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就業規則の読み方・活かし方

パートタイム社員編

 

第5章 服     務 × 第7章 表彰、懲戒、損害賠償 × 第8章 解雇、退職および休職など

今回取り上げる労務問題

    「注意したら辞めるって言うし、放っておいたらサボるし──仕事観に問題があるパート社員への段階的対応

 

はじめに

「注意したら『辞めます』って言うんですよ……──現場の管理職からこのような声を聞いたことはありませんか。注意すれば「辞める」と反発し、何も言わなければサボる。この手の従業員への対応は、多くの企業が頭を悩ませる問題の一つです。放置すれば職場の士気が下がり、真面目な従業員が離れていく「逆淘汰」を招きかねません。かといって感情的に対応すれば、会社側が法的リスクを背負うことになります。就業規則に基づく段階的・組織的な対応こそが、唯一の解決策です。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。服務規律・懲戒・解雇にまたがるトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。

 

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。就業規則の作成・改定を専門とし、「規則は会社を守る盾であり、従業員を守る傘でもある」が口癖。穏やかな語り口だが、法令違反には厳しい姿勢を崩さない。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。真面目で勉強熱心な性格。最近、労務トラブルの相談が増えてきたことに危機感を覚え、就業規則の理解を深めたいと考えている。

 

トラブル1:「そんなに言うなら辞めますけど?」──仕事観に問題があるパート社員への段階的対応

梅雨明けの那覇市内。蒸し暑さの残るオフィスに、冷房の効いた風がようやく行き渡り始めた頃、画猫さんが江尾社労士の事務所を訪ねてきた。いつもの穏やかな表情とは違い、眉間にうっすらとシワが寄っている。

画猫さん:「先生、今日はちょっと厄介な相談なんです。倉庫部門のパート社員Aさんのことなんですが……現場の管理職から『もう限界です』って泣きつかれまして」

江尾社労士:「それは穏やかではないですね。具体的にはどういう状況ですか」

画猫さん:Aさんは入社して1年半になる有期契約のパート社員で、週4日・1日6時間の契約です。仕事自体はできる方なんですが、とにかく目を離すとサボるんです。倉庫の奥でスマートフォンをいじっていたり、検品作業の手を止めて長時間おしゃべりしていたり。それで管理職のB課長が注意すると、『そんなに言うなら辞めますけど?』と。先月も同じことがあって、B課長が少し強めに指導したら、翌日から3日間、無断で休んでしまいました。結局、4日目に何事もなかったかのように出勤してきて……

江尾社労士:「なるほど。現場としては、注意すれば『辞める』と脅されるように感じるし、何も言わなければ業務効率が落ちる。まさに進むも地獄、退くも地獄という状態ですね」

画猫さん:「そうなんです。B課長は『もう注意するのが怖い』とまで言っていて。他のパート社員からも『Aさんばかり楽をしている。不公平だ』という声が上がっています。正直なところ、会社としてはAさんに辞めてもらいたいというのが本音なんですが、『辞める』と本人が言ったタイミングで『じゃあどうぞ』と言ってしまっていいものなのか、それとも解雇として進めるべきなのか、判断がつかなくて」

 

■ Aさんの行為を就業規則に照らして整理する

江尾社労士:「大事なポイントをいくつか整理しましょう。まず、Aさんの行為を就業規則に照らして確認するところから始めます。画猫さん、パートタイム社員就業規則の第22条は確認されていますか」

画猫さん:「服務心得の条文ですよね。一応目は通しましたが、どの部分がAさんに当てはまるのかまでは整理できていません」

江尾社労士:「では一つずつ見ていきましょう。まず、第22条第1Aに『自己の職務は正確かつ迅速に処理し、常にその能率化を図るよう努めること』とあります。検品作業中に手を止めておしゃべりに興じる行為は、まさにこの規定に抵触します。次に、同号Cの『労働時間中は定められた職務に専念し、許可なく職場を離れ、または他の者の業務を妨げるなど、職場の風紀や秩序を乱さないこと』。長時間のおしゃべりは本人の職務専念義務違反であると同時に、相手方の業務も妨害しているわけです」

画猫さん:「確かに……。スマートフォンの件はどうでしょうか」

江尾社労士:「これは明確です。第22条第3@に『会社の許可なく、業務中に私用で携帯情報端末などを使ってはならない』と定められています。倉庫の奥でスマートフォンをいじっていたのですから、この規定にもろに該当します。さらに、3日間の無断欠勤については第21条の欠勤届出義務違反です。同条では『欠勤においてやむを得ない事由により事前に届け出ることができない場合は、原則として本人が直接、電話にて会社(上長)へ連絡し』と定めていますから、無断で3日間休むのは明らかな規則違反になります」

画猫さん:「こうして条文と照らし合わせると、Aさんの行為は1つや2つではなく、複数の服務規律に違反しているんですね」

 

■ 「辞めますけど?」を退職の意思表示として扮ってよいのか

画猫さん:「先生、気になるのはAさんの『辞めますけど?』という発言なんです。あれを退職の意思表示と受け取って、『わかりました』と応じてしまっても大丈夫なのでしょうか」

江尾社労士:「ここは実務上とても重要なポイントです。結論から言うと、安易に退職の申出として扱うのは危険です。Aさんの『辞めますけど?』という発言は、文脈から見て、注意されたことへの反発・不満の表明であって、本気で労働契約を終了させる意思表示とは評価しにくいからです」

画猫さん:「でも、本人が辞めるって言っているわけですよね?」

江尾社労士:「言葉だけを切り取ればそうですが、退職の意思表示というのは、『労働契約を終了させるという確定的な意思を、相手方が了解し得る形で表示すること』が必要です。判例でも、売り言葉に買い言葉で辞めると言ったケースや、感情的な場面での発言は、真意に基づく退職の意思表示とは認められないことがあります。もしここで会社が『では退職届を出してください』と進めてしまい、後からAさんが『あれは本気じゃなかった。退職に追い込まれた』と主張すれば、実質的な退職勧奨、場合によっては退職強要と評価されるリスクがあります」

画猫さん:「それは困ります……。では、Aさんの発言に対してはどう対応すればいいんでしょうか」

江尾社労士:「注意・指導の場面でAさんが『辞める』と言ったら、その場では受け流すのが鉄則です。たとえば、『今は辞める・辞めないの話をしているのではありません。今お伝えしているのは、業務中のスマートフォン使用についてです。就業規則で禁止されている事項ですから、今後は守ってください』と、論点を注意指導の内容に引き戻すこと。これが基本姿勢です」

 

■ 懲戒の2段階構造と段階的対応の組み立て

江尾社労士:「そして、ここからが今回の核心なのですが、Aさんのようなケースでは段階的な対応を記録として残すことが極めて重要です。画猫さん、懲戒規定の第28条から第30条をあらためて確認しましょう」

画猫さん:「第29条で懲戒の種類は戒告と懲戒解雇の2種類ですよね。……あれ、中間がないんですね」

江尾社労士:「そうなんです。正社員の就業規則では『けん責減給出勤停止降格諭旨解雇懲戒解雇』のように段階が細かく設けられていることが多いのですが、パートタイム社員就業規則では戒告と懲戒解雇の2段階しかありません。Aさんのようにすぐに解雇するほどではないが、戒告だけでは改善しないというケースでは、この2段階構造が悩みの種になります」

画猫さん:「まさにAさんがそれです。いきなり懲戒解雇は重すぎるけど、戒告では響かない気がします」

江尾社労士:「ですから実務的には、次のようなステップで進めることをお勧めします。第1段階として、まず口頭での注意指導を行います。この際、日時・場所・指導内容・Aさんの反応を必ず記録しておきます。指導の根拠は第22条の服務心得です。第2段階として、口頭指導で改善が見られなければ、第29条第1号の戒告処分を行います。文書で、何がどの規定に違反しているのか、今後どうすべきかを明確に伝えます。そして第3段階として、戒告を受けてもなお改善しない場合は、第30条第2号Eの『懲戒処分を複数回にわたって受け、改善の見込みがない』に該当する可能性が出てきます。あるいは、懲戒ルートとは別に、第32条の普通解雇を検討する道もあります」

画猫さん:「第32条の普通解雇……。具体的にはどの事由に当たるのでしょうか」

江尾社労士:「第32条第5号の『能力の不足、誠実勤務義務の不履行などにより遍行すべき業務について完全な提供ができない』、あるいは同条第6号の『規律性、協調性、責任性を欠くため事業運営に悪影響を及ぼす』が該当し得ます。ただし、普通解雇であっても労働契約法第16条の解雇権濫用法理は適用されます。客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でなければ、解雇は無効になります」

画猫さん:「ということは、いきなり解雇するのではなく、段階的に指導・処分した記録を積み上げておくことが、結果的に解雇の合理性を支える証拠にもなるわけですね」

 

■ 黙認のリスクと記録の重要性

江尾社労士:「沖縄の方言でなんくるないさー(なんとかなるさ)とよく言いますが、労務管理においてはなんくるならんこともあるんですよ。つまり、放っておいてもなんとかならないということです。記録を残さないまま時間が経てば経つほど、会社としては『問題を黙認していた』と評価されてしまいます。黙認の状態が長期化すると、後からの指導や処分の正当性が弱まるんです」

画猫さん:「耳が痛い話です……。実は、B課長がAさんに最初に注意したのは半年くらい前なんですが、その記録がほとんど残っていなくて」

江尾社労士:「残念ですが、記録がない指導はなかったことと同じです。今からでも遅くはありませんので、今日この時点から記録を開始してください。指導記録のフォーマットとしては、@日時、A場所、B指導者、C指導の対象となった具体的行為、D指導の内容、E本人の反応と発言、F今後の改善事項と期限。この7項目を押さえれば十分です」

 

■ 有期契約特有の論点──契約期間中の解雇と雇止め

画猫さん:「ところで先生、もう一つ気になることがあります。他のパート社員から不公平だという声が上がっていると申し上げましたが、この問題を放置すると他の方への影響も大きいですよね」

江尾社労士:「非常に重要な指摘です。このケースの本質的なリスクは“Aさん個人の問題にとどまらないんです。厨生労働省が公表している『令和5年雇用動向調査』によれば、パートタイム労働者の離職理由として『職場の人間関係が好ましくなかった』が上位に入っています。Aさんのようなケースを放置すると、真面目に働いている他のパート社員が『ルールを守っても守らなくても同じ扱いなら、まじめにやる意味がない』と感じ、モチベーションが低下します。最悪の場合、優秀な人材が先に辞めていってしまう。これを逆淘汰と言います」

画猫さん:「まさに今、その兆候が出ています。勤続5年のベテランパートのCさんが、先日『Aさんの件が解決しないなら、私も考えます』とB課長に漏らしていたそうで……

江尾社労士:「それは深刻ですね。そして、Aさんは有期労働契約ですよね。契約の更新時期はいつですか?」

画猫さん:「来年の3月末です。まだ半年以上先ですが……

江尾社労士:「有期契約の場合、契約期間中の解雇は『やむを得ない事由』が必要で、無期契約よりもハードルが高くなります(労働契約法第17条第1項)。一方で、契約更新のタイミングであれば、更新基準に照らして雇止めという選択肢もあり得ます。ただし、これまで契約を更新してきた実績があり、Aさんが更新を期待する合理的理由がある場合は、労働契約法第19条の雇止め法理が適用される可能性がありますから、そこでも日頃の指導記録や改善指示の証拠が鍵になります」

画猫さん:「結局、どのルートを取るにしても、記録が要なんですね」

江尾社労士:「おっしゃるとおりです。指導改善猶予再指導戒告処分再度の改善猶予。この流れを記録とともに積み上げていけば、最終的に普通解雇や雇止めの判断に至った場合でも、会社として十分な手を尽くしたという説明ができます。逆に、記録なく感情的に対応してしまうと、会社側が不利になります」

 

■ 管理職を孤立させない──組織的対応の重要性

画猫さん:「それと、B課長のメンタル面も心配なんです。注意するのが怖いという状態は、管理職としてかなり追い詰められていますよね」

江尾社労士:「いい着眼点です。実は、この手のケースでは管理職のバーンアウトも大きなリスクです。B課長には、今回の対応は『B課長個人の判断ではなく、会社としての組織的な対応である』ということを明確に伝えてあげてください。面談にはB課長だけでなく、画猫さんか、あるいは人事部門の責任者も同席すること。個人対個人の構図にしないことが、管理職を守ることにもつながります。また、第22条第2号@には『会社の命令および規則に違反または反抗し、その業務上の指示および計画を無視してはならない』とあります。注意指導に対して『辞めます』と反発するAさんの態度自体が、この規定に抵触する可能性があることもB課長にお伝えください。B課長の指導は正当な業務命令の範囲内であり、何も後ろめたいことはないんです」

 

■ 具体的な対応手順の整理

画猫さん:「では、今回のAさんのケースについて、具体的にどういう手順で進めればいいか、整理していただけますか」

江尾社労士:「まず直近で行うべきこととして、B課長とともにAさんとの面談を設定してください。面談では、第22条の服務心得に基づき、@業務中の私用スマートフォン使用の禁止(第22条第3号@)、A業務時間中の職務専念義務(第22条第1号AC)、B欠勤時の届出義務(第21条)、これら3点について、具体的な事実を示しながら注意指導を行います。指導の記録は必ず書面に残し、可能であればAさんにも確認のサインをもらってください。サインを拡否した場合は、拡否した事実自体を記録に残します」

画猫さん:「もし面談の場でまた『辞めます』と言い出したら?」

江尾社労士:「先ほどお伝えしたとおり、論点をずらさず、『今は退職の話をしていません。業務改善について話し合っています』と冷静に伝えてください。そして面談後に改善が見られない場合は、第28条に基づく懲戒手続に移行します。第28条第2項では『事実確認、事情聴取、弁明の機会、異議申し立ての受付などを行い検討し』と定められていますから、この手続を丁寧に踏むことが大切です。手続を省略すると、仮に懲戒処分が正当な内容であっても、手続違反を理由に処分の効力を争われるリスクがあります」

 

■ Aさん自身への姿勢──“伝える毅然とするの両立

江尾社労士:「そして一つだけ付け加えるなら、Aさん自身に対しても、頭ごなしに叱るのではなく、『会社として何を期待しているのか、規則としてどこまでが許容範囲なのか』を丁寧に伝える姿勢は忘れないでください。もしかすると、Aさんはこれまでの職場でそこまで厳しく言われたことがなかったのかもしれません。仕事観の違いというのは、環境によって形成される部分も大きいですから。ただし、伝えるべきことを伝えた上でなお改善が見られないなら、それは会社として毅然と対応する場面です。就業規則は、そのためにあるんですから」

 

おわりに

画猫さん:「先生、今日は本当に勉強になりました。注意したら辞める・放っておけばサボるというのは、結局、段階的・組織的に対応することでしか解決できないんですね」

江尾社労士:「そのとおりです。就業規則は、会社を守る盾であり、従業員を守る傘でもある。今回のケースで言えば、規則に基づいて段階的に対応することは、Aさんに対しても『あなたには改善の機会をちゃんと与えましたよ』というメッセージになる。そして、他の真面目なパート社員のみなさんに対しては、『会社はちゃんと見ていますよ。ルールを守る人が損をする職場にはしません』というメッセージにもなる。それが、規則を活かすということの本質です」

 

参照条文一覧

 

条文番号

条文タイトル

主な関連ポイント

21

欠勤、遅刻、早退など

無断欠勤の届出義務違反

22条第1AC

服務心得(遵守事項)

職務専念義務、能率向上義務

22条第1B

服務心得(遵守事項)

会社方針の認識・協力義務

22条第2@

服務心得(誠実義務違反等の禁止)

業務上の指示への違反・反抗の禁止

22条第3@

服務心得(私的行為の禁止)

業務中の私用携帯端末使用の禁止

28

懲戒

懲戒手続(事実確認・弁明の機会等)

29

懲戒の種類と内容

戒告・懲戒解雇の2段階構造

30条第1

懲戒事由の適用(戒告)

不就労、規則違反行為への戒告処分

30条第2E

懲戒事由の適用(懲戒解雇)

複数回の懲戒処分後の改善見込みなし

32条第5

普通解雇

誠実勤務義務の不履行

32条第6

普通解雇

規律性・協調性・責任性の欠如

34条第2

一般退職

自己都合退職の届出手続

 

社会保険労務士 江尻育弘