就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編C
第4章 労働時間、休憩時間、休日および休暇
今回取り上げる労務問題
「契約書には週3日と書いてあるのに、毎週5日入るように言われます」──所定労働時間・所定休日と実態の乖離
「パートには年5日の有休取得義務はないと言われました」──年次有給休暇の取得義務への対応漏れ
「パートさんに産休はありません、と店長に言われました」──産前産後休業・母性健康管理がパート社員にも適用されることへの現場の無理解
はじめに
パート社員の労務管理で最も相談が多いテーマ、それが労働時間と休暇です。条文の数も第8条から第19条まで12条に及び、年次有給休暇の比例付与、時間外労働の取扱い、産前産後休業など、条文の読み落としや誤った運用が起きやすい領域です。特にパート社員の場合、個別の労働契約で所定労働時間や休日が決まるという二層構造を理解していないことが、トラブルの大きな原因になっています。
今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。3つのトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。
登場人物
江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。
画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。
トラブル1:「契約書には週3日と書いてあるのに、毎週5日入るように言われます」──所定労働時間・所定休日と実態の乖離
四月の沖縄は、清明祭(シーミー)の季節を迎える。先祖の墓前に家族が集い、重箱料理を広げて故人を偲ぶこの行事は、沖縄の人々にとって旧正月と並ぶ大切な年中行事だ。親戚一同が顔を揃えるため、パート社員の中にもシーミーの日に休暇を希望する人が少なくない。あっぱれ商事の人事部でも、この時期のシフト調整に毎年頭を悩ませている。そんな折、画猫さんが深刻な表情で江尾社労士の事務所を訪ねてきた。
画猫さん:「先生、パート社員のAさんから相談がありました。Aさんは週3日・1日5時間の契約なのですが、繁忙期に入った途端、店長から『しばらく週5日入ってほしい』と言われ、断れないまま2カ月間ずっと週5日勤務が続いているそうです。Aさんは『契約書には週3日と書いてあるのに、実態が全く違います』と訴えています」
江尾社労士:「これは第8条と第9条、そして個別の労働契約の関係を整理する必要がありますね。第8条第1項は『所定労働時間は、1日について実働8時間以内かつ1週40時間以内とする』と定め、第2項で『具体的には個別の労働契約にて定める』と規定しています。第9条の休日についても『具体的には個別の労働契約にて定める』です。つまり、パート社員の労働時間と休日は、就業規則が上限の枠を設け、個々の契約で具体的に確定する二層構造になっています」
画猫さん:「Aさんの契約が週3日・1日5時間であれば、それが所定労働日数と所定労働時間ですから、会社が一方的にこれを変更することはできないのですね」
江尾社労士:「そのとおりです。これは第3章でお話しした有期パートの異動と同じ問題構造です。労働契約法第8条は、労働契約の内容の変更は労使の合意によると定めています。店長が口頭で『入ってほしい』と言い、Aさんがやむなく応じている状態は、真の合意とは言い難い。実態として断れない状況であれば、事実上の命令と評価されます。最悪の場合、Aさんが『一方的に労働条件を変更された』として退職し、会社都合退職として扱われるリスクもあります」
画猫さん:「第3章のトラブル1でも出てきた話ですね。有期パートの場合は、異動も労働時間の変更も、本人の同意なく行うことはできないと」
江尾社労士:「まさにそのとおりです。第8条第2項が『具体的には個別の労働契約にて定める』としているのは、パート社員一人ひとりの事情──家庭の都合、通学との兼ね合い、体力的な制約──に応じた柔軟な契約を可能にするためです。その柔軟さの裏返しとして、契約で定めた内容には拘束力がある。会社の都合だけで一方的に変更することは許されません」
画猫さん:「第11条第1項に『原則として、パート社員には法定時間外労働および法定休日労働は命じないものとする』ともありますが、この規定との関係はどうなりますか」
江尾社労士:「Aさんの労働契約上の週の所定労働時間は15時間です。これを週25時間にしても、労働基準法が定める法定労働時間の40時間は超えません。しかし、Aさんの契約上の所定労働時間を大幅に超えていることには変わりがありません。我が社の就業規則第11条が'原則としてパート社員には法定時間外労働を命じない'としているのは、パート社員の労働時間を個別の契約の範囲内に収めるという就業規則上の方針です。法律の枠内であっても、就業規則と個別の契約で定めた枠を超える運用は許されません」
画猫さん:「所定労働時間を超えて働いた部分の賃金はどうなるのですか。法定時間内であれば割増は不要ですか」
江尾社労士:「第44条第2項を確認してください。『所定労働時間を超え、法定労働時間に達するまでの所定時間外労働手当については、法定の単価に所定時間外労働時間数を乗じたものを支払う』とあります。つまり、Aさんが契約の週15時間を超えて働いた部分は、法定労働時間の40時間に達するまでは割増なしの通常単価で、40時間を超えた場合は1.25倍の割増賃金が必要です。2カ月分の未払いが生じていないか、賃金台帳を確認すべきです」
画猫さん:「年次有給休暇の計算にも影響がありますよね。週3日契約なのに実態が週5日だと、どちらの日数で有休を計算するのですか」
江尾社労士:「重要なポイントです。第12条の比例付与は、週の所定労働日数に基づきます。契約上の所定労働日数は週3日ですから、原則としてその日数に対応する付与日数が適用されます。ただし、恒常的に週5日勤務が続いていた場合、実態に基づく再計算が必要になることもあり得ます。行政の見解では、所定労働日数は労働契約上の日数で判断するのが原則ですが、契約と実態が著しく乖離している場合は実態に基づく判断を求められることもあります。こうした混乱を防ぐためにも、契約と実態を一致させることが何より大切です」
画猫さん:「第10条の休日の振替についても確認しておきたいのですが、シフト変更の際に前日までの通知がないケースが散見されます」
江尾社労士:「第10条は『パート社員の同意を得た上で、休日を他の労働日に振替えることがある。この場合は、その振替の通知を対象となる休日または労働日の前日までに行う』と定めています。前日までの通知は手続き要件ですから、これを守らない振替は規定違反です。当日の急な出勤依頼は振替ではなく休日労働の問題になりますし、第11条との関係でパート社員への休日労働は原則として命じないこととされています。シフト管理を計画的に行うことが大切です」
画猫さん:「Aさんへの対応としてはどうすべきですか」
江尾社労士:「まず週3日の契約どおりの勤務に戻すことを店長に指示してください。繁忙期の追加勤務を依頼する場合は、期間・日数・時間を明確にした上で書面で同意を取る運用に改めるべきです。令和6年4月の労働条件明示ルール改正で、有期契約労働者に対しては就業場所・業務の変更の範囲を明示することが義務づけられています。所定労働日数の変更可能性についても労働条件通知書であらかじめ明確にしておくと、こうした乖離を未然に防ぐことができます。勤務場所の変更と同様に、勤務日数の変更もまた労働条件の重要事項ですから、書面による合意を基本とする運用を徹底してください」
画猫さん:「ここまでは会社側の問題を中心にお話しいただきましたが、パート社員の側にも守るべき義務はありますか」
江尾社労士:「もちろんあります。まず、Aさんは労働契約で定めた週3日・1日5時間の勤務を誠実に履行する義務を負っています。契約で定めたシフトに正当な理由なく出勤しない、あるいは遅刻・早退を繰り返すといった行為は、労務提供義務の不履行にあたります。また、就業規則第3条第5項は、提出書類の記載事項に変更があった場合は速やかに届け出なければならないと定めています。住所変更や家族構成の変化など、労働条件に関わる事項の届出はパート社員の義務です。権利と義務は表裏一体であり、契約を守る義務は会社だけでなくパート社員にも課されているということです」
画猫さん:「Aさんが2カ月間も週5日勤務に応じていたことについて、Aさんの側にも問題はありますか」
江尾社労士:「難しいところです。Aさんには契約外の勤務を断る権利がありましたが、現実には断りにくい力関係があった。ただし、契約と実態の乖離に気づいた時点で、人事部に相談するという選択肢もあったはずです。今後は、パート社員に対して『契約と違う働き方を求められた場合は人事部に相談してください』と周知しておくことが、問題の早期発見につながります。権利を主張するだけでなく、おかしいと感じたときに声を上げることも、パート社員に求められる姿勢です」
画猫さん:「もしAさんが追加勤務に同意する場合、社会保険の加入要件に影響することはありますか」
江尾社労士:「よい着眼点です。これは就業規則の話ではなく、法律──健康保険法と厚生年金保険法──の話になります。Aさんの労働契約上は週15時間ですが、実態が恒常的に週25時間になると、社会保険の加入要件──従業員51人以上の企業で週20時間以上かつ月額賃金8.8万円以上等──に該当する可能性があります。加入要件を満たしているにもかかわらず未加入のまま放置すると、年金事務所から遡及適用を求められるリスクがあります。労働時間の変更は、社会保険・雇用保険の適用関係にも波及しますから、人事部としてはその点も含めて管理する必要があります」
トラブル2:「パートには年5日の有休取得義務はないと言われました」──年次有給休暇の取得義務への対応漏れ
画猫さん:「先生、2つ目の相談です。パート社員のBさんが上司に有給休暇を申請したところ、『パートさんは年5日の取得義務の対象外だから、無理に取らなくていい』と言われたそうです。Bさんは週4日勤務で、勤続3年6カ月です」
江尾社労士:「完全な誤りです。第12条第5項を確認しましょう。『年次有給休暇が10日以上付与されたパート社員に対しては、付与日から1年以内に、当該パート社員の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社がパート社員の意見を聴取し、事前に時季を指定して取得させる』と定められています。対象かどうかは雇用形態ではなく、付与日数が10日以上かどうかで決まります。Bさんは週4日勤務で勤続3年6カ月ですから、我が社の就業規則第12条の表によれば年10日が付与され、5日取得義務の対象です。ここで押さえておきたいのは、この年5日の取得義務は、就業規則で独自に定めたルールではなく、労働基準法第39条第7項が定める法律上の義務だということです。法律上の義務ですから、正社員もパート社員も区別なく適用されます。『パートだから対象外』というのは法令に反する誤った認識です」
画猫さん:「週3日勤務のパート社員でも、長く勤めていれば対象になりますか」
江尾社労士:「なります。週3日勤務でも勤続5年6カ月で年10日に達します。週30時間以上勤務であれば所定労働日数に関係なく、勤続6カ月で年10日です。つまり、長く勤めているパート社員の相当数が5日取得義務の対象になるのです。管理職向けに、パート社員ごとの有休付与日数と取得状況の一覧表を配布し、対象者を明確にしておくべきです。10日以上付与されるパート社員が誰なのかが一目でわかるようにしておけば、今回のような誤った案内は防げます」
画猫さん:「第12条第2項の『2労働日前までの届出』を理由に有休を取りにくくしているケースもあると聞きますが、これは適切なのですか」
江尾社労士:「届出期限は我が社の就業規則が定めた手続き規定であり、有休取得を制限する趣旨ではありません。そもそも年次有給休暇は労働基準法第39条が保障する労働者の権利であり、会社が行使できるのは時季変更権──事業の正常な運営を妨げる場合に取得日を変更する権利──のみです。有休の取得そのものを拒否することはできません。年5日の取得義務は、会社が時季を指定してでも取得させなければならないものですから、『取りにくい雰囲気』は法的にも許容されません。取得義務を果たさなかった場合、これは法律違反ですから、労働基準法第120条により会社に30万円以下の罰金が科される可能性があります」
画猫さん:「第12条第4項の計画年休と第5項の時季指定の関係、第6項の時間単位年休との関係も整理して教えてください」
江尾社労士:「第4項は労使協定による計画的付与──5日を超える部分について事前に時季を指定する制度です。第5項の但書きにより、パート社員が自ら取得した日数や計画年休で取得した日数は5日から控除されます。計画年休で3日取得済みなら、会社が時季指定すべき残りは2日です。第6項の時間単位年休は労使協定で導入できますが、時間単位年休は5日取得義務の日数には算入されない点に注意が必要です。5日取得義務は半日単位または1日単位での取得が対象です。これらの仕組みを正確に把握し、パート社員ごとの有休管理台帳を整備して、付与日・取得日・残日数を常に把握しておくことが不可欠です」
画猫さん:「第12条第3項の出勤率の算定で、パート社員が誤解しやすい点はありますか」
江尾社労士:「第3項は、年次有給休暇を取得した期間、産前産後休業期間、育児・介護休業期間、業務上の傷病による休業期間を出勤したものとみなすと定めています。パート社員の中には『休んでいた期間があるから有休がもらえないのではないか』と不安に思う方もいますが、これらの期間は出勤率の計算上、分子に算入されます。正しい計算を行い、安心して制度を利用してもらうことが大切です」
画猫さん:「年次有給休暇については、パート社員の側にも守るべきルールがあるのでしょうか」
江尾社労士:「はい。権利には手続きが伴います。まず、第12条第2項の届出義務──パート社員が有休を取得する場合は、特別の理由がない限り、少なくとも取得を予定する日の2労働日前までに届け出なければなりません。これは我が社の就業規則が定めたパート社員の義務です。また、第12条第1項の出勤率要件──前1年間の労働日の8割以上の出勤が、有休付与の前提条件です。つまり、パート社員には、契約で定めた勤務日に誠実に出勤するという基本的な義務があり、その義務を果たした上で有休の権利が発生するという構造になっています。有休は無条件に付与されるものではなく、出勤率という義務の履行が前提であることを理解してもらうことが大切です」
画猫さん:「第12条第7項の繰越しについても確認しておきたいのですが、パート社員の有休は翌年に繰り越せるのですか」
江尾社労士:「はい。第7項は『付与日から1年以内に取得しなかった年次有給休暇は、付与日から2年以内に限り繰り越して取得することができる』と定めています。これは正社員と同じ扱いです。パート社員だから繰越しができないということはありません。ただし、第5項の5日取得義務は当年度の付与日から1年以内に果たさなければなりませんので、繰越分とは別に管理する必要があります」
画猫さん:「第12条第8項には有休取得時の賃金について『所定労働時間(契約時間)を労働した場合に支払われる通常の賃金を支払う』とありますが、シフト制のパート社員で日によって労働時間が異なる場合はどう計算するのですか」
江尾社労士:「有休を取得した日の所定労働時間に基づいて計算します。たとえば、月曜は5時間、水曜は3時間のシフトが組まれているパート社員が月曜に有休を取得した場合は5時間分の賃金を、水曜に取得した場合は3時間分の賃金を支払います。シフトが確定する前に有休を申請した場合は、通常のシフトパターンに基づいて計算することになります。Bさんへの対応としては、年5日取得義務の対象であることを上司に改めて説明させ、速やかに有休取得を進めてください。そして、パート社員全員の有休管理を人事部で一元的に行う体制の整備が急務です」
トラブル3:「パートさんに産休はありません、と店長に言われました」──産前産後休業・母性健康管理がパート社員にも適用されることへの現場の無理解
画猫さん:「先生、3つ目です。妊娠中のパート社員Cさんが、店長に産前休業の取得を申し出たところ、『パートさんには産休の制度はないから、退職してもらうしかない』と言われたそうです。Cさんはとても動揺しています」
江尾社労士:「極めて深刻な問題です。産前産後休業は、労働基準法第65条に基づく権利であり、正社員・パート社員の区別なく、すべての女性労働者に適用されます。第14条第1項は『6週間以内に出産予定の女性パート社員が請求したときは、産前の休業を取得することができる』、第2項は『出産日の翌日から8週間を経過していない女性パート社員を労働させることはない』と明記しています。就業規則にこれだけ明確に書いてあるのに、店長が知らなかったということ自体が深刻な問題です」
画猫さん:「そして『退職してもらうしかない』という発言はさらに大きな問題ですよね」
江尾社労士:「最大の問題はまさにそこです。妊娠を理由とする退職勧奨は、男女雇用機会均等法第9条第3項が禁じる不利益取扱いに該当します。さらに第33条には解雇制限も定められています。『女性パート社員が出産のために付与された休暇の期間およびその後30日間は解雇しない』という規定です。店長の発言は退職勧奨にとどまらず、解雇制限の趣旨にも抵触しかねません。会社としては、店長の発言を放置することなく、速やかに是正措置を講じなければなりません」
画猫さん:「産前産後休業以外にも、パート社員に適用される母性保護の規定はありますか」
江尾社労士:「複数あります。第15条の生理休暇──生理日の就業が著しく困難な場合に取得でき、賃金は支払われません。第16条の母性健康管理のための休暇──妊娠週数に応じた保健指導・健康診査のための休暇に加え、通勤緩和、休憩の延長、作業の軽減といった措置が定められています。第17条の育児時間──生後1年に達しない子を養育する女性パート社員は、1日2回各30分の育児時間を請求できます。そして第18条では、育児休業・介護休業等については育児・介護休業規程に定めるとされています。これらはすべてパート社員に適用されます。『パートだから対象外』という思い込みは根深いものですが、条文を読めば明確にパート社員を対象としていることがわかります」
画猫さん:「第14条第4項の『休業に対する賃金は支払わない』という点は、Cさんにとって経済的に不安ではないですか」
江尾社労士:「我が社の就業規則第14条第4項では休業中の賃金は支払わないと定めていますが、これとは別に、法律上の給付として、健康保険の被保険者であれば出産手当金──標準報酬日額の3分の2相当額──を受給できます。出産育児一時金の支給もあります。Cさんの社会保険加入状況を確認し、利用可能な制度を一覧にして伝えてください。産後の育児休業についても案内してあげてください。Cさんに安心してもらうことが最優先であり、店長には法律上の権利であることと退職勧奨が違法であることを厳しく指導し、管理職全体への研修実施も必須です。産前産後休業、生理休暇、母性健康管理の休暇、育児時間──これらがパート社員にも当然に適用されることを、現場のすべての管理職が理解している状態をつくらなければなりません」
画猫さん:「Cさんが有期契約の場合、産休中や産後に契約期間が満了するケースも考えられますが、その場合はどうなりますか」
江尾社労士:「有期契約のパート社員であっても、産前産後休業の権利は契約期間中である限り保障されます。ただし、契約期間の満了と産前産後休業が重なるケースでは、雇止めの有効性が問題になります。妊娠・出産を理由とする雇止めは、均等法第9条第3項の不利益取扱い禁止に抵触する可能性があります。Cさんの契約更新の見込みを確認し、更新が見込まれる場合は契約を更新した上で産前産後休業を取得してもらうのが適切な対応です。育児・介護休業法上の育児休業についても、有期契約労働者の場合は子が1歳6カ月に達する日までに労働契約が満了することが明らかでない場合に取得できますので、Cさんの契約期間も踏まえて案内してください」
画猫さん:「産前産後休業を取得するにあたって、Cさん自身に求められる手続き上の義務はありますか」
江尾社労士:「あります。まず、就業規則第14条第3項を確認してください。『会社は必要な書類などの提出を求めることがある。これにかかる費用はパート社員の負担とする』と定められています。産前休業の取得にあたっては、出産予定日を証明する医師の診断書等の提出が求められることがあり、その費用はCさんの負担です。また、産前休業は『請求した場合』に取得できるものですから、Cさんから会社に対して休業の申出を行う必要があります。産後休業については、産後8週間は請求の有無にかかわらず就業させてはならないため、会社が把握すべき義務がありますが、出産日の報告はCさんの側にも求められます。さらに、第38条の退職時の留意事項と同様に、休業に入る前の業務引継ぎへの協力も、パート社員として果たすべき義務です」
画猫さん:「権利の行使と義務の履行はセットなのですね。Cさんには、安心して産休を取得してもらうと同時に、必要な手続きと引継ぎへの協力をお願いするということですか」
江尾社労士:「そのとおりです。権利を保障することと、手続き上の義務を果たしてもらうことは矛盾しません。むしろ、手続きを丁寧に進めることで、Cさんも安心でき、職場の側も休業中の体制を整えやすくなります。『権利を主張するだけ』でも『義務だけを押しつける』でもなく、双方が歩み寄ることが、産前産後休業を円滑に運用するための鍵です」
画猫さん:「Cさんが出産後に復帰した場合、第11条第4項の育児に関する時間外労働の制限も適用されますか」
江尾社労士:「はい。第11条第4項は『小学校就学の始期に達するまでの子を養育するパート社員の時間外労働等の取扱いについては、育児・介護休業規程に定める』としています。Cさんが復帰した後も、育児・介護休業法に基づく所定外労働の制限、時間外労働の制限、深夜業の制限などの措置を利用できます。産前休業から産後休業、育児休業、そして復帰後の育児支援制度まで、利用可能な制度を時系列で整理してCさんに伝えると安心感が大きく変わります。人事部として、妊娠・出産・育児に関する制度利用のフローチャートを作成しておくとよいでしょう」
おわりに
画猫さん:「第4章がパート社員の日々の働き方に最も密接に関わる章であることがよくわかりました。契約と実態を一致させること、年次有給休暇の取得義務を正しく理解すること、産前産後休業はパート社員にも当然適用されること──どれも現場で見落とされがちなポイントでした」
江尾社労士:「今日は3つのトラブルを取り上げましたが、第4章にはまだ触れていない重要な規定もあります。たとえば、第11条第2項は満18歳未満のパート社員には法定時間外労働、法定休日労働および深夜労働をさせないと定めています。高校生のアルバイトを雇っている場合は特に注意が必要です。また、第11条第3項は、妊産婦が請求した場合にはこれらの労働をさせてはならないとしており、先ほどのCさんのケースでも関連してきます。第13条の特別休暇や第19条の公民権行使の時間──裁判員制度への参加をパートだからと拒否するケースも散見されます──など、現場で見落とされやすい規定が数多くあります」
画猫さん:「有休管理台帳の整備と、管理職向けの研修を早急に進めます。Cさんの件は、店長への指導も含めて人事部として責任を持って対応します。それと、妊娠・出産・育児に関する制度利用のフローチャートも作成して、パート社員に配布できるようにしたいと思います」
江尾社労士:「根底にある考え方はシンプルです。パート社員の労働時間と休暇は個別の労働契約で定められ、就業規則がその枠組みを保障し、法律が最低限の権利を保障する。同時に、パート社員にも契約で定めた勤務を誠実に履行する義務、有休取得の届出義務、各種手続きへの協力義務があります。権利と義務は車の両輪です。どちらかだけでは職場はうまく回りません。会社がパート社員の権利を尊重し、パート社員が自らの義務を果たす──この相互の信頼関係が、第4章の各規定を生きたルールにします。次回は第5章『服務』を取り上げましょう。出退勤の記録、副業・兼業の届出、ハラスメント防止──パート社員の日常の行動規範に関わるテーマが並んでいます」
参照条文一覧
社会保険労務士 江尻育弘