2025年下半期 パーソル「はたらくソーシャル・リスニング」×沖縄統計データ統合分析
全国バズワードが映し出す 沖縄企業が今向き合うべき課題【第3回】
賃金・制度・定着編
本レポートは、株式会社パーソル総合研究所が公表した「はたらくソーシャル・リスニング/2025年下半期」の調査結果を参考に、全国でバズっているワードが沖縄でピンとこない理由について、沖縄労働局・毎月勤労統計調査・那覇市消費者物価指数の公表統計データを重ね合わせて分析し、江尻事務所が作成したものです。
本レポートは、江尾事務所システム担当「さくら」が江尾社労士に質問する対話形式で構成しています。さくらの問いは、多くの経営者が感じている疑問を代弁しています。
さくら 賃金について、毎勤統計で大きな数字が出ているようですが、どう読み取ればよいですか?
江尾社労士 令和8年2月の沖縄県全産業の現金給与総額は本系列で前年同月比+13.5%と大きく出ていますが、これはサンプル入替効果を含むため実態を表していません。同一事業所で比較した共通事業所ベースで見ると+4.9%です。この+4.9%から那覇市CPI(持家の帰属家賃を除く総合・3月時点)の+0.8%を差し引くと、実質賃金の試算は+3.3%となります。
さくら 4月分では変化がありましたか?
江尾社労士 令和8年3月分(4月公表)では共通事業所ベースの現金給与総額が▲4.0%とマイナスに転じましたが、これは賞与など「特別に支払われた給与」の減少が主因です。毎月の給与水準を示す「きまって支給する給与」は共通事業所ベースで+2.6%を維持しています。那覇市CPI(4月)+0.8%を差し引くと月給ベースの実質賃金試算は+1.8%です。賞与の単月変動に惑わされず、月給水準で継続的に把握することが経営判断の基本です。
さくら 「106万円の壁」「103万円の壁」は昨年まで非常に話題でしたが、急速に使われなくなっているんですね。
江尾社労士 税制改正と社会保険の見直し議論が進んで「壁」の意味合いが変化し、バズワードとしての寿命は終わりに近づいています。ただし実務上の影響はまだあります。パート採用をしている事業所では、スタッフの年収見込みと社会保険の加入判定を毎年確認することは引き続き必要です。「壁」という言葉を前面に出すより、「年収と社会保険の加入判定を一緒に確認しましょう」という個別対応として処理する方が現場に即しています。
さくら 沖縄のパート採用の実態と照らし合わせると、どんなことが見えますか?
江尾社労士 令和8年3月のパートタイム就職件数は前年比+7.6%・就職率109.0%と年度末に集中しましたが、4月は▲13.6%・就職率26.2%に急反落しています。「壁を意識したシフト調整」によって年度をまたいで働き方を変えるパートスタッフが、年度切り替えのタイミングで大きく動く傾向があります。新年度に入ったこの時期に、既存のパートスタッフの働き方の意向を改めて確認することを推奨します。
さくら 「2025年問題」の投稿が▲87%と大幅に減っています。もう語られなくなったということでしょうか?
江尾社労士 団塊の世代が全員75歳以上になるという「警鐘フェーズ」が終わって、今は具体論の段階に入っています。「2025年問題だから介護が大変だ」という総論を語る意味は薄れており、「今月の介護求人倍率は3.64倍で、どう採用するか」という個別の実務が問われています。
さくら 沖縄の医療・福祉の求人はどう動いていますか?
江尾社労士 令和7年度の年次データで医療・福祉の新規求人が前年度比▲4.8%と本格的に減少に転じました。採用難が実際に求人行動を抑制している証拠です。内訳を見ると、医療業(病院・クリニック)は縮小が続く一方、社会保険・社会福祉・介護事業は令和8年4月に+6.2%と反転しています。介護事業所の採用担当者にとっては、月次の動向を追いながら採用活動のペースを調整することが今必要な対応です。
さくら 「ガラスの崖」が投稿増加率2位で前年比+8,720%というのは驚きです。女性首相の誕生が背景にあるようですね。
江尾社労士 「ガラスの崖」とは、業績不振や危機局面でだけ女性が管理職・リーダーに抜擢される現象を指します。全国では女性活躍推進法の情報開示義務強化とも重なって話題になっています。沖縄の中小事業所では管理職の層が薄く、「ガラスの崖」という構造が起きにくい規模です。ただし医療・介護・保育という女性比率が高い職種が求人の3割超を占める沖縄では、女性スタッフのキャリアパスと処遇は切実な採用・定着課題です。
さくら 沖縄の女性職種の賃金実態はデータで見られますか?
江尾社労士 資料11(求職希望賃金と求人平均賃金の比較)を見ると、傾向が読み取れます。看護師は令和8年3月に求職希望が270,672円に対して求人平均が255,347円と、求職者の希望が求人を約15,000円上回っていました。4月には求人が261,534円・求職が248,289円と逆転しており、求人賃金の引き上げが起きています。介護サービスも同様に求人賃金が希望を上回っています。「女性が多い職種ほど賃金が低い」という傾向は残っていますが、改善の動きは始まっています。
さくら 「過労死」「未払い残業代」も増加率の上位に入っています。第2回で所定外労働時間の増加を確認しましたが、つながりますか?
江尾社労士 直接つながります。毎勤統計で運輸業・郵便業の所定外労働時間が+40.6%・情報通信業+20.0%という数字が出ています。36協定の上限に接近しているリスクがある業種です。未払い残業代は、タイムカードの打刻と給与明細を突き合わせれば多くのケースで確認できますが、「みなし残業の設定時間を実績が超えている」「管理職扱いだが実態は現場スタッフと同じ働き方」というケースで発生しがちです。
さくら 雇用保険受給資格決定件数が3月に急増したのも、関係していますか?
江尾社労士 可能性があります。令和8年3月の雇用保険受給資格決定件数は前年同月比+21.6%と急増しています。月間有効求職者自体は▲5.2%減少しているのに受給資格決定が増えているということは、雇用保険が適用される正規・準正規雇用からの離職が増えていることを示唆しています。過重労働や未払いによる離職が含まれているとしたら、定着投資の重要性を示すデータです。
江尾社労士 第1回から第3回を通じて見えてきたことを整理します。採用・働き方・賃金と定着は、実は一本のラインでつながっています。「採用しても定着しなければ、採用コストが無駄になる」「定着しなければ既存スタッフの負荷が増え、さらに離職が連鎖する」というサイクルです。令和7年度の就職率は27.2%まで低下しており、求人を出しても採用に至らない期間が長くなっています。この現実を踏まえて、賃金・労働時間・職場環境の三位一体の整備を今年度中に進めることが、来年度以降の採用競争に勝てる事業所になるための土台です。
本レポートのデータについてのご質問、貴社の状況に応じた個別のご相談は、江尻までお気軽にご相談ください。
作成日:令和8年5月 社会保険労務士 江尻事務所
参照資料:毎月勤労統計調査地方調査(沖縄県・令和8年1〜3月分)、沖縄労働局「労働市場の動き」令和8年2〜4月分・令和7年度年次版、那覇市消費者物価指数令和8年3〜4月分、パーソル総合研究所「はたらくソーシャル・リスニング/25年下半期」