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就業規則の読み方・活かし方1

第1章 総則

今回取り上げる労務問題

・パート社員から「正社員と同じ有給休暇をもらえるのか」と聞かれたときの対応

・就業規則の適用範囲と雇用区分の考え方

・用語の定義がトラブル予防に果たす役割

 

はじめに

「私も正社員と同じように有給休暇を20日もらえますよね?」

パート社員からこう聞かれたとき、あなたは自信を持って答えられますか? 就業規則は「誰に」「何が」適用されるのかを明確にしておかなければ、こうした質問に正確に答えることはできません。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。「総則」の読み方を通じて、就業規則の土台がいかに重要かを学んでいきましょう。

 

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

 

トラブル1:「正社員と同じ有給がもらえますよね?」パート社員への説明

画猫さん:「江尾先生、今日はよろしくお願いします。実は先週、パート社員のAさんから『私も正社員と同じように有給休暇を20日もらえますよね?』って聞かれて、うまく説明できなくて困ったんです」

江尾社労士:「それは大事な場面でしたね。まさにそういうときこそ、就業規則の第1章『総則』が威力を発揮するんですよ。総則というのは、家で例えるなら『土台』や『設計図』のようなものなんです」

画猫さん:「土台、ですか?」

江尾社労士:「ええ。就業規則全体の基本的なルールを示す部分です。今日は、Aさんとのやり取りを例に、第1章の重要性を一緒に見ていきましょう。まず、第1条の『目的』から始めますね」

1条:目的──なぜこのルールがあるのか

江尾社労士:「第1条には、『組織運営の秩序を維持し、業務の円滑な運営を期すため』と書かれています。これ、堅苦しく聞こえますが、要するに『みんなが気持ちよく働けて、会社もちゃんと回るようにするためのルールブック』ということなんです」

画猫さん:「なるほど。でも、これとAさんの質問がどう関係するんでしょうか?」

江尾社労士:「いい質問ですね。実は、この第1条で大事なのは『正社員の就業に関する』という部分です。つまり、この就業規則は『正社員』を対象にしているということが、最初から宣言されているんです」

画猫さん:「あっ!ということは、Aさんはパート社員だから、そもそもこの規則の対象じゃないってことですか?」

江尾社労士:「その通りです!それを明確に示しているのが第2条なんです」

2条:適用範囲──このルールは誰のためのもの?

江尾社労士:「第2条を見てください。『この規則は、正社員として採用された者、または他の雇用区分から正社員へ区分変更された者について適用する』と書かれていますね」

画猫さん:「はい、読みました」

江尾社労士:「さらに重要なのが第2項です。『次の雇用区分に該当する者には本規則は適用しない』として、契約社員、パート社員、嘱託社員、内定者などが明記されています。Aさんはパート社員ですから、この正社員就業規則は『適用されない』んです」

画猫さん:「じゃあ、Aさんには別の規則があるんですか?」

江尾社労士:「まさにそこがポイントです。パート社員には『パート社員就業規則』という別の規則があるはずです。そこにはパート社員向けの有給休暇の付与日数が書かれているんですよ。正社員は入社6ヶ月後に10日もらえて、勤続年数に応じて増えていき、最終的には20日になります。一方、パート社員は勤務日数に応じた比例付与という形になります」

画猫さん:「そうだったんですね。でも、どうして雇用区分ごとに分ける必要があるんでしょうか?全部一緒じゃダメなんですか?」

江尾社労士:「良い疑問ですね。これには大きく2つの理由があります。1つ目は『働き方の違い』です。正社員は週5日フルタイムで、転勤や配置転換もあります。一方、パート社員は週3日だけとか、短時間勤務の方が多いですよね。同じルールを当てはめようとすると、かえって不公平になってしまうんです。2つ目は『法的な要請』です。同一労働同一賃金のルールで、正社員とパート社員の違いを明確にすることが求められています。だからこそ、それぞれの雇用区分の定義をはっきりさせる必要があるんです」

3条:用語の定義──言葉の意味を統一する

画猫さん:「なるほど。でも先生、第3条の『用語の定義』って、なんだか当たり前のことが書いてあるように見えるんですが

江尾社労士:「実はここが、トラブル予防の要なんです。例えば『会社』という言葉。画猫さんは『会社』って聞いて、誰を思い浮かべますか?」

画猫さん:「えっと、社長とか、役員の方々ですか?」

江尾社労士:「そうですね。でも第3条では、『経営者はじめ、その事業の労務管理に関する事項について経営者のために行為をするすべての者』と定義されています。つまり、人事部の部長や課長も含まれるんです」

画猫さん:「ああ、そういうことか!じゃあ、上司が『会社として決めたから』と言ったとき、それは本当に『会社』の意思なんですね」

江尾社労士:「その通りです。次に『社員』の定義を見てください。『会社の指揮命令を受けて労務提供をする義務を負う者』とあります。これは正社員だけじゃなく、契約社員もパート社員も含む概念なんです」

画猫さん:「え、そうなんですか?でも正社員とパート社員は違いますよね?」

江尾社労士:「そこで重要なのが、さらに細かく書かれている『雇用区分』です。正社員、契約社員、パート社員、臨時雇用社員、嘱託社員と、それぞれの定義が書かれていますね。例えば、パート社員は『短時間勤務で有期労働契約または無期労働契約を締結した者』と定義されています。この定義があるから、Aさんは『社員』ではあるけれど『正社員』ではない、だから正社員就業規則は適用されない、という論理がはっきりするんです」

実際の対応方法

画猫さん:「先生、じゃあAさんには、どう説明すればよかったんでしょうか?」

江尾社労士:「こんな風に説明するといいですよ。『Aさん、有給休暇について質問ありがとうございます。実は、当社には正社員用とパート社員用で別々の就業規則があるんです。正社員就業規則の第2条に書かれているんですが、パート社員の方には別の規則が適用されます。Aさんの場合、パート社員就業規則に基づいて、勤務日数に応じた有給休暇が付与されます。一度、パート社員就業規則をお見せしましょうか?』」

画猫さん:「なるほど!ちゃんと条文を示しながら説明すれば、納得してもらえそうですね」

江尾社労士:「そうなんです。就業規則は、従業員との約束事を文章にしたものです。曖昧な説明をするのではなく、『ここにこう書いてあります』と示せることが大切なんです」

 

おわりに

江尾社労士:「最後に、第1章の総則が何を守っているのか、まとめておきましょう。第一に『会社を守る』。適用範囲を明確にすることで、『言った言わない』のトラブルを防ぎます。第二に『従業員を守る』。自分がどのルールの対象なのか分かることで、安心して働けます。第三に『公平性を守る』。同じ雇用区分の人には同じルールが適用されるという、公平な仕組みを作ります」

画猫さん:「総則って、地味に見えて、実はすごく重要なんですね」

江尾社労士:「その通りです。家の土台がしっかりしていないと、どんなに立派な家を建てても傾いてしまいます。就業規則も同じです。第1章がしっかりしていれば、その後の条文もスムーズに理解できますし、トラブルも減らせるんです」

画猫さん:「わかりました!早速、Aさんにもう一度、丁寧に説明してみます」

江尾社労士:「それがいいですね。そして、もし他のパート社員からも同じような質問が出たら、それはパート社員就業規則の説明が不足しているサインかもしれません。入社時のオリエンテーションで、適用される規則をしっかり説明することも大切ですよ」

画猫さん:「なるほど。予防的な対応も必要なんですね。今日は本当にありがとうございました。就業規則の見方が変わりました!」

江尾社労士:「それは良かったです。次回は第2章の『採用』について、具体的な事例を交えてお話ししましょう。新しい疑問があったら、いつでも連絡してくださいね」

 

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連内容

1

目的

就業規則の対象と方向性

2

適用範囲

雇用区分ごとの適用・除外

3

用語の定義

会社・社員・雇用区分の定義

 

社会保険労務士 江尻育弘