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令和7年 賃金構造基本統計調査 × 消費者物価指数

賃金は物価に追いついているか

― 沖縄の「低賃金 × 高物価上昇」の二重圧迫を検証する ―


データ出典

@ 厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」都道府県別第1表(e-Stat)/同概況

A 沖縄県企画部統計課「那覇市及び沖縄県の消費者物価指数の動向(令和7年平均)」

B 総務省「消費者物価指数」(令和7年平均)

 

 

二重圧迫の構造 ― 賃金が低いのに物価上昇率は全国より高い


沖縄の賃金水準は全国の約81%(所定内給与 277,400円 vs 340,600円)であるにもかかわらず、消費者物価の上昇率は全国を上回っている(沖縄県CPI前年比+3.6% vs 全国+3.2%)。「賃金が低い地域ほど物価上昇の打撃が大きい」という構造的な問題が、沖縄の労働市場に重くのしかかっている。


本レポートは、令和7年賃金構造基本統計調査のデータと消費者物価指数を組み合わせ、沖縄の労働者が直面する「実質的な生活水準」の変化を分析するものである。名目賃金だけを見ていては見えない、物価調整後の購買力の実態を明らかにする。

 

沖縄と全国の消費者物価指数 ― 10大費目比較


費目

沖縄県指数

前年比

全国指数

前年比

総合

114.1

+3.6%

111.9

+3.2%

+0.4

食料

129.6

+6.9%

125.8

+6.8%

+0.1

住居

103.1

+0.8%

104.0

+1.0%

△0.2

光熱・水道

119.4

+3.7%

116.9

+3.6%

+0.1

家具・家事用品

125.8

+4.3%

121.6

+2.7%

+1.6

被服及び履物

113.8

+1.3%

111.1

+2.6%

△1.3

保健医療

106.5

+2.4%

104.3

+1.5%

+0.9

交通・通信

100.1

+3.8%

100.0

+2.7%

+1.1

教育

93.4

△9.4%

97.1

△4.5%

△4.9

教養娯楽

113.5

+2.4%

115.6

+2.4%

±0

諸雑費

108.1

+1.9%

105.9

+1.1%

+0.8


※令和2年=100。沖縄県データは沖縄県企画部統計課、全国データは総務省統計局。「差」は前年比の差(ポイント)。


沖縄で特に物価上昇が大きい費目


10大費目のうち、沖縄の前年比が全国を上回っているのは7費目に及ぶ。特に家具・家事用品(沖縄+4.3% vs 全国+2.7%、差+1.6ポイント)、交通・通信(沖縄+3.8% vs 全国+2.7%、差+1.1ポイント)、保健医療(沖縄+2.4% vs 全国+1.5%、差+0.9ポイント)の乖離が大きい。交通・通信の差は自動車等関係費の上昇(沖縄+3.8%)が主因であり、公共交通の選択肢が限られる沖縄では自動車が生活必需品であるため、この負担増は避けられない。


一方、教育は沖縄△9.4%と全国△4.5%よりも大きく低下している。これは授業料等の△15.3%が主因であり、高等教育の無償化措置等の影響と考えられる。教育費の低下は家計にとって数少ない好材料である。

 

令和2年から7年 ― 5年間の累積物価上昇


消費者物価指数は令和2年を100としている。令和7年の指数は、令和2年からの5年間の累積的な物価変動を示す。


費目

沖縄県(R2=100)

累積上昇率

全国(R2=100)

累積上昇率

総合

114.1

+14.1%

111.9

+11.9%

+2.2

食料

129.6

+29.6%

125.8

+25.8%

+3.8

光熱・水道

119.4

+19.4%

116.9

+16.9%

+2.5

家具・家事

125.8

+25.8%

121.6

+21.6%

+4.2

交通・通信

100.1

+0.1%

100.0

±0%

+0.1

教育

93.4

△6.6%

97.1

△2.9%

△3.7


5年間で沖縄の物価は+14.1%上昇し、全国の+11.9%を2.2ポイント上回った。食料は+29.6%と約3割の上昇であり、全国の+25.8%より3.8ポイント高い。家具・家事用品は全国より4.2ポイントも高い+25.8%の上昇を記録している。沖縄の労働者は、低い賃金で、全国よりも大きな物価上昇に耐えている。


賃金上昇は物価上昇に追いついたか


全国の賃金データ(概況)から、令和2年→7年の名目賃金上昇率を概算すると約10.7%(男女計・全産業)となる。全国CPIの累積上昇率は+11.9%であるから、全国平均で見ても5年間の実質賃金はおよそ△1.2%の目減りとなっている計算である。


沖縄のCPI累積上昇率は+14.1%と全国よりさらに高い。仮に沖縄の賃金が全国と同率の+10.7%上昇したとしても、物価を差し引いた実質賃金は約△3.4%の目減りとなる。実際には沖縄の賃金上昇率は全国を下回る可能性が高く、実質的な購買力の低下はこの数字以上に深刻と推測される。

 

年齢帯別の「実質購買力」― 名目の格差より実質の格差の方が大きい


名目賃金をCPIで割ることで、令和2年時点の購買力に換算した「実質賃金」を算出できる。沖縄はCPIが全国より高いため、名目の沖縄/全国比よりも実質の比率がさらに低くなる。


年齢階級

沖縄 名目

沖縄 実質

全国 名目

全国 実質

名目比

実質比

20〜24歳

214,400

187,905

242,800

216,979

88.3%

86.6%

△1.7

25〜29歳

238,800

209,290

279,400

249,687

85.5%

83.8%

△1.7

30〜34歳

265,400

232,603

312,300

279,088

85.0%

83.3%

△1.7

35〜39歳

274,300

240,403

340,600

304,379

80.5%

79.0%

△1.5

40〜44歳

303,500

265,995

364,300

325,559

83.3%

81.7%

△1.6

45〜49歳

304,100

266,521

377,900

337,712

80.5%

78.9%

△1.6

50〜54歳

314,700

275,811

388,800

347,453

80.9%

79.4%

△1.5

55〜59歳

295,700

259,159

396,200

354,066

74.6%

73.2%

△1.4

60〜64歳

270,400

236,985

329,300

294,281

82.1%

80.5%

△1.6


※実質賃金=名目賃金÷CPI×100。沖縄CPI 114.1、全国CPI 111.9で算出。実質賃金は令和2年の購買力に換算した値。「差」は名目比と実質比の差(ポイント)。


全年齢帯で約1.4〜1.7ポイントの実質格差の悪化が生じている。名目賃金では「沖縄は全国の80〜88%」だが、物価調整後は「79〜87%」に低下する。特に55〜59歳では名目の74.6%が実質73.2%まで下がり、同じ仕事・同じキャリアであっても沖縄の労働者は全国の4分の3以下の購買力しか持たないことになる。


この約1.5ポイント前後の差は小さく見えるかもしれないが、金額に換算するとその意味は明瞭になる。たとえば50〜54歳(沖縄ピーク)の場合、名目差額は74,100円(314,700 vs 388,800)だが、実質差額は71,642円(275,811 vs 347,453)である。年収ベースでは名目差が約89万円、実質差が約86万円であり、物価差を加味しても大きな格差が残っていることがわかる。

 

食料費の重圧 ― 低賃金層ほど深刻な負担増


沖縄県のCPIウェイトでは、食料の構成比は2,940/10,000=29.4%と全支出のほぼ3割を占める。食料CPIが前年比+6.9%、5年間累積+29.6%という上昇率は、賃金の低い労働者ほど重く響く。


沖縄の中分類で上昇率の大きい食料品目


食料品目

沖縄県指数

前年比

寄与度

5年累積

穀類

160.9

+28.1%

0.85

+60.9%

飲料

126.9

+10.4%

0.24

+26.9%

菓子類

140.6

+9.3%

0.27

+40.6%

調理食品

127.1

+6.0%

0.29

+27.1%

果物

126.7

+5.2%

0.07

+26.7%

乳卵類

135.9

+5.0%

0.08

+35.9%

酒類

115.8

+4.4%

0.06

+15.8%

魚介類

134.9

+3.5%

0.07

+34.9%

外食

116.7

+2.3%

0.10

+16.7%


※令和2年=100。5年累積は指数−100で算出。寄与度は総合CPIに対する寄与(沖縄県)。


穀類(米・パン・麺類等)の指数160.9は、5年間で約6割の値上がりを意味する。前年比+28.1%、寄与度0.85は総合CPI上昇率3.6%のうち約24%を穀類だけで説明していることになる。穀類は低所得世帯ほど支出に占める割合が高い品目であり、沖縄の低賃金層への打撃は極めて大きい。


沖縄のCPIウェイトに基づく食料費の概算は月給の約29%であるが、経済学で知られるエンゲルの法則により、低所得層ほど食料費の割合は高くなる。宿泊・飲食業の20〜24歳(月給205,700円)のような低賃金層では、食料費が月給の35〜40%に達する可能性がある。その場合、食料の+6.9%上昇は賃金の2.4〜2.8%に相当する値上げ分を食料費だけで吸収しなければならないことを意味する。賃金が3%上がっても、食料費の値上がりだけでその大半が消えてしまう。

 

産業別・年齢帯別の「物価調整後」賃金


産業別の沖縄賃金を物価で調整すると、各産業の労働者が「令和2年の物価水準でいくらの購買力を持っているか」が見える。


産業(沖縄)

名目ピーク

実質ピーク

名目20-24歳

実質20-24歳

実質ピーク倍率

産業計

314,700

275,811

214,400

187,905

1.47倍

建設業

361,500

316,827

212,300

186,065

1.70倍

情報通信業

362,600

317,791

246,800

216,301

1.47倍

宿泊・飲食

310,600

272,217

205,700

180,280

1.51倍

医療・福祉

331,900

290,885

222,200

194,741

1.49倍


※実質=名目÷沖縄県CPI(114.1)×100。実質ピーク倍率=実質ピーク÷実質20-24歳(名目の倍率と同一)。


実質賃金で見ると、宿泊・飲食業の20〜24歳は月額180,280円(令和2年購買力換算)に過ぎない。令和2年時点のこの産業の賃金水準が仮に18万円前後だったとすれば、名目では賃金が上がっているように見えても、実質的な購買力はほぼ変わっていないか、むしろ下がっている可能性がある。「賃上げしたのに生活が楽にならない」という現場の声の正体はここにある。


【事業者への示唆】処遇改善等加算や定期昇給で「3%の賃上げを実施した」としても、沖縄のCPI上昇率3.6%を下回れば、実質的には賃下げとなる。「物価を超える賃上げ」が実質的な処遇改善の最低ラインである。医療・福祉業界では処遇改善等加算の配分を最大限活用し、少なくとも食料・光熱費の上昇分(年間約5〜7万円)を補う賃金改善が求められる。

 

「物価負けしない賃上げ」のベンチマーク


沖縄で「実質的な賃金維持」を達成するためには、最低でもCPI上昇率の+3.6%の賃上げが必要である。さらに「実質的な賃金改善」を実現するにはそれ以上が求められる。以下に、年齢帯別の「物価負けしないための最低賃上げ額」を示す。


年齢階級

沖縄 名目賃金

CPI+3.6%分

実質維持の最低額

実質+1%改善の目標額

20〜24歳

214,400円

7,718円

222,118円

224,262円

25〜29歳

238,800円

8,597円

247,397円

249,785円

30〜34歳

265,400円

9,554円

274,954円

277,608円

35〜39歳

274,300円

9,875円

284,175円

286,918円

40〜44歳

303,500円

10,926円

314,426円

317,461円

45〜49歳

304,100円

10,948円

315,048円

318,089円

50〜54歳

314,700円

11,329円

326,029円

329,176円


※CPI+3.6%分=名目賃金×0.036。実質+1%改善=名目賃金×1.046(CPI3.6%+実質1%)。いずれも令和7年の名目賃金に対する試算。


20〜24歳の場合、物価上昇分だけで月額7,718円の賃上げが必要であり、年間では約93,000円に相当する。これを下回る昇給では、実質的には「賃下げ」と同じ効果になる。中堅層の30〜34歳では月額9,554円(年間約115,000円)、ピークの50〜54歳では月額11,329円(年間約136,000円)が物価維持のための最低ラインとなる。


処遇改善等加算の月額配分が5,000〜8,000円程度にとどまる場合、それだけでは物価上昇分をカバーできない。処遇改善等加算を最大限取得したうえで、基本給の引き上げや各種手当の充実を組み合わせて「CPI超え」の賃上げを実現する必要がある。令和7年度の処遇改善等加算の新加算率を最大限に活用する具体的なシミュレーションが、各事業者に求められている。

 

総括 ― 名目賃金ではなく実質購買力で考える


【1】沖縄のCPI上昇率(+3.6%)は全国(+3.2%)を上回っている。賃金が全国の約81%にとどまるにもかかわらず、物価上昇はより大きいという「二重圧迫」の構造にある。名目賃金だけでなく、物価調整後の実質購買力で自社の処遇水準を評価する視点が不可欠である。


【2】5年間の累積物価上昇は沖縄+14.1%(全国+11.9%)に達した。食料は+29.6%と約3割の上昇であり、穀類に至っては+60.9%(指数160.9)である。低賃金層ほど食費の割合が高いため、物価上昇の負担は逆進的に作用している。


【3】年齢帯ごとの沖縄/全国比を実質賃金で見ると、名目の比率より全年齢帯で約1.4〜1.7ポイント悪化する。名目では88.3%(20代前半)〜74.6%(50代後半)の格差が、実質では86.6%〜73.2%に拡大する。物価差を含めた「本当の格差」は名目以上に大きい。


【4】「物価負けしない賃上げ」の最低ラインは月額7,700〜11,300円(年齢帯による)である。これを下回る昇給は、額面上はプラスでも実質的にはマイナスとなる。処遇改善等加算だけでは不足する可能性が高く、基本給の引き上げとの組み合わせが必要である。


【5】物価上昇の中で唯一の好材料は教育費の低下(沖縄△9.4%、全国△4.5%)である。子育て世代の負担軽減という観点では政策効果が表れているが、食料・光熱費・交通費の上昇がそれを大きく上回っており、家計全体としてはマイナスの状況にある。事業者は従業員の「生活実感」に寄り添った賃金設計を行う必要がある。


本レポートは厚生労働省「令和7年賃金構造基本統計調査」(e-Stat公表の都道府県別第1表および結果の概況)、沖縄県企画部統計課「那覇市及び沖縄県の消費者物価指数の動向(令和7年平均)」(令和8年1月30日公表)、および総務省「消費者物価指数」に基づき作成した。実質賃金の算出にはCPI総合指数(沖縄県114.1、全国111.9、令和2年=100)を使用している。食料費負担の試算はCPIウェイト(沖縄県の食料ウェイト2,940/10,000=29.4%)に基づく概算であり、個別世帯の実際の支出構造とは異なる点に留意されたい。


社会保険労務士 江尻育弘