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「就業規則の読み方・活かし方」本則編
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就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編I

10章 災害補償

今回取り上げる労務問題

・ 「パートだから労災は使えないと思っていました」──雇用形態を理由に労災申請をためらうケース

・ 「通勤中のケガなのに、なぜ"業務外"扱いなのですか?」──業務上災害と通勤災害の区別

・ 「休業補償の金額が思ったより少ないのですが……──シフト制パート社員の平均賃金算出と最低保障額

はじめに

「労災って、正社員だけのものじゃないのですか?」──パート社員からこう聞かれたことのある人事担当者は少なくないでしょう。厚生労働省の「令和5年度労働災害発生状況」によれば、労働災害による死傷者数のうち、パートタイム労働者やアルバイトなど短時間労働者が占める割合は増加傾向にあります。小売業や飲食業など、パート社員が多い業種ではとりわけ労災リスクへの備えが欠かせません。

ところが、就業規則の「災害補償」の章は、賃金や労働時間の章に比べて読み飛ばされがちです。何事もないときには意識されず、事故が起きて初めて慌てて開く──そんな章だからこそ、平時にしっかり理解しておくことが重要です。とりわけパート社員については、「パートだから労災は関係ない」「通勤災害と業務上災害の違いがわからない」「休業補償の計算方法がわからない」といった声が現場で後を絶ちません。会社の人事担当者にとっても、災害補償は正社員中心に考えがちな領域であり、パート社員特有の論点──シフト制の平均賃金計算、健康保険の被保険者でない場合の取扱い──を見落とすリスクがあります。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。3つのトラブルを通じて、災害補償に関する就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

トラブル1:「パートだから労災は使えないと思っていました」──雇用形態を理由に労災申請をためらうケース

五月も半ばを過ぎた沖縄は、本土より一足早く梅雨に入る。沖縄ではこの時季を「小満芒種(スーマンボースー)」と呼ぶ。二十四節気の小満と芒種が重なる頃、亜熱帯の島には連日しっとりとした雨が降り注ぎ、街路の緑はいっそう深みを増す。雨の日が続くと足元が滑りやすくなるのは職場も同じで、あっぱれ商事の物流センターで思わぬ事故が起きた。

画猫さん:「先生、先週、物流センターで働くパート社員のAさんが、荷物の仕分け作業中に台車に足を挟まれて左足を骨折してしまいました。全治6週間と診断されたのですが、Aさんは『パートだから労災は使えないと思っていた。自分の健康保険で治療しようと思います』とおっしゃっていて……。これ、労災で対応すべきですよね?」

江尾社労士:「当然、労災で対応すべきケースです。まず結論から言えば、労災保険は雇用形態に関係なく、すべての労働者に適用されます。正社員であろうとパート社員であろうと、業務上の災害であれば労災保険の給付対象です。Aさんが健康保険で治療してしまうと、後から手続きが複雑になりますので、すぐに労災申請に切り替えてください」

画猫さん:「就業規則にはどう書いてあるのでしょうか」

江尾社労士:「第52条を開いてみましょう。第1項に『パート社員の業務上の災害による負傷、疾病、死亡については、次の補償を行う』とあり、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料、打切補償の6種類が列挙されています。この規定が存在すること自体が、パート社員にも災害補償が適用される証拠です。ここで大事なのは、この第52条は労働基準法第75条から第82条に基づく会社の補償義務を就業規則に落とし込んだものだということです。労働基準法上の災害補償義務は、雇用形態を問わずすべての労働者に対して課されています」

画猫さん:「なるほど。では第52条第2項はどう読めばいいですか。『労働者災害補償保険法、その他法令、各種保険などの補償によって、前項の補償に相当する保険給付を受ける場合においては、その給付の限度において前項の規定を適用しない』とありますが……

江尾社労士:「これは二重補償を防ぐための規定です。労働基準法は会社に直接の補償義務を課していますが、実際には労災保険がこの補償を肩代わりする仕組みになっています。Aさんが労災保険から療養補償給付──つまり治療費の全額──を受ければ、会社は第52条第1@の療養補償を重ねて行う必要はない。逆に言えば、労災保険でカバーされない部分があれば、会社が直接補償する義務が残ります。就業規則の第52条は、会社の補償義務を定めたもの。労災保険は、その義務を保険の仕組みで履行するためのもの。この二段構えの関係を理解しておくことが大切です」

画猫さん:Aさんのように『パートだから労災は使えない』と誤解しているケースは、他にもあるかもしれません」

江尾社労士:「実際、パート社員が労災申請をためらう理由はいくつかあります。『パートだから対象外だと思った』という誤解のほか、『申請すると会社に迷惑がかかるのではないか』という遠慮、『手続きが面倒そう』という心理的ハードル──こうした声は沖縄の労働局や社労士事務所でもよく聞かれます。しかし、業務上の災害を健康保険で処理することは法律上認められていません。健康保険法第1条は、業務災害以外の疾病等を対象としており、業務上の災害は健康保険の適用除外です。Aさんには、労災申請は本人の権利であると同時に、正しい手続きをとることが会社の義務でもあることを丁寧に説明してください」

画猫さん:「会社としての義務……。会社が労災申請を妨げた場合はどうなりますか」

江尾社労士:「労災かくしは労働安全衛生法第100条および安衛則第97条に基づく労働者死傷病報告の義務違反として、刑事罰の対象になります。報告を提出しなかったり虚偽の報告をしたりすれば、安衛法第120条により50万円以下の罰金です。会社が労災申請を渋る姿勢は、法的に見て極めてリスクが高い。Aさんへの対応としては、まず骨折の治療を労災保険の療養補償給付に切り替える手続きを進め、労働者死傷病報告を所轄の労働基準監督署に提出してください。そして、今回の件を機に、全パート社員に対して『業務中のケガは雇用形態に関係なく労災保険の対象です』と周知する文書を配布することをおすすめします」

画猫さん:「労災かくしは刑事罰の対象にもなるのですね……。ところで先生、第52条第1項には療養補償のほかに打切補償という項目もあります。これはどういう場面で使うのですか」

江尾社労士:「第52条第1Eの打切補償は、業務上の傷病が3年経っても治らない場合に、平均賃金の1,200日分を支払って以後の補償義務を打ち切る制度です。労働基準法第81条に基づくものですが、実務上は、労災保険から傷病補償年金が支給されている場合には、労働者災害補償保険法第19条の規定により打切補償を支払ったものとみなされます。つまり、3年以上療養している労働者が傷病補償年金を受けていれば、会社は労働基準法第19条第1項の解雇制限からも解放される。この点は第32条第1Bの普通解雇事由にも規定されていますね。ただし、これはあくまで長期療養のケースですから、Aさんの全治6週間の骨折では該当しません」

画猫さん:「わかりました。Aさんにはすぐに連絡して、治療費の立替え分についても精算の手続きを案内します。それと、今後同じような誤解が起きないよう、入社時の説明資料に『業務中のケガは雇用形態に関係なく労災保険の対象です』という一文を入れておきます」

江尾社労士:「入社時の周知は非常に効果的です。第3条の採用手続きの中で、労働条件通知書とあわせて労災制度の概要を説明するフローを組み込んでおくと、Aさんのような誤解を未然に防ぐことができます。そしてもう一点、パート社員の側にも果たすべき義務があります。業務中にケガをした場合は、軽傷であっても速やかに会社に報告しなければなりません。第22条第6Aは、会社または他者に対して災害の発生や損害のおそれを知ったときは速やかに届け出る義務を定めています。自分のケガを『大したことない』と自己判断して報告を怠ると、後から症状が悪化した場合に労災申請が困難になることもある。会社の周知義務とパート社員の報告義務──この双方がそろって、初めて災害補償の仕組みは正しく機能します」

トラブル2:「通勤中のケガなのに、なぜ"業務外"扱いなのですか?」──業務上災害と通勤災害の区別

画猫さん:「先生、もう一件。先月、パート社員のBさんが自転車で出勤する途中に転倒して肩を脱臼しました。Bさんは当然『労災だ』と思ったのですが、休業補償の手続きを進めようとしたところ、就業規則の第52条には通勤災害に関する規定がないように見えて……Bさんから『通勤中のケガなのに、なぜ"業務外"扱いなのですか?』と質問されてしまいました」

江尾社労士:Bさんの疑問はもっともですし、実はここが就業規則の災害補償の章で最も混乱しやすいポイントです。第52条第1項は『業務上の災害による負傷、疾病、死亡』と書いてありますね。通勤途上のケガは、この『業務上の災害』には該当しません。通勤災害は業務上災害とは別の類型で、労災保険法上は独立したカテゴリーとして扱われます」

画猫さん:「えっ、では通勤中のケガには会社の補償義務がないのですか?」

江尾社労士:「労働基準法上の災害補償義務は、あくまで『業務上の災害』に対するものです。通勤災害は、昭和48年の労災保険法改正によって保険給付の対象に加えられた経緯がありますが、労働基準法の災害補償の規定──75条から第82──は業務上災害のみを対象としています。したがって、第52条が通勤災害をカバーしていないのは、法律の構造に忠実な設計なのです」

画猫さん:「では、Bさんの通勤中のケガは、どの制度でカバーされるのでしょうか」

江尾社労士:「第52条第4項を見てください。『パート社員の通勤途上で負傷、疾病、死亡については、労働者災害補償保険法、その他法令、各種保険などにより扶助を受けるものとする』と定められています。つまり、通勤災害については会社の直接的な補償義務ではなく、労災保険の通勤災害に関する給付──療養給付、休業給付、障害給付など──によって保護される仕組みです。名称が微妙に異なることにも注目してください。業務上災害の場合は『療養補償給付』『休業補償給付』と『補償』の文字が入りますが、通勤災害の場合は『療養給付』『休業給付』と『補償』が入らない。これは、通勤災害が会社の補償義務に基づくものではないことを反映しています」

画猫さん:「なるほど。業務上災害と通勤災害では法的な位置づけが違うのですね。具体的に、Bさんが受けられる給付にはどのような違いがありますか」

江尾社労士:「給付の内容自体はほぼ同じです。療養給付で治療費がまかなわれ、休業給付で賃金の補てんがされます。ただし、通勤災害の場合は療養給付を受ける際に一部負担金──初回200──が発生します。これは業務上災害にはない自己負担です。また、先ほど申し上げたとおり、通勤災害では会社の労働基準法上の補償義務がありませんから、万が一労災保険でカバーされない損害があった場合の法的構造が業務上災害とは異なります」

画猫さん:Bさんのケースは通勤災害として労災申請すればいいのですね。ただ、自転車通勤中の事故ということで、通勤災害として認められるためには何か条件がありますか?」

江尾社労士:「労災保険法第7条は、通勤を『住居と就業の場所との間の往復』で合理的な経路・方法によるものと定義しています。Bさんが自転車で合理的な経路を通って出勤していたのであれば、通勤災害に該当します。ただし、通勤経路を逸脱・中断した場合──たとえば、途中で私用の買い物に寄った後の事故──は、原則として通勤災害に該当しません。Bさんに経路を確認して、通常の通勤経路上での転倒だったかどうかを確かめてください」

画猫さん:「そうすると、第52条第5項の『パート社員の業務外での負傷、疾病、死亡については、健康保険法により扶助を受けるものとする』というのは、通勤災害以外の業務外の傷病──たとえば休日にスポーツで骨折した場合──を指しているのですね」

江尾社労士:「そのとおりです。ただし、第5項には括弧書きで『被保険者のみ』と限定されています。パート社員の中には、週の所定労働時間が短く健康保険の被保険者になっていない方もいます。その場合は国民健康保険で対応することになります。この点も、パート社員に対して事前に説明しておくとよいでしょう。整理すると、第52条は3つの場面を想定しています。第1項から第3項が業務上災害──会社に直接の補償義務があり、労災保険がそれを肩代わりする。第4項が通勤災害──会社に直接の補償義務はないが、労災保険の通勤災害給付で保護される。第5項が業務外の傷病──健康保険で対応する。Bさんには、通勤災害は第52条第4項の対象であり、労災保険の通勤災害給付で治療費と休業中の賃金の補てんが受けられることをしっかり説明してください。『業務外扱いで不利になる』のではなく、『業務上災害とは法的な仕組みが異なるだけで、保護はきちんとされる』という点を伝えることが大切です」

画猫さん:Bさんの自転車通勤について、もう少し確認させてください。第45条の通勤手当では、自家用車通勤には会社の承認が必要とされていますが、自転車の場合も同じですか?」

江尾社労士:「第45条第1Aは『自家用車で通勤することを承認した者』に通勤手当を支給する規定ですが、自転車が『自家用車』に含まれるかどうかは解釈の余地があります。ただ、通勤災害の認定において重要なのは第45条の通勤手当の問題ではなく、労災保険法上の『合理的な経路及び方法』に該当するかどうかです。自転車通勤が合理的な方法であれば、会社が通勤手当を支給しているかどうかに関わらず、通勤災害の対象になります。とはいえ、通勤方法を会社に届け出てもらうことは、事故発生時の迅速な対応のために重要です。第3条第5項は『提出書類の記載事項に変更があった場合は、速やかに会社に届け出なければならない』と定めていますから、通勤手段の変更もこの届出義務の対象として運用し、パート社員に情報提供を求める体制を整えておいてください」

画猫さん:Bさんが安心できるよう、第52条の第4項を示しながら説明します。それと、業務上災害・通勤災害・業務外傷病の3類型の違いを現場にも周知したほうがよさそうですね」

江尾社労士:「ぜひそうしてください。特に管理職には、部下がケガをした場合に『業務中か、通勤中か、私生活か』をまず切り分けることが初動として重要だということを理解してもらう必要があります。この切り分けを誤ると、適用すべき制度を間違えてしまいます」

トラブル3:「休業補償の金額が思ったより少ないのですが……──シフト制パート社員の平均賃金算出と最低保障額

画猫さん:「先生、3つ目は先ほどのAさんの続きです。Aさんの労災申請は進めているのですが、休業補償給付の金額を試算したところ、Aさんから『思ったより少ないのですが、計算は合っていますか?』と聞かれました。Aさんは週3日勤務のシフト制で、月によって出勤日数がかなりばらつくのです」

江尾社労士:「シフト制パート社員の平均賃金は計算に注意が必要です。第52条第1Aの休業補償は『平均賃金の60%』と定めていますが、この平均賃金の算出方法が問題になります。労働基準法第12条に基づく平均賃金は、原則として、算定事由発生日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総暦日数で割って計算します」

画猫さん:「暦日数で割る……Aさんは週3日勤務ですから、1カ月に13日前後しか出勤していません。3カ月の暦日数は約90日ですよね。90日で割ると、1日あたりの金額がかなり小さくなりませんか?」

江尾社労士:「まさにそこが問題です。原則どおり暦日数で割ると、出勤日数の少ないパート社員は平均賃金が極端に低くなってしまう。そこで労働基準法第12条第1項但書に最低保障額の規定があります。日給制、時給制、出来高払制などの場合は、賃金の総額をその期間中の実際の労働日数で割った金額の60%が最低保障額となります。原則計算と最低保障額を比較して、高いほうを平均賃金とする仕組みです」

画猫さん:「具体的にAさんのケースで計算してみてもいいですか。Aさんは時給1,200円で16時間勤務。過去3カ月の出勤日数はそれぞれ13日、12日、14──合計39日で、暦日数は91日です」

江尾社労士:「では計算してみましょう。まず原則計算です。賃金総額は1,200×6時間×39日で280,800円。これを暦日数91日で割ると、280,800÷91日で約3,085円。次に最低保障額です。賃金総額280,800円を実労働日数39日で割ると7,200円。その60%ですから4,320円。原則計算の3,085円と最低保障額の4,320円を比較すると、最低保障額のほうが高いですから、Aさんの平均賃金は4,320円になります」

画猫さん:「最低保障額を使うと、原則計算より1,200円以上高くなるのですね。もし原則計算だけで処理していたら、Aさんは本来受け取れるはずの金額より少ない補償しか受けられなかったことになります」

江尾社労士:「そうです。そして休業補償給付の金額は、この平均賃金の60%ですから、4,320×60%2,592円が1日あたりの休業補償給付額になります。さらに労災保険では、休業補償給付に加えて休業特別支給金として平均賃金の20%が上乗せされますから、合計で平均賃金の80%──4,320×80%3,456──Aさんに支給される計算です」

画猫さん:「第52条の休業補償は60%ですが、労災保険からは実質80%が出るということですね。その差の20%は特別支給金によるものですか」

江尾社労士:「そのとおりです。第52条第1Aは労働基準法に基づく会社の補償義務として60%と定めていますが、労災保険の制度としては休業特別支給金20%が加算されるため、合計80%になります。この特別支給金は第52条第2項の『保険給付に相当する』範囲には含まれません。つまり、特別支給金は労災保険独自の上乗せ給付であって、会社の補償義務とは別の制度です」

画猫さん:Aさんにはこの計算過程をしっかり説明したほうがいいですね。それと、最低保障額の適用を見落とさないための仕組みが必要です」

江尾社労士:「実務的には、シフト制パート社員が労災で休業する場合、平均賃金の計算は必ず原則計算と最低保障額の両方を算出し、高いほうを採用するというチェックリストを作成しておくことをおすすめします。特にあっぱれ商事のように週の勤務日数が異なるパート社員が多い職場では、この最低保障額の適用が頻繁に生じます。もう一点、第48条の臨時休業中の賃金──いわゆる休業手当──でも平均賃金を使いますから、平均賃金の正確な算出は災害補償に限らず賃金全般に関わる基礎知識です」

画猫さん:「休業手当の計算でも同じ問題が起きるのですね。平均賃金の計算マニュアルを作って、人事部内で共有します」

江尾社労士:「それは良い取り組みです。もう一点、労災の休業補償給付には待期期間があることも押さえておいてください。休業の初日から3日間は労災保険からの給付がされません。この3日間については、業務上災害の場合は労働基準法第76条に基づき会社が平均賃金の60%を直接支払う義務があります。第52条第1Aの休業補償が、この待期期間中の会社負担分として機能するわけです。Aさんの場合は全治6週間で相当の休業期間がありますから、最初の3日間は会社が直接補償し、4日目以降は労災保険の休業補償給付と休業特別支給金で合計80%がカバーされる──この二段階の仕組みを、Aさんにもわかりやすく説明してください」

画猫さん:「待期期間の3日間は会社負担、4日目からは労災保険──しっかりメモしておきます。Aさんに対しては、最低保障額を適用した正しい計算結果を書面で示して、なぜこの金額になるのかを丁寧に説明しますね」

江尾社労士:「はい。それと同時に、Aさんの側の義務についても伝えておいてください。休業補償給付を受けている間は、治療に専念して回復に努めることが求められます。第40条第5項の休職期間に関する規定には療養専念義務が明記されていますが、労災による休業中も同じ考え方です。治療経過を定期的に会社に報告し、復帰の見通しを共有することもパート社員の大切な責任です。会社は正確な計算と丁寧な説明をする義務を負い、パート社員は報告と療養専念の義務を負う──権利と義務は常に表裏一体です」

画猫さん:Aさんには権利の説明だけでなく、療養中の報告義務についてもあわせて伝えるようにします」

おわりに

画猫さん:「今日は災害補償について3つのトラブルを学びました。パート社員にも労災保険が適用されるという当たり前のことが当たり前に知られていないこと、通勤災害と業務上災害の法的な位置づけの違い、そしてシフト制パートの平均賃金に最低保障額がある仕組み──どれも、第52条をきちんと読み解かないと対応を誤ってしまう問題ばかりでした。それと、会社の義務だけでなく、パート社員にも報告義務や療養専念義務があるという点が印象に残りました」

江尾社労士:「災害補償は、会社がパート社員を守る制度であると同時に、パート社員が自ら権利を行使し義務を果たすことで初めて成り立つ仕組みです。会社には労災申請の支援義務、正確な補償計算の義務、周知の義務がある。パート社員には業務中のケガの報告義務、正しい保険制度の利用、療養中の経過報告の義務がある。この双方の責任が噛み合ってこそ、第52条は生きた規定になります。災害補償の章は、事故が起きたときに初めて開くのでは遅い。平時に読んで、制度の全体像──業務上災害・通勤災害・業務外傷病の3類型と、就業規則上の補償義務・労災保険・健康保険の関係──を頭に入れておくことが、迅速で正確な対応の土台になります。小満芒種の雨は沖縄の大地を潤し、やがて稲や作物の実りにつながる。同じように、平時の学びが、いざというときにパート社員を守る力になるのです。それからもう一つ。災害補償は事後の対応ですが、本当に大切なのは事故を未然に防ぐことです。次回は第11章『安全および衛生』を取り上げます。健康診断の対象者の判定やストレスチェックの運用など、予防の視点からパート社員の労務管理を考えていきましょう」

画猫さん:「まずはAさんとBさんへの対応を完了させて、そのうえで全パート社員への労災制度の周知と、平均賃金の計算マニュアルの整備に取りかかります」

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

3

採用

トラブル12

22条第6A

届出・報告事項

トラブル1

32条第1B

普通解雇(打切補償関連)

トラブル1

33

解雇制限

トラブル1

40条第5

休職期間(療養専念義務)

トラブル3

45

通勤手当

トラブル2

48

臨時休業中の賃金

トラブル3

52条第1

災害補償(業務上災害の補償内容)

トラブル123

52条第2

災害補償(労災保険との調整)

トラブル13

52条第3

災害補償(遺族補償・葬祭料の支払順位)

──

52条第4

災害補償(通勤災害)

トラブル2

52条第5

災害補償(業務外の傷病)

トラブル2

 

社会保険労務士 江尻育弘