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就業規則の読み方・活かし方2

第2章 採用

今回取り上げる労務問題

・履歴書の学歴詐称が発覚した新入社員への対応

・無断欠勤を繰り返す試用期間中の社員と本採用の判断

・外国人社員を採用する際の在留資格の確認と注意点

 

はじめに

採用は会社の入口であり、会社と社員の信頼関係を築く第一歩です。しかし、その入口でつまずくケースは少なくありません。履歴書に書かれた学歴が実は違っていた、試用期間中に問題行動が目立つようになった、外国人の採用で法的な確認を怠ってしまった──

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。「採用」に関する3つのトラブルを通じて、就業規則の読み方を学んでいきましょう。

 

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

 

トラブル1:「大学卒業」が嘘だった──履歴書の学歴詐称が発覚

画猫さん:「江尾先生、今日はよろしくお願いします。実は最近、採用関係でいくつか困ったことが起きてしまって

江尾社労士:「画猫さん、こんにちは。採用は会社の入口ですから、とても大切ですよね。どんなことがあったんですか?」

画猫さん:「はい。先月、新入社員のAさんを採用したんですが、入社後に提出してもらった履歴書の学歴が実は違っていたことが判明したんです。本人は『大学を卒業した』と書いていたんですが、実際には中退していて。これって問題ですよね?」

江尾社労士:「なるほど、それは深刻な問題ですね。まず、就業規則の第42項を見てみましょう。採用時に提出してもらう書類の中に『履歴書』がありますよね。そして第53項のC番を見てください。『学歴、経歴または資格などを偽っていたことが判明したとき』は、試用期間中または試用期間満了時に本採用しないことができると書いてあります」

画猫さん:「あ、本当ですね。でも、Aさんはもう2ヶ月働いているんです。仕事ぶりは悪くないんですが、やはり学歴を偽ったことは問題ですよね?」

江尾社労士:「そうですね。ここで大切なのは、『その学歴が採用の判断に本当に影響したかどうか』なんです。例えば、その仕事に大学卒業が絶対に必要な条件だったのか、それとも学歴はあまり重視していなかったのか。採用募集の際の条件を確認してみてください」

画猫さん:「募集要項を見ると『高卒以上』となっていました。大学卒業は必須条件ではなかったんです」

江尾社労士:「なるほど。それなら状況は少し変わってきます。ただし、虚偽の申告をしたこと自体は問題です。第5条では試用期間を6ヶ月と定めていますから、この期間内であれば本採用を見送ることも可能です。しかし、学歴が必須条件でなかった場合、いきなり本採用しないという判断は難しいかもしれません」

画猫さん:「では、どうすればいいんでしょうか?」

江尾社労士:「まず、Aさんと面談をして、なぜ学歴を偽ったのか、正直に事情を聞くことが大切です。そして、今後は正直に働く姿勢を持ってもらうこと。場合によっては、戒告や譴責といった軽い懲戒処分を検討することもあります。そして、試用期間中の勤務態度を引き続き注意深く観察することですね。第52項に『試用期間中の勤務態度、健康状態、発揮された能力などを総合的に勘案』して本採用を決めると書いてありますから」

画猫さん:「わかりました。面談をして、しっかり話を聞いてみます」

 

トラブル2:無断欠勤が止まらない──試用期間中の社員をどうする?

画猫さん:「実は、もう一つ相談があるんです」

江尾社労士:「どうぞ、何でも聞いてください」

画猫さん:3ヶ月前に採用したBさんという方がいるんですが、最近、無断欠勤が増えてきて。連絡もなく休むことが月に23回あります。上司が注意しても改善されないんです。試用期間はあと3ヶ月残っているんですが、このまま本採用していいのか不安で」

江尾社労士:「それは困りましたね。第53項の@番を見てください。『会社が認める正当な理由のない遅刻、早退、欠勤などの不就労が複数回あったとき』は、本採用をしないことができると明記されています」

画猫さん:「はい、ありますね」

江尾社労士:「試用期間というのは、会社と社員がお互いに『本当に一緒に働いていけるか』を確認する期間なんです。中学校で例えるなら、部活動の仮入部期間のようなものです。仮入部中に『この部活は自分に合わないな』と思ったら辞められますし、部活側も『この子はうちの部活には合わないかも』と判断することができますよね」

画猫さん:「なるほど、わかりやすいです!」

江尾社労士:「ただし、本採用を見送る前に、必ずやらなければならないことがあります。第53項のA番を見てください。『注意を与えても、会社の規則や指示などに従わない』という部分です。つまり、ちゃんと注意や指導をした記録が必要なんです」

画猫さん:「上司が口頭で注意はしているんですが、記録は残していないかもしれません」

江尾社労士:「それは問題ですね。もし本採用を見送る場合、『なぜ本採用しなかったのか』を説明できる客観的な証拠が必要です。注意書や面談記録を作成して、日付と内容をしっかり記録しておくことが大切です。そして、改善の機会を与えることも重要です。『あと何回無断欠勤があったら本採用は難しい』と具体的に伝えることで、本人も変わるチャンスが生まれます」

画猫さん:「なるほど。まずはしっかり記録を残すこと、そして改善の機会を与えることですね」

江尾社労士:「その通りです。それから、もう一つ重要なことがあります。第51項の後半を見てください。試用期間を延長することもできると書いてありますよね」

画猫さん:「本当ですね。『試用期間中に本採用の可否を判断しかねると会社が認めた場合は、当該正社員と協議のうえ、6ヶ月以内でこの期間を延長することがある』と書いてあります」

江尾社労士:「はい。Bさんの場合、もし今後の2ヶ月で改善の兆しが見えたけれど、まだ本採用を決めるには不安が残るという状況であれば、本人と話し合って試用期間を延長することも選択肢の一つです。ただし、『協議のうえ』とありますから、一方的に延長を通告するのではなく、本人の同意を得ることが必要です」

画猫さん:「試用期間を延長するなんて、考えたこともありませんでした。でも、そういう選択肢があるんですね」

江尾社労士:「そうなんです。すぐに『本採用しない』という判断をするのではなく、段階的に対応することが大切です。それが会社にとっても、社員にとっても良い結果につながることが多いんですよ」

 

トラブル3:外国人社員の採用──在留資格の確認を忘れずに

画猫さん:「もう一つ質問があるんですが、先週、外国人のCさんを採用する予定なんです。就業規則に何か特別な注意点はありますか?」

江尾社労士:「いい質問ですね。第42項のD番を見てください。『外国人の場合は、在留資格(就労ビザ)を証明する書類』と明記されています。これは絶対に確認しなければなりません」

画猫さん:「在留資格ですか?」

江尾社労士:「はい。日本で働くことができる資格のことです。例えば、留学生が持っている『留学』という在留資格では、原則として週28時間までしか働けません。フルタイムで雇用する場合は、『技術・人文知識・国際業務』などの就労が認められる在留資格に変更してもらう必要があります」

画猫さん:「そうなんですか!知りませんでした」

江尾社労士:「在留資格を確認せずに雇用すると、会社も罰せられる可能性があります。ですから、採用前に必ず在留カードを確認して、その在留資格でどのような仕事ができるのかをチェックすることが大切です。そして、その確認した書類のコピーを保管しておくこと。第43項にも個人番号の提示を求めることができると書いてありますが、外国人の場合は在留カードが最も重要な確認書類になります」

画猫さん:「わかりました。在留カードをしっかり確認します。あと、もし在留期間が切れそうになったらどうなるんですか?」

江尾社労士:「第41条のD番を見てください。『外国人で在留資格を喪失したとき』は、在留資格期間の最終日をもって退職となると定めています。ですから、採用後も在留期間の更新時期を管理して、更新手続きが適切に行われているか確認することが人事部の重要な仕事になります」

画猫さん:「なるほど。採用後も継続的な管理が必要なんですね」

江尾社労士:「その通りです。それから、第42項に書かれている提出書類について、もう一度確認しましょう。特に重要なのが、B番の健康診断書です。入社日前3ヶ月以内のものと指定されていますよね」

画猫さん:「はい。でも、これってどうして必要なんですか?」

江尾社労士:「会社には『安全配慮義務』というものがあるんです。簡単に言うと、働く人の健康と安全を守る責任です。採用時に健康状態を確認しておくことで、その人に合った仕事を配置したり、必要な配慮をしたりすることができます。例えば、腰に持病がある人に重い荷物を運ぶ仕事をさせると、悪化してしまう可能性がありますよね」

画猫さん:「そうですね。本人のためでもあるんですね」

江尾社労士:「はい。そして第44項も大切です。『提出された個人情報については、会社は人事労務管理上の手続きにおいてのみ使用する』と明記されています。履歴書や健康診断書には、たくさんの個人情報が含まれています。これらの情報を採用目的以外に使ったり、むやみに他の人に見せたりしてはいけません」

画猫さん:「個人情報の管理も重要ですね。気をつけます」

 

おわりに

江尾社労士:「最後に、試用期間について大切なことを一つ。第52項に『原則として試用期間満了日までに本採用の可否を決定し、本人に通知する』とあります。試用期間が終わる直前になって慌てて判断するのではなく、試用期間中に定期的に面談をして、どこが良くてどこを改善すべきか、本人にフィードバックすることが大切です」

画猫さん:「定期的なフィードバックですか」

江尾社労士:「そうです。例えば、試用期間が6ヶ月なら、2ヶ月ごとに面談をして、本人の成長を確認したり、課題を共有したりする。そうすることで、もし本採用を見送ることになっても、本人も納得しやすくなります。突然『本採用しません』と言われるより、『2ヶ月前、4ヶ月前の面談でも伝えていた課題が改善されなかったので』と説明できる方が、トラブルも少なくなります」

画猫さん:「なるほど。試用期間は評価の期間でもあり、育成の期間でもあるんですね」

江尾社労士:「その通りです。素晴らしい理解ですね。採用というのは、人を選ぶだけでなく、その人が会社で活躍できるようにサポートする始まりでもあるんです。就業規則の第2章は、その大切な入口を定めたものなんですよ」

画猫さん:「今日は本当にありがとうございました。就業規則を読むだけでなく、実際の場面でどう使うのかがよくわかりました」

江尾社労士:「画猫さん、これからも困ったことがあったら、まず就業規則を開いて、関連する条文を探してみてください。そして、わからないことがあれば、いつでも相談してくださいね。採用は会社の未来を作る大切な仕事です。一緒に頑張りましょう」

画猫さん:「はい!これからはもっと就業規則を活用していきます。ありがとうございました!」

 

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

4

採用

トラブル13

5

試用期間

トラブル12

41

一般退職

トラブル3

 

社会保険労務士 江尻育弘