに改善したが、依然として大きな差がある。注目すべきは医療・福祉の格差が74.6と全産業より小さい点である。これは看護師や介護福祉士など、資格を持つパート職員の時給水準が比較的高いことを反映している。

非正規の賃金上昇率は全産業で3.7%、医療・福祉で4.6%と、いずれも正社員の2.9%を上回っている。人手不足を背景にパート・非常勤の時給引き上げ圧力が強まっている。沖縄でも最低賃金の引き上げが続いており、パート職員の時給は最低賃金プラスαの水準に押し上げられている。

短時間労働者の賃金


区分

男女計

男性

女性

全産業

1,518円(+2.8%)

1,769円(+4.1%)

1,418円(+2.2%)

医療・福祉

2,113円(+1.3%)

3,961円(+3.3%)

1,707円(−2.0%)


医療・福祉の男性短時間労働者の時給3,961円は、医師の非常勤勤務が平均を押し上げている。女性の1,707円が看護師・介護職のパート時給の実態に近い。沖縄の介護施設のパート時給は全国平均より低い水準にあると推測されるが、コールセンターや小売業の時給上昇により、介護パートの人材確保は厳しさを増している。

 

外国人労働者の賃金


在留資格区分

賃金(月額)

前年比

年齢

勤続年数

外国人労働者計

254,300円

+4.8%

32.5歳

3.3年

専門的・技術的分野

313,200円

+7.3%

32.4歳

3.2年

特定技能

221,400円

+4.8%

29.5歳

2.4年

身分に基づくもの

311,100円

+3.6%

45.0歳

6.5年

技能実習

190,300円

+4.2%

26.2歳

1.7年

その他

228,300円

+0.8%

30.1歳

2.0年


技能実習の190,300円は、高卒新規学卒者の初任給207,300円を下回る水準である。育成就労制度への移行に伴い、日本人と同等以上の報酬が求められるとともに、転籍(本人意思による事業所変更)も認められるようになる。沖縄の介護施設や建設業が受け入れた外国人材が、賃金の高い本土の事業所に転籍するリスクは、今後の経営上の重要な課題となる。

沖縄の事業者としては、賃金水準の改善に加えて、住居支援・日本語学習・キャリアアップの道筋など、賃金以外の定着要因を総合的に整備することが求められる。

勤続年数階級別の賃金


勤続年数

全国賃金

前年比

0年を100とした指数

0年

274,500円

+3.0%

100.0

1〜2年

285,300円

+5.0%

103.9

3〜4年

297,000円

+4.9%

108.2

5〜9年

312,500円

+2.9%

113.8

10〜14年

333,600円

+2.0%

121.5

15〜19年

370,800円

+0.8%

135.1

20〜24年

400,400円

+1.9%

145.9

25〜29年

433,600円

+1.1%

158.0

30年以上

444,200円

+2.4%

161.8


勤続の短い層(0〜4年)は前年比3〜5%台の伸びを見せているのに対し、15〜19年は0.8%、25〜29年は1.1%と中長期勤続者の伸びが鈍い。これは初任給の急上昇が既存社員の昇給ペースを上回る「賃金圧縮」の構造を裏付けている。沖縄の事業者においても、初任給を引き上げる際には既存社員の賃金テーブル全体を見直す必要がある。

 

総括 ― 沖縄の事業者が今すべきこと


本レポートの分析から浮かび上がる沖縄の賃金環境の特徴と課題を総括する。


【1】沖縄の賃金は全国の約79%(268,300円 vs 340,600円)。この差は7万円を超えており、年収ベースでは約87万円の開きになる。ただし、沖縄の生活コスト(特に住居費)が全国平均より低い面があり、実質的な購買力の差は名目賃金の差ほど大きくない可能性がある。


【2】大企業と中小企業の格差は拡大している(大企業+5.7% vs 中企業+1.0%)。中小企業の比率が高い沖縄では、この格差拡大の影響がより大きい。賃上げの原資確保が構造的に困難な介護・福祉・観光などの産業では、処遇改善加算や補助金の戦略的活用が不可欠である。


【3】初任給の全国的な急上昇(高卒+5.0%、大卒+5.6%)は、沖縄の事業者にも波及圧力を及ぼしている。特に看護師・介護福祉士など資格職の初任給は「全国水準」で比較される時代であり、県外流出リスクを意識した設定が求められる。


【4】医療・福祉は全産業平均を約25,000円下回る315,700円にとどまっている。沖縄推計では約249,000円であり、沖縄の全産業平均268,300円をさらに下回る可能性が高い。介護施設・医療機関の人材確保は、沖縄の中でも特に厳しい環境にある。


【5】外国人材の育成就労制度への移行に伴い、転籍が可能になる。沖縄で受け入れた人材が本土の事業所に流出するリスクに備え、賃金水準の改善と非金銭的な定着要因の整備を並行して進める必要がある。


【6】沖縄の事業者にとっての優先課題は、「全国水準との差を埋める」ことではなく、「沖縄の地域労働市場の中で競争力のあるポジションを確保する」ことである。そのためには、沖縄のハローワーク求人データや同業他社の賃金水準を定期的にベンチマークし、自社の立ち位置を客観的に把握することが出発点となる。


本レポートは厚生労働省「令和7(2025)年賃金構造基本統計調査」(令和8年3月24日公表)の概況データに基づき作成した。都道府県別の詳細データ(産業別・年齢階級別等)はe-Stat(政府統計の総合窓口)で公表されている。本レポート中「沖縄推計」と記載した数値は、沖縄県の対全国比(78.8%)を全国値に適用した参考値であり、実際の統計値ではない点に留意されたい。


社会保険労務士 江尻育弘