就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編G
第8章 解雇、退職および休職など
今回取り上げる労務問題
・「来月で契約終了です」──有期契約の雇止めと更新期待権
・「Bさんが突然来なくなりました」──連絡不能・居所不明による自然退職
・「復帰したいのですが……」──無期パート社員の休職と復職をめぐる問題
はじめに
「契約更新されると思っていたのに、突然『次はありません』と言われた」──有期雇用のパート社員にとって、雇止めは生活基盤を揺るがす出来事です。厚生労働省の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」でも、解雇・雇止めは相談件数の上位を占めています。第8章は雇用関係の終わり方と一時的な中断を定める章です。第1章で学んだ"土台"の上に立ち、3つのトラブルを通じて読み方と活かし方を学んでいきましょう。
登場人物
江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。
画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。
トラブル1:「来月で契約終了です」──有期契約の雇止めと更新期待権
四月の沖縄は、野原や道路脇の石灰岩の隙間からテッポウユリの白い花が次々と顔を出す季節だ。沖縄原産のこの花は明治期にヨーロッパへ渡り、「イースターリリー」の名で世界に広まった。しかし、あっぱれ商事の人事部には春の穏やかさとは程遠い相談が舞い込んでいた。
画猫さん:「先生、有期契約のパート社員Aさんのことでご相談です。Aさんは4年半前に入社し、半年ごとに9回更新してきました。ところが管理職から『業務量が減ったので次の更新はしない』と言われたのです」
江尾社労士:「9回更新で4年半──慎重な対応が必要です。我が社の就業規則第34条第1項第1号では『労働契約期間が満了したとき』は退職となります。これが原則です。しかし、法律のルールである労働契約法第19条の雇止め法理が問題になります。有期契約が反復更新されて実質的に無期契約と同視できる場合や、労働者が更新を合理的に期待している場合には、雇止めにも客観的合理的理由と社会通念上の相当性が必要です。9回更新のAさんは典型例といえます」
画猫さん:「就業規則の第34条だけでは判断できないのですね」
江尾社労士:「そうです。まずAさんの個別の労働契約書を確認してください。更新の有無がどう記載されているか、過去の更新時に不更新の可能性を説明していたかが判断材料になります。また、厚生労働省の雇止め基準告示では、3回以上更新または1年超の継続雇用の場合、雇止めの30日前までの予告と、請求があった場合の理由明示を求めています」
画猫さん:「第32条の普通解雇でも30日前の予告が必要ですが、雇止めと解雇は同じですか」
江尾社労士:「法的には異なります。第32条の解雇は会社からの一方的な契約解消で、労働基準法第20条が直接適用されます。雇止めは契約満了に伴う不更新ですから解雇予告の規定は直接適用されませんが、雇止め基準告示により実質的に同等の手続きが求められます。Aさんへの対応としては、業務量減少の客観的根拠、他部署への配置転換の可能性を検討し、十分な説明の場を設けてください。就業規則、個別の労働契約、法律──この三層を重ねた判断が適正な労務管理の基本です」
トラブル2:「Bさんが突然来なくなりました」──連絡不能・居所不明による自然退職
画猫さん:「先生、急ぎのご相談です。有期契約のパート社員Bさんが先週月曜から出勤せず、電話にも出ません。緊急連絡先のご家族も『本人と連絡が取れない』とのことです」
江尾社労士:「まずBさんの安全確認が最優先です。その上で就業規則を確認しましょう。第34条第1項第4号に『会社の許可なく欠勤し、連絡不能、居所不明などのとき──欠勤開始日の翌日を初日として14労働日を経過した日』に退職となる旨が定められています」
画猫さん:「同じ条文に『状況に応じ、懲戒解雇に処すことがある』という但書きもありますが、どう使い分けるのですか」
江尾社労士:「連絡が取れず本人の意思が確認できない場合は、第34条第4号の一般退職が穏当です。懲戒解雇には第28条に基づく事実確認と弁明の機会が必要ですが、連絡不能ではそのプロセスが困難だからです。なお、第30条第2号Bにも無断欠勤が14労働日を経過した場合の懲戒解雇事由が定められていますので、両方の条文を把握しておいてください。会社として連絡を試みた記録──電話の発信記録、メール送信履歴、ご家族への連絡記録──を時系列で残してください。さらに配達証明付き郵便で出勤催告と、欠勤継続時は第34条第4号に基づき退職となる旨を通知することが重要です」
画猫さん:「14労働日の起算も確認させてください。Bさんの欠勤開始は4月14日月曜日です」
江尾社労士:「起算日は欠勤開始日の翌日──4月15日です。注意点は『労働日』で数えることです。Bさんの所定休日の土日はカウントしません。カレンダー上の日数ではなく、契約上の所定労働日で数えます。また、14労働日経過前に契約期間が満了する場合は、第34条第1号──期間満了──による退職が先に成立しますので、契約残日数との比較も忘れずに」
トラブル3:「復帰したいのですが……」──無期パート社員の休職と復職をめぐる問題
画猫さん:「先生、3つ目のご相談です。無期契約のパート社員Cさんがメンタルヘルスの不調で3カ月前から休職中です。主治医は『軽作業なら復職可能』と診断しましたが、産業医は『従前の業務に耐えられない』との意見で、判断が宙に浮いています」
江尾社労士:「よくあるケースです。Cさんは無期契約ですから第39条第2項で休職制度が適用されます。有期契約には第39条第1項で『休職を適用しない』と明記されています。第1章のトラブル2で学んだ有期と無期の制度設計の差の一つですね。復職については、第41条第2項で、Cさんは『休職前と同様の労務提供ができる旨の証明書』を提出する必要があります。主治医の『軽作業なら可能』は、この条件を満たしていない可能性があります」
画猫さん:「会社はどう判断すればよいのですか」
江尾社労士:「第41条第4項に基づき、主治医との面談を設定します。Cさんの協力を得て業務内容を主治医に伝え、復職可否の意見をもらいます。主治医は日常生活レベルでの回復を見ていて、業務の実態を知らないまま判断している場合も多いのです。さらに第5項により、会社指定の医療機関でも受診させ、双方の意見を総合して会社が最終判断します。大切なのは、これを『復職させないための手続き』ではなく、『安全に復職するための手続き』と位置づけることです」
画猫さん:「休職期間内に回復しなかった場合はどうなりますか」
江尾社労士:「第42条により、休職期間満了日をもって一般退職となります。解雇ではなく自然退職ですが、Cさんにとっては重大です。休職中も第40条第6項に基づき定期的に療養状況の報告を求めつつ、残日数を丁寧に伝えてください。第40条第1項の休職期間は『180暦日以内』でカレンダー上の日数です。トラブル2の『14労働日』とは数え方が異なりますので注意してください」
画猫さん:「復職後に再び同じ不調で休職した場合はどうなりますか」
江尾社労士:「第40条第2項により、復職日から3カ月以内に同様の傷病で再休職する場合、前回の期間と通算されます。180暦日の残日数管理が不可欠です。また、第40条第5項のとおり、Cさんには療養専念義務がありますが、逆に会社が頻繁な業務連絡で療養を妨げることも不適切です。報告の頻度と方法をあらかじめ取り決めておきましょう」
おわりに
画猫さん:「第8章がこれほど幅広いテーマを扱っているとは思いませんでした。雇止め、連絡不能退職、休職と復職──どれも対応を誤れば法的リスクだけでなく、働く人の生活に直結しますね」
江尾社労士:「第8章の根底にあるのは、会社と従業員の権利と義務のバランスです。会社には契約を終了させる権利がありますが、正当な手続きと合理的な理由が必要です。従業員にも届出や療養専念、業務引継ぎの義務があります。テッポウユリは花が終わると地上部が枯れますが、球根は土の中で生き続け、翌年また花を咲かせます。雇用関係も同じで、適切な対応をしていれば、たとえ契約が終わっても会社への信頼は残るものです。次回は第9章『賃金』を取り上げましょう。時間外手当の計算や同一労働同一賃金の問題など、間違えやすいポイントが満載ですよ」
参照条文一覧
社会保険労務士 江尻育弘