目の前の訴えがカスハラにあたるのかどうか。その判別の物差しは、どの編にも共通しています。要求内容の妥当性と、手段・態様の相当性。この二つの軸に分けて見る、ということです。
見落とされがちなのは、内容が正当であっても、手段が相当性を欠けばカスタマーハラスメントにあたる、という点です。逆に、伝え方が強かったからといって、訴えそのものを退けてよいわけでもありません。その場に立った担当者ひとりの感じ方に委ねず、組織として同じ物差しを持つ。そこが出発点になります。
求めていること自体に、理由があるか。サービスの不備を正してほしいという訴えや、合理的配慮を求める声は、正当な苦情です。ここを入口で「困った人」と扱ってしまえば、本来受け止めるべき声まで閉ざしてしまいます。
その伝え方が、社会通念上の範囲にとどまっているか。長時間の拘束、大声や威圧、人格を否定する言葉、繰り返しの謝罪要求。内容がどれほど正当でも、手段が度を越えていれば、それはハラスメントです。
2026年10月、改正労働施策総合推進法が施行されます。事業主には、カスハラから従業員を守るための措置を講じる義務が課されます。
これまで多くの現場が、担当者の忍耐と、その場のとっさの判断で吸収してきました。それがこれからは、方針を定め、相談体制を整え、記録と対応の手順を用意しておくべき事柄になります。施行は、もう目前です。
職員を守ることが、
利用者を守ることになる。
── その考え方を、それぞれの現場に即して
物差しは同じでも、当てはめ方は現場ごとに違います。カスハラのグレーゾーンを、四つの業種に分けて解説しました。御法人にあてはまる編から、お読みください。
「その一言は、苦情かハラスメントか」
生活相談、貸付、日常生活自立支援事業の金銭管理。住民の暮らしに深く関わり、そう簡単には断れない——その宿命のなかで、正当な苦情や合理的配慮の求めと、行き過ぎた手段とを切り分けます。
この編を読む →「その要望は、親心か、不当要求か」
我が子を案じる親心と、園の小さな落ち度とが重なったとき、線引きは一気に難しくなります。ミスへの激しい追及、アレルギーや個別対応の要請、園児同士のトラブル。内容の妥当性と手段の相当性を、分けて考えます。
この編を読む →「その要求は、正当な願いか、それを超えたものか」
身体接触の多さ、居室という密室性、認知症にともなう行動・心理症状、そして家族という第三者。介護施設に特有の事情を踏まえ、正当な苦情が手段によって「変容」する時点を見極めます。ご本人を守りながら、職員も守るために。
この編を読む →「その言動は、病の症状か、ハラスメントか」
精神疾患のある患者さんや、そのご家族への対応で生じるグレーゾーンを扱います。症状としての言動と、意図をもった攻撃とを切り分ける。行為者の責任と、職員が受けた被害とを、別のものとして考えます。
この編を読む →四つの編に共通するのは、担当者ひとりに背負わせないという一点です。報告のルートを一本にまとめ、対応は複数で行い、記録は「何を求められたか」と「どのように伝えられたか」を分けて残す。
白か黒かが決まってから動くのでは、遅すぎます。グレーの初期段階から、組織として面で受け止める。それが職員を守り、ひいては利用者を守ることにつながります。