シフト制労働者の年次有給休暇 ―所定労働日数のみなし算定―
令和8年6月19日改正「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」対応
作成日:令和8年7月21日
シフト制で働く労働者について、所定労働日数を算出しがたい場合の年次有給休暇の付与日数の算定方法が示されました。江尾社労士とスタッフのさくらの対話で、実務のポイントを凝縮して整理します。
はじめに前提を確認します。年次有給休暇は、@雇入れの日から6か月間継続して勤務し、Aその期間の全労働日の8割以上出勤した労働者に付与されます(労働基準法39条)。この二つの要件を満たせば、パートやアルバイト、シフト制の労働者であっても当然に付与の対象となります。以後の基準日(初回の付与日と、その後1年ごとの各期間の初日)でも、直前1年間の出勤率8割以上が要件となる点は同じです。
次に、付与「日数」の決まり方です。週の所定労働時間が30時間未満で、かつ週所定労働日数が4日以下(または年間所定労働日数が216日以下)の労働者は、所定労働日数に応じて日数が少なくなる「比例付与」の対象となります(労基法施行規則24条の3・別表)。つまり付与日数は、勤続年数と所定労働日数の二つで決まる仕組みです。ここで問題になるのが、シフト制で所定労働日数そのものが定まっていないケースです。今回の「みなし算定」は、比例付与表に当てはめるための“所定労働日数”を実績から補う手当て、と位置づけると理解しやすくなります。
さくら 先生、この改正、シフト制の人の年休の付与日数の話ですよね。所定労働日数が決まっていない人はどう計算するのか、そこが引っかかりました。
江尾 そこが核心です。いま前提で見たとおり、比例付与の日数は勤続年数と所定労働日数で決まります。ところがシフト制は、契約の時点で労働日を確定させないことが多い。基準日の所定労働日数を出せないので、表に当てはめられないのです。
さくら 顧問先のあっぱれ商事の画猫さんも、繁忙期はシフトがころころ変わると言っていました。ああいう働き方ですね。
江尾 まさにそれです。ここで絶対に外してはいけない一線がある。所定労働日数を定めていないことを口実に、年休をゼロにするのは認められません。
さくら 付与しないのは違法。では、どう出すのですか。
江尾 令和8年6月19日の改正で、算出しがたい場合の「みなし算定」が示されました。二つだけ覚えれば足ります。1つ目、最初の付与(雇入れ6か月経過後)は、その6か月の労働日数の実績を2倍する。2つ目、1年6か月経過後以降は、前年の労働日数の実績をそのまま使う。
さくら 6か月を2倍して1年分に換算、2回目以降は前年の実績。過去に働いた日数を物差しにするのですね。数字を作るのではなく、実績で代用する。
江尾 その通り。こうして出した“みなしの所定労働日数”を、さきほどの比例付与表に当てはめて日数を決めます。沖縄で言えば、旧盆やハーリーの時期に人手が要る職場は、月ごとに出勤日数がぶれます。だからこそ勤怠の記録が生命線になる。実績で計算する以上、記録がなければ計算できません。
さくら ところで、契約書に「1か月○日程度」と目安が書いてある場合はどうなるのですか。
江尾 鋭いですね。「目安となる労働日数」が定めてあるときは、それを所定労働日数とみなして計算してもよい。ただし条件が一つ。目安で出した日数が、実績で出した日数を上回るときに限ります。
さくら 労働者に有利なときだけ目安を使ってよい、と。損はさせない仕組みですね。数字で見るとどうなりますか。
江尾 具体例で見ましょう。次のとおりです。
【数値例】実績と目安、どちらを使うか
◆前提:週所定労働時間は30時間未満(比例付与の対象)。契約書に「1か月11日程度」という目安の記載あり。
◆実績で計算:雇入れから6か月の実際の労働日数が60日 → 2倍して120日を1年間の所定労働日数とみなす。
→ 年間所定労働日数「73〜120日」の区分に該当し、初回付与は3日。
◆目安で計算:1か月11日程度 × 12か月 = 年132日とみなす。
→ 年間所定労働日数「121〜168日」の区分に該当し、初回付与は5日。
◆結論:目安(5日)>実績(3日)。目安のほうが多いので、この例では目安を用いて5日を付与できる。
※逆に実績のほうが多い場合は、目安ではなく実績で計算した日数を付与する。常に高いほうを採る。
さくら なるほど。目安が上回るこの例では5日。もし実績のほうが多ければ、そのときは実績で計算した日数になるのですね。
江尾 そういう設計です。実績のほうが多ければ実績で。目安のほうが多ければ目安で。常に高いほうを取る、と覚えてください。
さくら この改正の狙いは、結局どこにあるのですか。
江尾 もともとこれは規制改革推進会議で「シフト制の適正な年休付与」が課題として挙がり、それを受けて厚労省が留意事項を改正したものです。あいまいにされがちだったシフト制労働者の年休を、実績という客観的な物差しできちんと保障する。そこが眼目です。
さくら 顧問先には、まず勤怠データの整備から声をかけるのがよさそうですね。うるま市の介護施設の奥武山さんのところも、パートさんが多いので確認してみます。
江尾 いい着眼です。改正後の「いわゆる『シフト制』により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項」に目を通して、実務に落とし込んでください。記録の精度が、そのまま正しい年休付与につながります。
社会保険労務士 江尻育弘