トップ
事務所案内
サービス案内
人事労務ニュース
就業規則
沖縄情報
お問合せ

就業規則の読み方・活かし方10

第10章 災害補償

今回取り上げる労務問題

・業務中の事故発生時における労災保険と就業規則上の災害補償の関係

・通勤災害の認定範囲と「合理的な経路」についての判断基準

 

はじめに

「仕事中にケガをしたら、会社が治療費を払ってくれるの?」「通勤途中の事故は補償されるの?」──働く人なら誰でも気になる疑問ではないでしょうか。災害補償は、働く人の命と健康を守るための重要な制度です。しかし、その仕組みは意外と複雑で、「業務上」と「業務外」の境界線はどこにあるのか、労災保険と会社の補償はどう違うのか、きちんと理解している人は少ないものです。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。「災害補償」に関する2つのトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。

 

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

 

トラブル1:倉庫で荷物が落下して足を打撲──会社はどこまで補償するの?

画猫さん:「江尾先生、物流部で事故が起きてしまって物流部のAさんが、倉庫で商品の積み下ろし作業中に棚から荷物が落ちてきて足を打撲しました。全治3週間の診断で、『治療費と休業中の給料は会社が払ってくれますよね?』と聞かれたんですが

江尾社労士:「災害補償の基本ですね。第57条第1項には『正社員の業務による負傷、疾病、死亡については、療養補償として必要な療養費用、休業補償として平均賃金の60%を支払う』とあります」

画猫さん:60%は少し心もとない気がします

江尾社労士:「良い着眼点です。第57条第2項に『労災保険から保険給付を受ける場合は、その給付の限度で本規定を適用しない』とあります。労災保険から給付を受けられる場合、会社が二重に払う必要はないのです。しかも労災保険の休業補償給付は、平均賃金の60%に休業特別支給金20%が上乗せされ、合計80%の補償を受けられます」

画猫さん:「それを聞いて安心しました」

江尾社労士:「ただし注意点があります。第58条には『正社員は安全衛生に関する法令を守り、労働災害防止に努めなければならない』とあります。会社にも安全配慮義務があり、違反があれば民事上の損害賠償責任を問われます。沖縄労働局の令和6年のデータによると、県内の法違反率は74.6%で全国平均より4.5ポイント高いんです」

出典:沖縄労働局「令和6年における監督指導等の実施状況」(令和7130日発表)

画猫さん:「そんなに違反が多いんですか

江尾社労士:「今回の事故を契機に安全管理体制を見直すことをお勧めします。Aさんの件は、まず労災申請を速やかに行ってください。休業4日以上なので『労働者死傷病報告』も遅滞なく提出が必要です。事故原因を調査し再発防止策を講じてください。Aさんには労災指定病院で治療を受けるよう案内すれば、窓口での自己負担はありません」

 

トラブル2:大雨の日にコンビニに寄り道──通勤災害になる?

画猫さん:「江尾先生、もう一つ相談があるんです。営業部のBさんなんですが、先日の大雨の日に通勤途中で事故に遭いました。普段使っている国道が冠水していたので迂回ルートを通り、その途中でコンビニに寄って朝食を買ったんです。コンビニを出て車に戻ろうとしたときに、駐車場で足を滑らせて手首を骨折しました。Bさんは『寄り道したから通勤災害にならないんじゃないか』と労災申請をためらっているんです」

江尾社労士:「まず通勤災害の基本を確認しましょう。第57条第4項に『通勤途上での負傷は、労働者災害補償保険法により扶助を受ける』とあります。通勤災害には『合理的な経路および方法』が必要です。ここで重要なのは『逸脱』と『中断』という概念です。通勤経路を外れることを『逸脱』、通勤と関係ない行為をすることを『中断』と呼びます。原則として逸脱・中断があった場合、その間およびその後は通勤と認められません」

画猫さん:「じゃあBさんはダメですか?」

江尾社労士:「いいえ、例外があります。『日常生活上必要な行為』については、その行為中を除いて、経路に戻った後は通勤と認められます。日用品の購入、病院での診察などが該当します。コンビニで朝食を買う行為は『日用品の購入』に準ずるものとして認められる可能性が高いです。Bさんの場合、転倒したのは駐車場ですが、店内から出て車に戻ろうとしていた時点で、中断行為は終了し通勤経路への復帰途中だったと考えられます」

画猫さん:「迂回ルートを通ったことは問題になりませんか?」

江尾社労士:「『合理的な経路』は最短経路だけを指すわけではありません。大雨で道路が冠水していた場合、迂回ルートを通ることは十分に『合理的』です。沖縄は2月でも前線の影響で大雨になることがありますから、安全な代替経路を選ぶのは当然のことです」

画猫さん:Bさんの件はどう対応すればいいですか?」

江尾社労士:「労災申請を勧めてください。通勤災害として認められる可能性は十分あります。最終的に判断するのは労働基準監督署ですが、会社としては事故状況を正確に記録し申請に協力する姿勢が大切です。なお通勤災害の場合、業務災害と違って『労働者死傷病報告』の提出義務はありませんが、申請時に事業主証明欄への記入が必要です」

 

おわりに

画猫さん:「災害補償って、就業規則の条文だけじゃなくて、労災保険法や労働基準法まで、いろんな法律が関係しているんですね」

江尾社労士:「そうです。第10章の『災害補償』は第57条の1条だけですが、実際には第58条の安全衛生、第38条の教育、労災保険法の通勤災害規定など、様々な法令が関係します。災害補償の制度がいくら充実していても、ケガをした本人の苦しみは補償では癒えません。第58条にある『会社と協力して労働災害の防止に努める』こと。事故を起こさないことが、会社にとっても従業員にとっても一番幸せなのです」

画猫さん:「江尾先生、ありがとうございました。会社に戻ったら、Aさんの労災申請を進めて物流部の安全点検を実施します。Bさんにも労災申請を勧めますね」

 

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

9

労働時間および休憩時間

トラブル2

38

教育

トラブル1

57

災害補償

全トラブル

58

遵守事項(安全衛生)

トラブル1

 

社会保険労務士 江尻育弘