第8章 解雇、退職および休職など
今回取り上げる労務問題
・「契約の途中でも、能力不足なら解雇できますよね」──普通解雇と契約更新をしない雇止めの決定的な違い
・「私傷病で長く休む嘱託社員に、休職を命じてよいのですか」──有期契約と休職制度の関係
・「主治医が復職可能と言えば、復職させるしかないのですか」──休職期間満了時の復職判断と退職
はじめに
7月半ばの那覇は、旧盆を前にして街がどこか慌ただしい。市場には仏壇に供える果物が並び、夕暮れには線香の香りが路地を流れる。先祖を迎え、そして送り出す。沖縄の人々は、この「送り」を何よりも丁寧に行う。雇用にも、迎え入れる入口と、送り出す出口がある。第8章で扱うのは、その出口──解雇、退職、そして一時的に雇用を止める休職の場面である。
株式会社あっぱれ商事の人事部総務課では、画猫さんが分厚い就業規則を開いて、ため息をついていた。嘱託社員の契約をどう終えるか、あるいは病気で休む嘱託社員をどう支えるか。出口の設計は、入口の設計よりもはるかに神経を使う。判断を誤れば、無効な解雇として争いになりかねないからである。今日も、江尾社労士が那覇のオフィスを訪ねてきたのだ。
登場人物紹介
江尾社労士……社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。「出口の設計こそ、その会社の労務管理の成熟度が表れる」が持論である。
画猫さん……あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。今回は、契約の終了と休職という、重い判断をともなう相談を抱えている。
画猫さん:江尾先生、今日のテーマは、正直に申し上げて気が重いのです。人を辞めさせる話や、病気で休む方の話は、扱いを間違えると誰かを深く傷つけてしまいます。
江尾社労士:その気の重さは、とても大切な感覚です。出口の場面は、働く人の生活に直接かかわります。だからこそ、就業規則は、感情や勢いで判断しないための「型」を用意しているのです。第8章の条文は、いわば手すりのようなものです。手すりをたどっていけば、急な段差でも足を踏み外しにくい。今日は、その手すりの位置を一つずつ確かめていきましょう。
画猫さん:型があるから、迷ったときに立ち返れる。そう考えると、少し気持ちが楽になります。よろしくお願いいたします。
トラブル1:「契約の途中でも、能力不足なら解雇できますよね」──普通解雇と雇止めの違い
画猫さん:江尾先生、再雇用の嘱託社員Fさんについての相談です。1年契約の途中なのですが、期待していた成果が出ず、上司が「能力不足だから解雇したい」と言っています。第39条第1項第5号には、能力の不足により完全な業務の提供ができないと会社が認めたとき、と解雇事由が書いてあります。これを根拠に、今すぐ解雇できるのでしょうか。
江尾社労士:まず、その第39条は「普通解雇」の規定です。会社の側から一方的に労働契約を終わらせる、最も重い措置になります。ここで、前章でも触れた大前提を思い出してください。Fさんは1年の有期契約の途中です。労働契約法第17条第1項により、有期契約は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で解雇することができません。
画猫さん:また、その「やむを得ない事由」ですね。能力不足では足りないのでしょうか。
江尾社労士:期間途中の解雇に必要な「やむを得ない事由」は、期間の定めのない正社員の解雇よりも、さらに厳しく判断されます。会社は、契約期間中は雇用を続けると約束したのです。単に期待した成果が出ないという程度では、この厳しい基準を満たすことは、まず難しいと考えてください。就業規則の第39条に解雇事由が並んでいても、有期契約の期間途中では、その適用にいっそう高いハードルがかかるのです。
画猫さん:では、Fさんの契約を終えたい場合、会社はどうすればよいのですか。
画猫さん:第39条第1項には、第1号から第7号まで、さまざまな解雇事由が並んでいます。事業の縮小や、天災地変、傷病、能力不足、規律や協調性を欠く場合など。これらは、期間途中でも使えないのでしょうか。
江尾社労士:これらの事由は、解雇が問題になる場面全般を想定して並べてあります。ただし、繰り返しになりますが、有期契約の期間途中では、いずれの号を根拠にする場合でも、労働契約法第17条第1項の「やむを得ない事由」という高い基準を満たす必要があります。たとえば第1号の事業の縮小による人員整理であっても、期間途中で行うには、期間の定めのない社員を整理解雇する以上に厳格な必要性が求められます。条文に事由が書いてあることと、その場面で実際に使えることは、別なのです。
画猫さん:規則に書いてあるから使える、ではないのですね。有期の期間途中という条件が、すべての号に重くのしかかる、と。
江尾社労士:そのとおりです。ここで登場するのが「雇止め」です。期間途中で解雇するのではなく、契約期間が満了する時点で、次の更新をしないという判断です。当社の第41条第1項第1号は、労働契約が満了したときは、満了日をもって退職とする、と定めています。これは解雇ではありません。契約の期間が来て、更新をしないという、まったく別の場面なのです。
画猫さん:期間途中の「解雇」と、満了時の「雇止め」は、別ものなのですね。では、雇止めなら自由にできるのでしょうか。
江尾社労士:そこも慎重さが必要です。労働契約法第19条には「雇止め法理」があります。契約更新が反復され、本人が更新を期待する合理的な理由がある場合には、雇止めにも客観的合理性と社会的相当性が求められます。これを欠く雇止めは認められません。ですから、日ごろから、成果が出ていない点をきちんと本人に伝え、改善を促し、その記録を残しておくことが大切になります。
画猫さん:何の指導もせずに、突然「次は更新しません」では通らないのですね。
江尾社労士:そのとおりです。加えて、当社の第4条を見てください。嘱託社員の更新は自動ではなく、会社が契約期間満了日の一定期間前までに、更新の可否と労働条件を提示する仕組みになっています。この提示の場を活かし、期待する水準と現状のずれを丁寧に説明することが、後の紛争を防ぎます。急いで期間途中に解雇するより、更新の場面で正面から向き合うほうが、はるかに安全なのです。
画猫さん:もう一つ確認させてください。第40条に「解雇制限」とありますが、これはどういう場面で効いてくるのですか。
江尾社労士:第40条は、解雇そのものを一定期間禁止する規定です。業務上の傷病により療養のために休業する期間とその後30日間、そして女性が出産のために付与された休暇の期間とその後30日間は、解雇してはなりません。これは労働基準法第19条に基づくものです。たとえ解雇の理由があっても、この期間中は解雇できません。労災で療養している嘱託社員や、産前産後の休暇中の嘱託社員には、この保護が及ぶことを、必ず頭に入れておいてください。
画猫さん:理由があっても、時期によっては解雇できない。時期の制限もあるのですね。もし、やむを得ない事由が本当に認められて、期間途中の解雇に踏み切る場合は、どのような手続きが要りますか。
江尾社労士:第39条第2項が手続きを定めています。解雇するときは、少なくとも30暦日前に予告しなければなりません。予告をしないときは、平均賃金の30日分、いわゆる解雇予告手当を支払って即時に解雇することになります。これは労働基準法第20条に基づくものです。予告の日数は、平均賃金を支払った日数分だけ短縮できます。たとえば10日分の手当を払えば、予告は20日前で足りる、という計算です。
画猫さん:予告か、手当か、あるいはその組み合わせ、ということですね。ただ、これはあくまで手続きの話で、解雇そのものが有効かどうかは別問題なのですよね。
江尾社労士:まさにそのとおりです。ここは必ず区別してください。解雇予告手当を支払ったからといって、解雇が有効になるわけではありません。手当は「予告の代わり」にすぎず、解雇の理由が正当かどうかは、まったく別に問われます。理由が不十分な解雇は、たとえ手当を払っても無効です。手続きを踏むことと、解雇の理由が認められることは、二つの別々の関門なのです。
画猫さん:手当を払えば自由に解雇できる、という誤解も多そうです。理由と手続きは別の関門。しっかり分けて考えます。理由があっても、時期によっては解雇できない。整理できました。
トラブル2:「私傷病で長く休む嘱託社員に、休職を命じてよいのですか」──有期契約と休職制度
画猫さん:次の相談です。嘱託社員のGさんが、業務とは関係のない病気で、しばらく出勤できなくなりました。正社員には手厚い休職制度がありますが、Gさんにも同じように休職を命じてよいのでしょうか。
江尾社労士:大切な論点です。まず、休職とは何かを確認しましょう。休職は、労働者に労務の提供ができない事情があるときに、解雇を猶予し、一定期間、雇用を続けたまま療養に専念してもらう制度です。当社の第43条第1項第1号は、業務外の傷病による欠勤等で従前の労務提供ができないと会社が認めたときに、休職を命じることがある、と定めています。
画猫さん:「命じることがある」という書き方ですね。必ず命じなければならない、ではないのですか。
江尾社労士:よいところに気づかれました。ここが有期契約の嘱託社員をめぐる重要な点です。第43条第1項の後段には、状況によって、休職を命じることなく、一定期間の欠勤の容認をすることがある、とあります。つまり、休職を命じるかどうかには、会社の裁量の余地があるのです。
江尾社労士:そして、決定的に重要なのが第44条第1項です。休職期間の起算日は休職命令の初日とし、その期間は「労働契約期間内で個別に命ずる」と定められています。有期契約の嘱託社員の休職は、残っている契約期間の中でしか設定できないのです。
画猫さん:それは重要ですね。たとえば契約の残りが3か月しかなければ、休職期間も最大で3か月まで、ということですか。
江尾社労士:そのとおりです。正社員のように「最長で2年」といった長い休職期間を、そのまま有期契約の嘱託社員に当てはめることはできません。契約期間を超える休職を命じることは、理屈のうえで成り立たないからです。ですから、Gさんの残りの契約期間を確認し、その範囲内で休職を命じるか、あるいは短い欠勤なら容認で対応するかを判断することになります。
画猫さん:休職の間の賃金や、勤続年数の扱いはどうなるのでしょうか。
江尾社労士:第44条第5項により、休職期間中は賃金を支払いません。療養に専念する期間だからです。また第44条第2項では、休職期間は勤続年数に算入しない、と定めています。ただし、ここには大切な例外があります。同項は、年次有給休暇など、法に定める継続勤務に関するものを除く、としているのです。
画猫さん:つまり、休職していても、年次有給休暇の付与に必要な勤続の計算では、その期間も継続勤務として扱う、ということですか。
江尾社労士:正確に理解されています。年次有給休暇は、労働基準法第39条により、継続勤務と出勤率で発生します。この「継続勤務」の判断では、休職期間も在籍期間として通算されます。退職金の計算などでは勤続から除きつつ、年休の付与では継続勤務として扱う。この使い分けは、まさに法の要請に応えるための設計なのです。休職しているからといって、在籍そのものが途切れるわけではない、と押さえてください。
画猫さん:休職中も在籍は続いている。だから年休の計算には響かせない。制度の細部に、法の配慮が織り込まれているのですね。ところで、正社員の休職期間と、嘱託社員の休職期間の違いを、現場にどう説明すればよいでしょうか。混乱しそうです。
江尾社労士:具体例で示すのが一番です。たとえば正社員の就業規則で休職期間が最長18か月と定められていても、嘱託社員のGさんの契約が残り4か月なら、Gさんに命じられる休職はその4か月の枠の中まで、と説明します。正社員の数字をそのまま持ち込むと、契約期間を超える休職を約束したことになり、制度が破綻します。嘱託社員の休職は、常に「今の契約期間の残り」という物差しで測る。この一点を、現場に繰り返し伝えてください。
画猫さん:正社員の物差しではなく、契約期間の残りという物差しで測る。これは間違えやすい点ですから、契約更新のたびに残り期間を確認するようにします。
画猫さん:休職を命じるか、それとも短い欠勤として容認するか。この判断は、どのように考えればよいのでしょうか。
江尾社労士:見通しが鍵になります。療養に長い期間がかかりそうで、その間の身分を安定させる必要があるなら、休職を命じて解雇を猶予するのが本人のためになります。反対に、数日から数週間で回復が見込めるなら、あえて休職という重い手続きを取らず、欠勤を容認して待つほうが柔軟です。どちらが本人にとって酷でないか、そして契約期間の残りとどう釣り合うかを見て判断します。ここでも、医師の見立てが判断の土台になります。
画猫さん:回復の見通しと、契約期間の残り。その二つを照らし合わせるのですね。命じること自体が目的ではない、と。
江尾社労士:そのとおりです。休職は本人を守るための猶予の制度であって、体よく退職に追い込むための手段ではありません。そこを取り違えると、制度の趣旨から外れてしまいます。加えて、第43条第2項では、休職させる際に、会社が指定する医療機関での受診を命じることがある、とあり、その費用は会社が負担するとしています。休職を命じるかどうかの判断も、医学的な裏づけをもって行う。ここでも、思い込みではなく事実に基づく運用が求められます。
画猫さん:第44条第3項には、休職者は療養に専念する義務を負う、第4項には、一定期間ごとに療養状況の報告を求める、ともありますね。
江尾社労士:よく条文を読み込んでいますね。休職は、賃金を支払わないかわりに、雇用を維持して回復を待つ制度です。だからこそ、本人には療養に専念してもらい、会社は定期的に状況を把握します。この報告のやり取りは、単なる管理ではなく、復職に向けた対話の入口でもあります。連絡が途絶えないようにしておくことが、円滑な復職支援につながるのです。
トラブル3:「主治医が復職可能と言えば、復職させるしかないのですか」──復職判断と休職期間満了
画猫さん:最後の相談です。休職していた嘱託社員Hさんから、主治医の「復職可能」という診断書が届きました。しかし、現場の上司は「まだ本調子には見えない」と心配しています。主治医が復職可能と言う以上、会社は復職させるしかないのでしょうか。
江尾社労士:いいえ、主治医の診断書だけで自動的に復職が決まるわけではありません。当社の就業規則は、この点をていねいに設計しています。第45条を順に見ていきましょう。まず第2項で、復職を申し出る本人は、休職前と同様の労務提供ができる旨を証明する、主治医による書類を提出しなければならない、とされています。これが出発点です。
画猫さん:まず主治医の証明が要る。そこは分かります。しかし、その先はどうなるのですか。
江尾社労士:第45条第4項では、会社は、休職者が受診している医師、つまり主治医の意見を聴くことができ、本人はその実現に協力しなければならない、とあります。診断書を受け取るだけでなく、必要なら主治医から直接、就労の可否について説明を受けることができるのです。そして第5項が重要です。会社は、会社が指定した医療機関でも受診させ、その結果によって復職の可否を判断することができます。この場合の受診費用と診断書の費用は、会社が負担します。
画猫さん:主治医と、会社が指定する医師と、両方の意見を踏まえて判断できるのですね。なぜ二つの意見が必要なのでしょうか。
江尾社労士:主治医は、本人の生活を回復させる立場から診断します。その判断は尊重すべきですが、必ずしも、その職場で求められる具体的な業務に耐えられるかどうかまでを見ているとは限りません。一方、会社が指定する産業医などは、実際の業務の負荷を踏まえて、就労の可否を判断できます。二つの視点を突き合わせることで、本人にとっても会社にとっても納得のいく判断に近づくのです。
画猫さん:もし本人が、会社の指定する医師の受診を拒んだ場合は、どうなるのですか。
江尾社労士:第45条第6項に定めがあります。会社が認める正当な理由なく受診を拒否した場合は、主治医による証明を、休職事由が消滅したか否かの判断材料として採用しない、とされています。つまり、一方の意見だけを押し通すことはできない仕組みになっているのです。復職は、本人と会社が協力して、事実に基づいて判断すべきものだからです。
画猫さん:では、復職できると判断できないまま、休職期間が満了してしまった場合は、どうなるのでしょうか。
江尾社労士:そこが、有期契約の嘱託社員では特に重い場面になります。第46条をご覧ください。休職者が、休職期間満了までに休職事由が消滅せず、その後の労務提供が困難と会社が認めた場合は、休職期間満了日をもって一般退職とする、とあります。第41条第1項第4号も、これと対応しています。
画猫さん:休職期間が満了して復職できなければ、退職になる。しかも、有期の嘱託社員の休職期間は、契約期間の中でしか設定できない。すると、契約の満了と休職期間の満了が近づくのですね。
江尾社労士:そのとおりです。だからこそ、休職を命じる段階から、契約期間、休職期間、そして復職の見通しを一体で考えておく必要があります。第45条第3項には、復職の可否を判断できない場合には、休職期間を延長することがある、とありますが、有期契約では、延長も契約期間の枠に縛られます。行き当たりばったりでは、本人にとっても酷な結果を招きます。
画猫さん:ひとつ確認させてください。休職期間満了による退職は、第41条の一般退職ですから、解雇とは違いますね。すると、解雇予告のような手続きは要らないのでしょうか。
江尾社労士:法的な位置づけとしては、休職期間満了による退職は、解雇ではなく、規則に基づく契約の終了として整理されます。したがって、解雇予告の手続きが当然に必要になるわけではありません。ただし、それは「何も説明しなくてよい」という意味ではありません。本人にとっては職を失う重大な場面ですから、休職期間の満了が近いこと、復職には何が必要かを、早い段階から書面で丁寧に伝えておくべきです。
画猫さん:法律上は退職でも、本人への説明を省いてよいわけではないのですね。突然「今日で満了です」では、あまりに酷ですから。
江尾社労士:まさにそこが分かれ目です。手続きが法律で義務づけられていない場面でこそ、会社の姿勢が問われます。満了の見通し、復職に必要な診断書の提出期限、会社指定医の受診の案内。これらを前もって示しておけば、本人は納得して次の一歩を考えられます。逆に、説明を怠ると、たとえ規則どおりの退職でも、後から「不意打ちだ」と争いになりかねません。誠実な手続きが、結局は会社を守るのです。
画猫さん:休職の入口で、出口までの道筋を描いておく。そうすれば、本人にも早めに見通しを伝えられますね。
画猫さん:もう一つうかがいます。復職できるとなった場合、必ず元の仕事に戻すのでしょうか。病み上がりで、いきなり以前と同じ負荷は心配です。
江尾社労士:第45条第7項が、その点に配慮しています。復職は原則として休職前の職務に戻しますが、業務の都合や本人の状況に応じて、配置転換や職種変更をすることがある、とされています。つまり、回復の程度に合わせて、負荷の軽い業務から段階的に戻す、といった柔軟な運用が認められているのです。本人と協議のうえ、労働条件の変更をともなうこともあります。
画猫さん:本調子でないなら、軽めの業務から慣らしていく。そうした配慮も就業規則に織り込まれているのですね。
江尾社労士:そのとおりです。ただし、負荷を下げることが、そのまま賃金の引き下げにつながる場合には、本人への丁寧な説明と合意が欠かせません。特に嘱託社員は、次の契約更新の場面ともつながりますから、一時的な軽減なのか、恒常的な変更なのかを、はっきりさせておくことが後の誤解を防ぎます。
画猫さん:軽減の理由と期間を明確にしておく。復職の場面でも、説明と合意が要になるのですね。
江尾社労士:まさにそこです。復職支援は、単に医学的な可否を判定する作業ではありません。本人が安心して療養し、可能なら職場に戻れるよう、道筋を示して支えることです。予防的にかかわり、早めに情報を共有する。それが、長く働いてきた嘱託社員への誠実な向き合い方になります。
おわりに
第8章では、雇用の出口と中断を扱った。普通解雇と雇止めは、似て非なるものである。有期契約の期間途中の解雇には「やむを得ない事由」という高い壁があり、満了時の雇止めにも雇止め法理の配慮が要る。そして解雇制限は、労災療養中や産前産後の期間には解雇そのものを禁じる。
休職については、有期契約の嘱託社員では、休職期間が労働契約期間の中でしか設定できないという特有の制約がある。復職の判断は、主治医の診断書だけで決めるのではなく、会社指定医の意見もあわせ、事実に基づいて行う。そして休職期間の満了は、そのまま退職に直結しうる重い場面である。
この章を貫くのは、「区別する」という姿勢である。期間途中の解雇と満了時の雇止め、解雇と休職期間満了退職、主治医の判断と会社指定医の判断。似て見えるものを丁寧に切り分け、それぞれにふさわしい手続きを踏む。区別を怠ると、無効な解雇や不意打ちの退職として、会社も本人も傷つく。出口の設計は、入口の設計以上に、慎重さと誠実さを要する。次章では、いよいよ本シリーズの山場、賃金と同一労働同一賃金の論点に踏み込む。2026年10月に迫ったガイドライン改正を軸に、定年後再雇用の賞与や退職手当という、嘱託社員の核心に切り込んでいく。
参照条文一覧
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条文 |
内容の要点 |
主な関連トラブル |
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第39条 |
普通解雇の事由と予告。会社からの一方的な契約終了。 |
トラブル1 |
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第40条 |
解雇制限。労災療養中・産前産後の期間とその後30日間は解雇不可。 |
トラブル1 |
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第41条 |
一般退職。契約満了・休職期間満了等による退職の場面。 |
トラブル1・3 |
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第43条 |
休職の事由。業務外の傷病等。命じずに欠勤容認とする余地もある。 |
トラブル2 |
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第44条 |
休職期間は労働契約期間内で個別に命ずる。年休の継続勤務は算入。 |
トラブル2 |
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第45条 |
復職。主治医の証明と会社指定医の受診により可否を判断する。 |
トラブル3 |
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第46条 |
休職期間満了時の手続き。復職できなければ満了日に一般退職。 |
トラブル3 |
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労契法第17条第1項 |
有期契約はやむを得ない事由がなければ期間途中に解雇できない。 |
トラブル1 |
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労契法第19条 |
雇止め法理。反復更新等の場合、雇止めに合理性・相当性を要する。 |
トラブル1 |
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労基法第39条 |
年次有給休暇。継続勤務と出勤率で発生。休職期間も継続勤務に通算。 |
トラブル2 |
社会保険労務士 江尻育弘