トップ
事務所案内
サービス案内
人事労務ニュース
就業規則
沖縄情報
お問合せ

就業規則の読み方・活かし方4

第4章 労働時間、休憩時間、休日および休暇

今回取り上げる労務問題

・休日出勤後の「振替」と「代休」の違いを理解していなかった残業代トラブル

・有給休暇の申請を上司が一方的に断った問題と時季変更権の正しい使い方

・残業の事前申請制度の導入と年5日の有給休暇取得義務への対応

・始業時刻ギリギリに来る社員と業務終了後に居残る社員への対応

 

はじめに

「残業代の計算がおかしい」「有給休暇を断られた」「始業時刻って何時から?」──労働時間をめぐるトラブルは、労務管理の現場で最も多く発生する問題の一つです。振替と代休の違い、時季変更権の正しい使い方、残業の事前申請制度など、知っているようで意外と正確に理解されていないルールが数多くあります。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。「労働時間、休憩時間、休日および休暇」に関する4つのトラブルを通じて、就業規則の読み方を学んでいきましょう。

 

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

 

トラブル1:「残業代の計算がおかしい!」──振替と代休の違い

画猫さん:「江尾先生、困ったことが起きてしまって。営業部のAさんから『残業代の計算がおかしい』ってクレームが来たんです」

江尾社労士:「なるほど。具体的にどういう状況だったのか教えてもらえますか?」

画猫さん:「先月、Aさんは日曜日に会社のイベントで出勤したんです。その翌週の水曜日に代わりに休んでもらったんですが、Aさんは『日曜日に働いたのに残業代が出ていない』って

江尾社労士:「ああ、これは『休日の振替』と『代休』の違いが理解されていない典型的なケースですね。画猫さん、この二つの違いはご存じですか?」

画猫さん:「えっとどちらも休みを別の日に変えることじゃないんですか?」

江尾社労士:「そう思われがちなんですが、実は全く違うんです。分かりやすく説明しますね。まず『休日の振替』というのは、事前に『日曜日を労働日にして、代わりに水曜日を休日にしますよ』と約束して交換することです。これをやると、日曜日は『労働日』になるので、普通の勤務として扱われます。だから、基本的には残業代は発生しません」

画猫さん:「なるほど事前に決めるんですね」

江尾社労士:「そうです。一方『代休』は、休日に働いた後で、『お疲れ様でした。代わりに別の日に休んでいいですよ』という会社の好意なんです。就業規則の第11条の2に『正社員を休日に労働させた場合は、会社の判断により、代休を与えることがある。なお、代休を取得した日については賃金を支払わない』と書いてあります。でも、日曜日に働いた事実は消えません。だから、休日労働として割増賃金を払う必要があります」

画猫さん:「じゃあ、今回のAさんのケースは

江尾社労士:「事前に振替の手続きをしていなかったなら、『代休』扱いになります。つまり、日曜日の労働には休日労働手当(1.35倍)を払って、水曜日に休んだ分は欠勤として賃金を引く、という処理になるはずです」

画猫さん:「えっ!そうなんですか!? 実は何も払っていなくて

江尾社労士:「それは問題ですね。就業規則の第11条『休日の振替』を見てください。ここには『業務の都合により、休日を他の労働日に振替えることがある。この場合、その振替の対象となる休日または労働日の前日までに通知する』と書いてあります。つまり、事前通知が必須なんです。これを守っていないと、振替として認められない可能性が高いです」

画猫さん:「どうすればよかったんでしょうか?」

江尾社労士:「イベントが決まった時点で、Aさんに『日曜日に出勤してもらって、水曜日を休日に振り替えます』と文書で通知しておけばよかったんです。できれば1週間前には。そうすれば、割増賃金は発生しませんでした」

画猫さん:「今からでも間に合いますか?」

江尾社労士:「残念ですが、すでに労働が終わった後では振替はできません。今回はAさんに休日労働手当を支払って、今後は振替をする場合は必ず事前に手続きを踏むようにしましょう」

 

トラブル2:「有給休暇を断られた」──時季変更権の正しい使い方

画猫さん:「実は、もう一つ相談があって。経理のBさんが『有給休暇を申請したら断られた』って人事部に相談に来たんです」

江尾社労士:「それは、誰が何の理由で断ったんですか?」

画猫さん:「部長のCさんが『その日は月末で忙しいから別の日にしてくれ』って。これって問題ないですよね?」

江尾社労士:「うーん、実はこれ、やり方によっては問題になる可能性があります。有給休暇は従業員の権利なんです。会社が勝手に『ダメ』とは言えません」

画猫さん:「えっ、でも月末の忙しい時期に休まれたら困ります

江尾社労士:「そうですよね。だから、法律では会社に『時季変更権』という権利を認めています。これは『事業の正常な運営を妨げる』場合に限って、『その日は無理だから、別の日にしてもらえませんか』とお願いできる権利です」

画猫さん:「じゃあ、C部長の対応は正しかったんですね」

江尾社労士:「いえ、実は問題がありました。就業規則の第15条第3項を見てください。ここには『正社員が年次有給休暇を取得する場合は、特別の理由がない限り、少なくとも取得を予定する日の2労働日前までに届け出を行い、会社はその指定する時季に取得させる。ただし、事業の正常な運営を妨げると会社が認めた場合は、正社員が指定した日を変更することがある』と書いてあります。Bさんはいつ申請したんですか?」

画猫さん:「確か…1週間前だったと思います」

江尾社労士:「それなら、申請のタイミングは問題ありません。ただし、時季変更権を使うには、本当に『事業の正常な運営を妨げる』ことを証明できなければいけません。例えば、Bさんが休むとその日の業務が完全にストップしてしまう、他に代わりの人が誰もいない、などの状況です」

画猫さん:「経理は他にDさんとEさんもいますが

江尾社労士:「それなら、少し厳しいかもしれませんね。『忙しい』というだけでは、時季変更権を使う理由としては弱いです。できれば、BさんとC部長で話し合って、双方が納得できる日に変更してもらうのが一番です」

画猫さん:「なるほど一方的に断るんじゃなくて、話し合うんですね」

 

トラブル3:残業を減らしたい──事前申請制度と年5日の有給取得義務

画猫さん:「先生、最近残業が増えていて、コストも心配なんです。『残業は事前に申請してから』というルールにしたいんですが、これって可能ですか?」

江尾社労士:「とてもいい質問ですね。実は、御社の就業規則の第12条第3項に、すでにそのルールが書いてあるんですよ。ここには『正社員は、業務を所定労働時間内に終了することを原則とする。ただし、業務の進捗によりやむを得ず所定時間外労働または休日労働の必要があると自ら判断した場合は、事前に会社の許可を得るものとする』と書いてあります」

画猫さん:「本当ですか!?」

江尾社労士:「はい。つまり、原則として残業は禁止で、どうしても必要な場合だけ、事前に許可を取ってもらう制度にできるんです。ちなみに、第12条第1項には『業務の都合により、所定労働時間外および休日に、正社員を労働させることがある』、第2項には『正社員は、会社が認める正当な理由なく、所定時間外労働および休日労働を拒むことはできない』とも書いてあります」

画猫さん:「それは助かります!でも、これを守らずに勝手に残業した人には、残業代を払わなくてもいいんですか?」

江尾社労士:「それは難しいですね。たとえ会社の許可がなくても、実際に労働していたことが明らかなら、残業代は払わないといけません。ただし、無断で残業を繰り返す人には、服務規律違反として注意や指導をすることはできます」

画猫さん:「なるほどじゃあ、どうすれば無駄な残業を減らせますか?」

江尾社労士:「まず、残業が本当に必要かどうかを上司がチェックする仕組みを作ることです。例えば、残業申請書を提出させて、上司が承認するフローにする。そして、承認なしで残業した場合は、なぜそうなったのか理由を聞いて、改善を促す。これを続けることで、社員の意識も変わってきます」

画猫さん:「分かりました!早速、申請フォームを作ります」

江尾社労士:「それから、もう一つ大事なことがあります。就業規則の第15条第6項を見てください。ここには『第1項および第2項の年次有給休暇が付与された正社員に対しては、付与日から1年以内に、当該正社員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が正社員の意見を聴取し、事前に時季を指定して取得させる』と書いてあります。つまり、会社には『年5日』の有給休暇を社員に取らせる義務があるんです。これは法律で決まっています」

画猫さん:「聞いたことあります!でも、忙しくて休めない人もいて

江尾社労士:「それは会社の責任になってしまいます。先ほどの第15条第6項に書いてあるように、会社が時季を指定して取得させることができます。『会社が正社員の意見を聴取し、事前に時季を指定して取得させる』とありますよね。例えば、年度の初めに『いつ有給を取りますか?』と計画を立ててもらって、取得日が少ない人には『この週に休んでください』と指定するんです」

画猫さん:「なるほど。計画的に休ませるんですね」

江尾社労士:「そうです。そうすることで、社員の健康も守れますし、会社も法律違反を避けられます。労働時間の管理と休暇の取得は、コインの表と裏の関係なんです。両方をバランスよく管理することが、健全な職場づくりには欠かせません」

 

トラブル4:始業時刻ギリギリに来る社員、業務終了後に居残る社員

画猫さん:「先生、実はもう一つ困っていることがあって。営業のFさんが毎日始業時刻のギリギリに来るんです。9時始業なのに、858分とか859分に駆け込んでくる感じで」

江尾社労士:「なるほど。Fさんは9時には仕事を始められているんですか?」

画猫さん:「いえ、それが。パソコンを立ち上げたり、着替えたりしているうちに9時を過ぎてしまって、実際に業務を始めるのは910分くらいになっています」

江尾社労士:「それは問題ですね。就業規則の第9条第6項と第7項を見てください。第6項には『「始業時刻」とは、業務を開始すべき時刻のことをいう』と明確に定義されています。つまり、9時には『業務を開始している状態』でなければいけないということです」

画猫さん:「パソコンを立ち上げるのは業務じゃないんですか?」

江尾社労士:「それは準備行為ですね。もちろん、その時間も労働時間としてカウントすべきという考え方もありますが、就業規則では『業務を開始すべき時刻』と定めています。そして第7項を見てください。『正社員は、始業時刻に業務を開始できるよう余裕をもって出勤しなければならない』と書いてあります」

画猫さん:「つまり、9時に業務を開始できるように、もっと早く来なさいということですね」

江尾社労士:「その通りです。パソコンの起動や着替えなどの準備は、始業時刻前に済ませておくべきだということです。Fさんには、『9時始業ということは、9時には業務を始められる状態になっていることが必要です。そのための準備時間を考えて、余裕を持って出勤してください』と説明しましょう」

画猫さん:「分かりました。それと、もう一つ気になることがあって。総務のGさんが毎日遅くまで会社に残っているんです」

江尾社労士:「残業しているんですか?」

画猫さん:「それが、残業申請は出していないんです。聞いてみたら『資格試験の勉強をしている』って

江尾社労士:「それも問題ですね。同じく第9条第7項を見てください。後半部分に『業務終了後は、速やかに退社しなければならない』と書いてあります」

画猫さん:「でも、勉強しているだけなら問題ないんじゃないですか?」

江尾社労士:「いえ、これにはいくつかの理由があります。まず、会社の施設を私的に使用していること。次に、万が一Gさんに何かあった場合、会社にいる時間なので会社の責任が問われる可能性があること。そして、電気代などのコストもかかります。さらに、他の社員から見ると『Gさんは遅くまで残業している』と誤解される可能性もあります」

画猫さん:「確かにそう言われてみればそうですね」

江尾社労士:「第9条第7項には『終業時刻までに、業務が終了するよう職務に専念しなければならず』とも書いてあります。これは、所定労働時間内に業務を終わらせる努力をしなさい、という意味です。もしGさんが資格の勉強をしたいなら、自宅や図書館など、会社以外の場所でやってもらうべきです」

画猫さん:「なるほど。では、Gさんにも『業務終了後は速やかに退社してください』と伝えます」

江尾社労士:「そうですね。ただし、伝え方には注意が必要です。『勉強を頑張っているのは素晴らしいことですが、会社の施設を使うことはできません。自己啓発は、会社以外の場所でお願いします』という形で、前向きに伝えるといいでしょう」

 

おわりに

画猫さん:「今日は本当に勉強になりました。振替と代休の違い、有給休暇の取り方、残業の管理方法、そして始業時刻や退社時刻の正しい意味どれも実務で必要なことばかりでした。特に『始業時刻=業務開始時刻』という定義は、きちんと社員に説明しないといけませんね。Fさんにもきちんと説明して、改善してもらいます」

江尾社労士:「労働時間と休暇の管理は、労務管理の基本中の基本です。でも、多くの会社で間違いが起きやすい部分でもあります。特に今日お話しした『始業時刻の意味』や『業務終了後の速やかな退社』は、意外と見落とされがちです。社員一人ひとりが就業規則を正しく理解し、会社もそれを適切に運用することが大切です。今日お話ししたことを、ぜひ現場で活かしてください。そして、分からないことがあれば、いつでも相談してくださいね」

 

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

9

労働時間・始業終業時刻

トラブル4

11

休日の振替

トラブル1

11条の2

代休

トラブル1

12

時間外労働・休日労働

トラブル3

15

年次有給休暇

トラブル23

 

社会保険労務士 江尻育弘