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賃金不払、その「うっかり」はどこから起きるのか 令和7年の監督指導結果にみる、是正事例と送検事例

出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」別紙
公表日:令和8年8月21日 / 解説:社会保険労務士 江尻事務所
本資料の読み方。本文中の件数・金額・割合などの数値と、注記(※印)の内容は、厚生労働省の公表資料のとおりに記しています。是正事例・送検事例の事実関係も、資料に書かれた範囲での記載です。一方で、「では自社で何を点検すべきか」という部分は、社会保険労務士としての見立て(解釈)です。事実と解釈は、文章の上で分けて書いています。
夕方の中城村。事務所の窓から中城湾が見えて、水面がだいだい色に染まりはじめた頃でした。所長の江尾社労士が、届いたばかりの厚生労働省の資料を印刷して、赤ペンで線を引いています。スタッフのさくらが、お茶を持ってのぞき込みました。
◇ ◇ ◇

1 令和7年の全体像を、ざっと

さくら

さくら

所長、何を読んでいるのですか。

江尾

江尾社労士

厚生労働省が令和8年8月21日に公表した「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果」です。労働者からの申告などをきっかけに、労働基準監督署が立入調査をして、賃金の不払を見つけて是正させた——その1年分の結果をまとめたものですよ。

さくら

さくら

去年もありましたね。件数はどれくらいですか。

江尾

江尾社労士

令和7年で22,605件。前年より251件増えています。対象になった労働者は173,016人、不払が確認された金額の合計は128.6億円(正確には128億5,782万円)。金額のほうは前年から43億円あまり減っています。まず、この全体像を一枚の図で見てみましょう。

監督指導で確認された賃金不払の割合(令和7年)。件数の不払3.9%、労働者数3.0%、金額14.5%。

図1 監督指導で確認された賃金不払の割合(令和7年)。
出典:厚生労働省「賃金不払が疑われる事業場に対する監督指導結果(令和7年)」別紙・1(�@〜�B)より作成。
(※)翌年に繰り越したもの、倒産・事業主の行方不明で支払われなかったものを含みます。一部のみ支払われたものは「支払われた」に含みます。

さくら

さくら

件数でみると、指導で解決したのが96.1%なのですね。ほとんどは支払われている。

江尾

江尾社労士

そこが大事なところです。監督署の指導を受けて、令和7年中に使用者が賃金を支払って解決した事案は、件数で96.1%、対象労働者数で97.0%でした。ただ、注意したいのが二つ。一つは、この「解決」には、不払賃金の一部だけが支払われた事案も含まれること。もう一つは、残りの帯にも、翌年に繰り越された事案や、倒産・事業主の行方不明で支払われなかったものが混ざっていること。ですから「未払いのまま確定したのが3.9%」というわけではないのです。そのうえで——金額の帯を見てください。

さくら

さくら

あ、金額だと不払が14.5%まで上がっています。件数や人数の3〜4%とずいぶん違う。

江尾

江尾社労士

ここは私の見立てになりますが、一件あたりの金額が大きい事案が、割合を押し上げているのだと思います。注記にあるとおり、この中には翌年に繰り越された事案や、倒産・事業主の行方不明で解決しなかったものも含まれます。ですから「14.5%がそのまま未払いで確定」というわけではありません。ただ、件数は少なくても金額でみると重い、という構図は押さえておきたいところです。

2 どんな業種で起きているか

さくら

さくら

業種によって差はあるのですか。うちの顧問先は、医療・福祉や、宿泊・飲食が多いですよね。

江尾

江尾社労士

まさにそこが気になるところです。金額でみると、こうなっています。

業種別の賃金不払金額(令和7年)。保健衛生業27.1億円、製造業26.0億円、商業13.0億円など。

図2 業種別の賃金不払金額(令和7年・計 128.6 億円)。
出典:同資料・別紙・2(�B金額)より作成。「その他」には接客娯楽業・運輸交通業などを含みます。

江尾

江尾社労士

業種名がついたもので金額が一番大きいのは、保健衛生業で27.1億円。次いで製造業が26.0億円、商業が13.0億円と続きます。件数でみると順番が変わって、商業が4,701件で最多、次が製造業の4,370件。保健衛生業は3,620件で、これも上位です。この「保健衛生業」には、医療や保健衛生に関わる事業場が含まれます——雇用統計でいう「医療・福祉」とそのまま同じ区分ではない、という点は少し気に留めておいてください。

さくら

さくら

やっぱり、うちの顧問先が多い業種が並んでいますね……。

江尾

江尾社労士

ええ。ただ、これは全国の数字ですし、統計だけから原因を断定できるものではありません。ここからは私の見立てですが、医療・介護・福祉の現場のように、夜勤や交替勤務、複雑なシフト、複数の手当や割増賃金が重なる職場では、労働時間と賃金計算の連携に漏れが生じやすいと考えられます。業種の区分にかかわらず、注意が必要だということですね。裏を返せば、時間管理のしくみを整えれば防げる、ということでもある。では、実際にどんな不払が起きたのか。是正された事例から見ていきましょう。

3 【是正事例1】15分の「切り捨て」が生む不払

是正事例 1

始業直前・終業直後の15分を、一律に切り捨てていた

業種:自動車・同付属品製造業

事案の概要

始業直前・終業直後の15分について、一律に切り捨てて賃金を払っていない——そんな情報を受けて、労働基準監督署が立入調査に入りました。調べてみると、ICカードで労働時間を管理しているのに、始業直前・終業直後の15分は、実際に仕事をしていたかどうかにかかわらず、一律に切り捨てる処理をしていた。しかもそれが慣例になっていて、その15分に働いていた労働者がいた可能性も否定できない状態でした。

労働基準監督署の指導

過去にさかのぼって、各労働者から事実関係を聞き取るなどの実態調査を行うこと。その結果、実際の支払額との差額の割増賃金を払う必要があれば、追加で支払うこと。あわせて、労働時間を適正に把握するための具体的な方策を検討・実施すること——と指導されました。

事業場の対応

過去にさかのぼって調べたところ、その15分に実際に働いていた労働者が複数いて、割増賃金の不払が確認されました。会社は差額の割増賃金を追加で支払い、これまでの一律の切り捨て処理を廃止。始業直前・終業直後であっても、仕事をしていた時間には割増賃金を払うことにしました。

根拠:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン。「労働時間」とは使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、使用者の明示または黙示の指示で労働者が業務に従事する時間がこれに当たります。たとえば、着用を義務づけられた服装への着替えや、業務終了後の清掃など、指示された準備・後始末を事業場内で行った時間も労働時間に含まれます。
さくら

さくら

正直に言うと……15分くらい、いいのでは、と思ってしまいました。

江尾

江尾社労士

その感覚こそが、一番あぶないのですよ、さくらさん。一日で15分でも、前後で30分。それが月20日、10人いれば——100時間分の賃金です。ソーキそばのだしと同じで、少しずつでも積み重なると、大きな鍋いっぱいになる。

さくら

さくら

でも、1分単位で全部つけるのは大変では……。時間の丸めって、してはいけないのですか。

江尾

江尾社労士

順番に言いますね。原則は、実際に労働した時間を適正に把握して、日々の始業・終業について、使用者に有利な一律の切り捨てをしないこと。「1分単位でなければ違法」と条文に書いてあるわけではありませんが、実務では1分単位で集計・管理する運用が基本になります。そのうえで、例外として認められている丸めが一つだけあります。1か月の時間外労働・休日労働・深夜労働を、それぞれ合計した時間について、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げる、という処理です。今回のように、日々の始業・終業で15分を切り捨てるのは、この例外に当たりません。しかも、その15分に実際に働いていた人がいた。そこが問題になったわけです。

さくら

さくら

着替えや清掃の時間も労働時間、というのも意外でした。

江尾

江尾社労士

ここは、名前だけで一律に決まるわけではないのです。着替え、清掃、朝礼、機械の立ち上げ、引き継ぎ——これらが労働時間になるかどうかは、会社がそれを義務づけ、業務に必要な行為として、使用者の指揮命令下で行わせているか。就業規則や指示、実際の運用に沿って判断します。会社が「これを着なさい」「終わったら掃除しなさい」と指示していて、それを事業場の中でやっているなら、指揮命令下の時間にあたります。ここからが私の見立てですが、顧問先で点検してほしいのは三つ。一つ目、ICカードやタイムカードの打刻時刻と、賃金計算に使う時間が食い違っていないか。打刻は正確でも、集計のときに丸めていないか。二つ目、着替え・朝礼・清掃・引き継ぎを労働時間として数えているか。三つ目、そして一番こわいのが「慣例」です。誰も悪気なく、昔からそうしている——その慣例こそ、一度立ち止まって見直す価値があります。

実務メモ(是正事例1) 打刻データと賃金計算の連動を確認する。日々の始業・終業で使用者に有利な一律切り捨てをしていないか。認められる丸めは「1か月の時間外・休日・深夜の各合計を30分単位で処理」する場合だけ。着替え・朝礼・清掃・引き継ぎなどは、名称で一律に決まるものではなく、会社の指示にもとづき業務に必要な行為として指揮命令下で行う時間かどうかを、規程・指示・実際の運用に沿って判断する。

4 【是正事例2】固定残業代の落とし穴

是正事例 2

固定残業代を払っていたが、超えた分と深夜分が未払だった

業種:建設資材等の卸売業

事案の概要

固定残業代の制度を入れているのに、割増賃金が十分に払われていない——そんな情報を受けて立入調査が行われました。一部の労働者について、こんな実態が見つかりました。固定残業代として月20時間分の割増賃金を払っていて、出退勤や時間外労働の状況も把握はしていた。ところが、20時間を超えた時間外労働については、「固定残業代を払っているから」という理由で、確認も管理もしていなかった。その超過分の割増賃金が払われていなかったのです。さらに、深夜労働に対する割増賃金も払われていませんでした。

労働基準監督署の指導

割増賃金の適正な支払について、是正勧告(労働基準法第37条違反)を受けました。月20時間を超える時間外労働の割増賃金を計算しなおし、固定残業代として払った分との差額、および深夜労働の割増賃金を支払うこと。あわせて、過去にさかのぼった実態調査と、労働時間の適正な把握についても指導されました。

事業場の対応

過去にさかのぼって調べながら、正しい時間外労働・深夜労働の時間数を出しなおし、再計算のうえで差額の割増賃金を追加で支払いました。以後は、月20時間を超える時間外労働の時間数と、深夜労働の時間数を、確実に確認したうえで割増賃金を払うことにしました。

根拠:割増賃金の適正な支払(労働基準法第37条)。固定残業代のように、割増賃金をあらかじめ基本給や手当に含めて払う方法をとる場合には、二つの条件があります。第一に、就業規則などで、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分とを判別できるようにしておくこと。第二に、割増賃金に当たる部分の金額が、実際の時間外労働などの時間に応じた割増賃金の額を下回る場合には、その差額を支払うこと。
さくら

さくら

「固定残業代を入れているから、残業代はもう払わなくていい」と思っている経営者の方、けっこういらっしゃいますよね。

江尾

江尾社労士

そこが最大の誤解です。固定残業代は、残業代を払わなくていい制度ではありません。「あらかじめ、この時間分は先に払っておきますよ」という制度です。だから、決めた時間を超えたら、超えた分はきちんと精算して払う。今回の会社は、20時間までは払っていた。でも、超えた分を「もう払っているから」と確認すらしていなかった。ここが不払になったのです。

さくら

さくら

深夜分も別に払わないといけないのですね。

江尾

江尾社労士

そうです。深夜労働——午後10時から翌朝5時までの労働——の割増は、時間外の割増とは別に、計算して特定する必要があります。固定残業代が「時間外20時間分」と定めてあっても、それで深夜割増まで払ったことにはなりません。深夜に働いたら、その分の割増(2割5分以上)は別途必要です。時間外労働が深夜帯に及べば、時間外の2割5分と深夜の2割5分が重なって、合わせて5割以上。さらに、1か月60時間を超える法定時間外労働が深夜帯に及ぶ場合は、時間外部分が5割以上になりますから、深夜分と合わせて7割5分以上になります。

さくら

さくら

顧問先で点検するとしたら、どこを見ればいいでしょう。

江尾

江尾社労士

私の見立てでは、四つあります。一つ目、就業規則や雇用契約書・賃金規程で、固定残業代に当たる部分が基本給などと明確に区分され、「何時間分でいくらか」——対象の時間と金額の対応関係がはっきり書いてあるか。区別がつかない書き方だと、そもそも有効な固定残業代と認められません。二つ目、実際の労働時間を把握したうえで、毎月、固定残業の時間を超えた分を精算する運用になっているか。制度があっても、超過分を計算していなければ意味がありません。三つ目、深夜割増を別建てで払っているか。四つ目、最低賃金です。固定残業代を除いた通常の賃金部分だけで、時給に直したときに最低賃金を上回っているか。ここも忘れずに。

実務メモ(是正事例2) 固定残業代は「先払い」であって「払わなくていい」ではない。�@規程で通常賃金部分と割増部分を判別できるようにする。�A毎月、固定残業時間を超えた分を精算して差額を払う。�B深夜割増(午後10時〜翌5時)は別建てで支払う。�C固定残業代を除いた通常賃金で最低賃金を満たしているか確認する。

5 【送検事例1】賃金全額の不払と最低賃金法

江尾

江尾社労士

ここからは送検事例です。是正事例との違いは、是正勧告を受けても直さなかった、というところ。まず一件目。

送検事例 1

労働者7名に、定期賃金の全額(合計約130万円)を支払わなかった疑い

事案の概要

労働者から「定期賃金が全額、まったく払われていない」という相談があり、労働基準監督署が立入調査に入りました。調べたところ、定期賃金の全額が、決められた支払日に払われていないことを確認。是正勧告をしたものの、その後も是正されなかったため、捜査に着手しました。捜査の結果、労働者7名に対し、定期賃金の全額(合計約130万円)を所定支払日に払っていなかった疑いで、書類送検が行われました。

被疑事実:事業場(法人)および事業主について、定期賃金を所定支払日に全額支払っていなかったこと。
送検条文:最低賃金法第4条第1項。
(※)賃金を全く支払っていない場合には、労働基準法第24条違反(定期賃金不払)と最低賃金法第4条違反(最低賃金を下回る支払)の両方に該当しますが、特別法に当たる最低賃金法第4条違反により送検されています。
さくら

さくら

あれ……賃金を「払わなかった」のに、なぜ最低賃金法なのですか。労働基準法ではなくて。ちょっと混乱します。

江尾

江尾社労士

いい質問です。ここは私も顧問先に説明していて、よく「え?」と言われるところ。順番に整理しましょう。まず大前提として、賃金は全額を、決めた支払日に払わなければいけない。これが労働基準法第24条の「全額払い」の原則です。今回は、それを全く払っていなかった。

さくら

さくら

それなら労働基準法第24条違反、ですよね。

江尾

江尾社労士

そのとおり、24条違反にも当たります。ただ、「全く払っていない」ということは、実際に支払われた賃金を時間あたりに換算すると、最低賃金額を下回りますよね。だから、最低賃金以上を払うことを定めた最低賃金法第4条にも違反し得る。つまり、両方に当たり得るのです。この事例では、最低賃金法違反の疑いで送検されています。ただ、どの罪名で送検するかは、個別の事実関係や捜査上の判断によるもので、「全く払わないときは、いつも最低賃金法のほうで送検される」と一律に決まっているわけではありません。そこは押さえておきたいところです。

さくら

さくら

是正勧告のときに払っていれば、送検にはならなかったんでしょうか。

江尾

江尾社労士

この資料では、是正勧告のあとも是正されなかったことが、捜査に着手した経緯として示されています。ただ、送検されるかどうかは、それだけで決まるものではありません——違反の態様や故意性、反復性なども総合的にみて判断されます。そのうえで、ここは私の見立てですが、資金繰りが苦しいときこそ、賃金の支払は最優先にしてほしい。仕入れや家賃を待ってもらう相談はできても、従業員の生活は待ったなしです。もし本当に払えないなら、放置せず、事実確認、未払分の精算、再発防止を、監督署や私たちのような専門家と一緒に、迅速に進める。それが何より大事です。

実務メモ(送検事例1) 賃金の全額払い(労基法24条)は絶対の原則。全く払わなければ、実際の支払額を時間あたりに換算すると最低賃金を下回るため、最低賃金法4条にも該当し得る。どの罪名で送検するかは、個別の事実関係や捜査上の判断による。支払いが困難なときこそ放置せず、事実確認・未払分の精算・再発防止を早期に進める。

6 【送検事例2】約12万円でも送検される理由

送検事例 2

時間外労働・深夜労働の割増賃金(約12万円)を支払わなかった疑い

事案の概要

労働者から「時間外労働や深夜労働の割増賃金が払われない」という相談があり、労働基準監督署が立入調査に入りました。調べたところ、時間外労働の一部と、深夜労働の全部について、割増賃金が払われていないことを確認。是正勧告をしたものの、その後も是正されなかったため、捜査に着手しました。捜査の結果、使用者は、労働者2名の時間外労働・深夜労働に対する割増賃金(約12万円)を払っていなかった疑いで、書類送検が行われました。

被疑事実:事業場(法人)および事業主について、時間外労働・深夜労働に対する割増賃金を支払っていなかったこと。
送検条文:労働基準法第37条第1項、第4項。
(第1項が時間外・休日労働の割増賃金、第4項が深夜労働の割増賃金に関する定めです。)
さくら

さくら

約12万円……失礼な言い方かもしれませんが、送検された金額としては、思ったより小さいです。この金額でも送検されるのですね。

江尾

江尾社労士

そこが、この事例の一番のポイントです。送検されるかどうかは、金額の大きさだけで決まるものではありません。送検事例1は約130万円、こちらは約12万円。10倍以上の開きがありますが、どちらも送検されている。二つの事例に共通しているのは、是正勧告のあとも是正されなかったことが、捜査に着手した経緯として示されている、という点です。

さくら

さくら

金額よりも、指摘を受けたあとの対応が大きい、ということでしょうか。

江尾

江尾社労士

そう読める事例です。ただ、送検されるかどうかは、違反の態様、故意性、反復性、是正への対応などを総合的にみて判断されるもので、「是正すれば必ず免れる」「是正しなければ必ず送検される」と言い切れるものではありません。そのうえで確かなのは——監督署から指摘を受けた段階で、事実確認、未払分の支払、再発防止を、迅速かつ誠実に進めることが、何より重要だということです。

さくら

さくら

この事例、深夜労働は「全部」未払だったのですね。是正事例2でも深夜が抜けていました。

江尾

江尾社労士

よく気づきましたね。深夜割増の見落としは、本当に多い。時間外の残業代は意識していても、深夜の割増は別建てだという認識が薄い。宿泊業や医療・介護のように、夜勤や交代勤務のある顧問先では、特に要注意です。送検条文が第37条の第1項と第4項の両方になっているのは、時間外の割増(第1項)と深夜の割増(第4項)、その両方が抜けていたからです。

実務メモ(送検事例2) 送検の可否は金額の多寡だけで決まらず、違反の態様・故意性・反復性・是正への対応などを総合的にみて判断される。約12万円でも送検された事例がある。指摘を受けたら、事実確認・未払分の支払・再発防止を迅速に進める。深夜割増(労基法37条4項・午後10時〜翌5時)は時間外割増(同1項)とは別建て。夜勤・交代勤務のある職場では、賃金計算で深夜時間が正しく拾えているかを点検する。

7 まとめ

1
賃金不払の多くは、悪意ではなく日々の運用の穴から起きます。15分の切り捨て、固定残業代の超過分、深夜割増の見落とし——制度そのものより、毎日の時間管理と賃金計算のしくみに原因があります。
2
送検の可否は、金額の大きさだけで決まるものではありません。約12万円でも送検された事例があります。違反の態様や是正への対応などが総合的にみられますから、監督署から指摘を受けたら、事実確認・未払分の支払・再発防止を迅速かつ誠実に進めることが重要です。
3
予防の出発点は労働時間の適正な把握です。打刻と賃金計算の連動、認められない丸め処理の点検、固定残業代の超過精算、深夜割増の別建て——この四つを、まず自社で見直してみてください。
江尻

監修:社会保険労務士 江尻事務所

沖縄県中城村。中小企業の労務顧問として、予防労務と健康経営を軸に、就業規則の作成・改定、賃金・固定残業代の設計、労働時間管理の点検を支援しています。

社会保険労務士 健康経営エキスパートアドバイザー 医療労務コンサルタント

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