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「就業規則の読み方・活かし方」本則編
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就業規則の読み方・活かし方_パートタイム社員編

就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編E

第6章 教育

今回取り上げる労務問題

・「パートさんには研修は必要ないでしょ」──教育訓練の対象からパート社員を外すことの法的リスク

・「研修の時間って、タダ働きですか?」──教育訓練の時間が労働時間として扱われていない問題

・「正社員だけスキルアップできるなんて不公平です」──教育機会の格差がもたらすモチベーション低下と離職

はじめに

「パートさんには難しい研修は要らないよ。簡単な作業だけお願いしているんだから」──現場の管理職からこうした声が聞こえてくることは珍しくありません。しかし、厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によれば、OFF-JT(通常の業務を一時的に離れて行う教育訓練)を実施した事業所の割合は、正社員向けが71.6%であるのに対し、正社員以外向けはわずか31.2%にとどまっています。計画的なOJTに至っては、正社員向け61.1%に対し、正社員以外向けは27.1%です。この格差は、パート社員の能力開発に対する関心の低さを数字ではっきりと示しています。

第6章「教育」はわずか1条──第26条──だけの短い章です。しかし、この1条の背後には、パートタイム・有期雇用労働法が定める教育訓練の実施義務、労働基準法が定める労働時間の原則、そして労働安全衛生法が定める安全衛生教育の義務が控えています。「たった1条だから大したことはない」と読み飛ばすと、思わぬ法的リスクを抱え込むことになりかねません。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。3つのトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

トラブル1:「パートさんには研修は必要ないでしょ」──教育訓練の対象からパート社員を外すことの法的リスク

四月の沖縄では、海沿いの崖地や石灰岩の斜面に、白いラッパ形のテッポウユリが咲き始める。本州で百合といえば夏の花だが、沖縄原産のテッポウユリは春の訪れとともに開花し、潮風に揺れるその姿は島の四月を象徴する風景だ。あっぱれ商事の那覇営業所の窓からも、隣の空き地に群生する白い百合が見えていた。しかし、画猫さんの表情はその花のように晴れやかではなかった。

 

画猫さん:「先生、営業部のC課長から、こんな相談を受けました。今月から全社で始まる情報セキュリティ研修について、『パートのAさんとBさんは対象から外していいですよね。簡単な入力作業しかしていないし、正社員向けの内容では難しすぎるでしょう』と。正直、私もどう答えていいか迷いまして……」

江尾社労士:「結論から言えば、パート社員を一律に教育訓練の対象から外すのは問題があります。まず、我が社の就業規則を確認しましょう。第26条を見てください。『会社はパート社員の技能、知識、教養、従事する業務に必要な安全および衛生に関する知識を向上させるため、必要に応じて教育を行い、または外部の教育に参加させることがある』と定められています」

画猫さん:「『必要に応じて教育を行い』とありますから、必要がなければ行わなくてもいい、とも読めますよね?」

江尾社労士:「条文の文言だけを見ればそうも読めます。しかし、ここで就業規則とは別に、法律の規定を確認する必要があります。パートタイム・有期雇用労働法第11条第1項は、事業主に対し、通常の労働者と同じ職務内容の短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同様の『職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練』を実施する義務を課しています。これは努力義務ではなく、法的な義務です。AさんとBさんが情報セキュリティに関わるデータ入力を行っているのであれば、情報セキュリティ研修はまさに『職務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練』に該当し得ます」

画猫さん:「法律上の義務があるのですね。では、我が社の就業規則の『必要に応じて』という文言は、法律の義務を排除する趣旨ではないということですか」

江尾社労士:「そのとおりです。就業規則は法律を下回る水準を定めることはできません。第26条の『必要に応じて』は、すべてのパート社員に同一の教育訓練を一律に行うことまでは求めていない、という意味合いです。職務内容に応じて必要な教育を見極めて実施する──その裁量は会社にありますが、職務に必要な教育そのものを実施しない選択は許されません」

画猫さん:「C課長が言う『簡単な入力作業だから不要』という判断は通用しないわけですね」

江尾社労士:「入力作業であっても個人情報や取引先データを扱うのであれば、情報セキュリティの知識は職務遂行に不可欠です。加えて、もう一つ重要な法律があります。労働安全衛生法第59条は、事業者に対し、労働者を雇い入れたときに安全衛生教育を実施する義務を課しています。さらに同法第59条第2項は、作業内容を変更したときにも同様の教育を行うよう求めています。これらの規定に雇用形態による例外はありません。正社員もパート社員も等しく対象です」

画猫さん:「安全衛生教育は雇入れ時だけでなく、作業内容の変更時にも必要なのですね。では、情報セキュリティ研修のような業務上の教育訓練と、安全衛生教育は別の問題として整理すべきですか」

江尾社労士:「よい整理です。安全衛生教育は法律が直接義務づけているもので、就業規則に書いてあるかどうかに関わらず実施しなければなりません。一方、情報セキュリティ研修のような業務上の教育訓練は、就業規則の第26条とパートタイム・有期雇用労働法第11条が根拠になります。いずれにせよ、パート社員であることを理由に教育訓練の対象から外すことは法的にリスクが高い。C課長には、パート社員も研修対象に含めるよう伝えてください。研修内容が正社員向けで難しすぎるという懸念があるなら、パート社員の職務内容に即した内容にアレンジするか、補足説明の時間を設けるなどの工夫で対応すべきです」

画猫さん:「それと先生、パートタイム・有期雇用労働法第11条第2項はどうでしょうか。職務内容が正社員と異なるパート社員への教育訓練についても何か定めがありますよね」

江尾社労士:「鋭い指摘です。同条第2項は、職務内容が異なる場合でも、『職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ』教育訓練を実施するよう努めなければならないと定めています。こちらは努力義務ですが、教育訓練の格差が待遇の不合理な相違と評価される可能性があることを考えれば、軽視はできません」

画猫さん:「わかりました。C課長にはパート社員も研修対象に含めること、そしてその法的根拠を丁寧に説明します。ただ、一つ気になるのは、パート社員の側にも研修を受ける義務はあるのかという点です」

江尾社労士:「大切な視点です。第26条は会社が教育を行い、または外部の教育に参加させることができると定めています。つまり、会社が業務上必要と判断して教育訓練を命じた場合、パート社員にはこれに応じる義務があります。第22条の服務心得でも、会社の指揮のもとに業務の達成に努めることが求められています。教育訓練は権利であると同時に、業務命令として行われる場合には義務でもある──このバランスを伝えることが大切です」

画猫さん:「わかりました。ところで先生、今回の情報セキュリティ研修に限らず、パート社員にどのような教育訓練をどの程度実施すべきか、社内で基準がないのも問題ですよね。何か指針はありますか」

江尾社労士:「年度ごとに『教育訓練計画』を策定し、正社員・パート社員それぞれに実施する教育訓練の内容と時期を明示しておくことをおすすめします。計画があれば、C課長のように『パートは対象外でいいですよね?』という判断を現場任せにせず、会社としての方針で対応できます。パート社員も含めた計画を策定すること自体が、パートタイム・有期雇用労働法の趣旨に沿った取組みになりますし、労働局の調査が入った際にも、教育訓練の実施状況を説明する有力な根拠になります」

トラブル2:「研修の時間って、タダ働きですか?」──教育訓練の時間が労働時間として扱われていない問題

画猫さん:「先生、2つ目のご相談です。先月、パート社員のDさんから給与明細について問い合わせがありました。先月受講した衛生管理者向けの講習──これは会社が指定して業務時間外に受講させたものですが──その2時間分が給与に反映されていなかったのです。Dさんは『研修の時間はタダ働きなのですか』と不満を漏らしていまして……」

江尾社労士:「これは深刻な問題です。まず原則を確認しましょう。会社が命じた教育訓練の時間は、労働時間に該当します。これは労働基準法第32条の労働時間の原則から導かれる解釈であり、行政通達でも繰り返し示されてきた考え方です。会社が指定し、出席が義務づけられている研修であれば、パート社員であっても労働時間として扱い、賃金を支払わなければなりません」

画猫さん:「Dさんの場合、会社が指定して受講させたのですから、明らかに労働時間ですよね。なぜ賃金が支払われなかったのでしょうか」

江尾社労士:「よくあるパターンとしては、現場の管理職が『研修は業務ではない』と誤解しているケース、あるいは勤怠システムに研修時間を入力する仕組みがなく、記録から漏れてしまうケースです。特にパート社員の場合、シフト制で勤務時間が固定されていないため、シフト外の研修時間が管理の網から漏れやすいのです。いずれにしても、結果として賃金の未払いが生じている以上、速やかに差額を精算する必要があります」

画猫さん:「未払い賃金になるわけですね。ところで、業務時間外に実施されたということは、所定労働時間を超えていた可能性もあります。第8条で定める所定労働時間との関係はどうなりますか」

江尾社労士:「第8条は『所定労働時間は、1日について実働8時間以内かつ1週40時間以内とする』と定めています。Dさんの通常の勤務時間が6時間であれば、研修2時間を加えた8時間までは法定時間内ですが、所定時間外になります。この場合、第44条第2項に基づき、所定時間外労働手当として法定の単価に所定時間外労働時間数を乗じた額を支払うことになります。法定の8時間を超える部分があれば、さらに時間外労働手当として1.25倍の割増賃金が必要です」

画猫さん:「研修時間の扱いを一つ間違えるだけで、未払い賃金と割増賃金の問題が同時に発生するということですね……」

江尾社労士:「そうです。さらに注意が必要なのは、“任意参加”を装って実質的に参加を強制している場合です。たとえば、『この研修は任意ですが、参加しないと評価に影響します』といった運用をしていれば、実態として労働時間に該当します。名目が任意か強制かではなく、不参加の場合に不利益が生じるかどうかが判断基準です」

画猫さん:「では逆に、本当に自由参加の研修であれば労働時間にはならないのですか」

江尾社労士:「本当に自由参加で、不参加でも一切の不利益がなく、参加者が自発的に申し込む形態であれば、労働時間には該当しません。ただし、その場合でも、パート社員の自己啓発を会社として支援する姿勢は大切です。令和6年度の能力開発基本調査では、正社員以外で自己啓発を実施した労働者の割合は15.8%にとどまっています。正社員の45.3%と比べると約3分の1の水準です。会社が自己啓発の環境を整えなければ、パート社員が自ら学ぶ機会はさらに限られてしまいます」

画猫さん:「Dさんへの対応としては、まず未払い分の精算ですね。今後に向けてはどのような対策を取ればよいでしょうか」

江尾社労士:「具体的には3点です。第一に、会社が命じた研修については勤怠システムに『研修時間』として入力できる仕組みを設けること。第二に、管理職に対して、会社命令の研修は労働時間であるという原則を繰り返し周知すること。第三に、任意参加の研修についても、任意であることの判断基準──不参加による不利益がないこと、参加の強要がないこと──を社内で明確にし、運用ルールを文書化しておくことです。研修時間の管理は、パート社員の信頼を守るための基本中の基本です」

画猫さん:「先生、もう一つ確認したいのですが、研修時間中にケガをした場合は労災の対象になりますか」

江尾社労士:「会社が命じた研修への参加中であれば、業務遂行性と業務起因性が認められますので、原則として労災の対象になります。なお、研修会場への移動中については、会社から研修会場へ向かう場合は業務災害、自宅から直接研修会場へ向かう場合は通勤災害として扱われます。いずれも労災保険の対象ではありますが、業務災害と通勤災害では補償内容が異なる部分がありますので、区別して理解しておくことが大切です。これは第52条の災害補償にも関わる問題ですので、研修を実施する際には安全面の配慮も怠らないようにしてください」

画猫さん:「研修時間の賃金支払いだけでなく、労災リスクまで考慮しなければならないのですね。Dさんには未払い分を速やかに精算して、謝罪とともに今後の改善策を伝えます」

トラブル3:「正社員だけスキルアップできるなんて不公平です」──教育機会の格差がもたらすモチベーション低下と離職

画猫さん:「先生、3つ目のご相談です。最近、パート社員の離職が続いていまして……。退職面談で理由を聞くと、複数の方が『正社員にはいろいろな研修があるのに、パートには何もない。成長する機会がないのでやりがいを感じられなくなった』とおっしゃるのです。あっぱれ商事では、外部のビジネススキル研修やマネジメント研修を正社員向けに年2回実施しているのですが、パート社員向けには入社時のオリエンテーション以降、特別な教育プログラムを用意していません」

江尾社労士:「離職の理由が教育機会の格差とは、会社にとって耳の痛い話ですが、非常に重要な問題提起です。令和6年度の能力開発基本調査では、正社員以外に対する過去3年間のOFF-JT費用について、『実績なし』と回答した企業が70.4%に達しています。さらに、今後3年間の見込みでも『実施しない予定』が62.2%です。あっぱれ商事だけの問題ではなく、多くの企業が同じ課題を抱えています」

画猫さん:「7割が費用を支出していないのですか……。でも先生、外部研修をパート社員にも受けさせるとなると、費用の問題があります。パート社員の研修費用は誰が負担するのでしょうか」

江尾社労士:「大事な論点です。第26条は『外部の教育に参加させることがある』と定めていますが、費用負担についての明示的な定めはありません。しかし、会社が業務上の必要から外部研修への参加を命じる場合、その費用は原則として会社が負担すべきです。安全衛生教育については、昭和47年9月18日付の行政通達(基発第602号)で教育に要する費用は事業者が負担すべきとされていますし、業務上の教育訓練についても、会社が命じた活動に要する費用を労働者に転嫁するのは不合理です。また、研修会場への交通費についても、業務命令による参加である以上、通勤手当と同様の取扱いで実費を支給するのが適切です」

画猫さん:「会社が命じた研修の費用と交通費は会社持ち、ということですね。では、パート社員が自分の希望で外部研修を受けたいという場合はどうなりますか」

江尾社労士:「パート社員が自発的に受講を希望する場合、費用負担のルールは就業規則や社内規定の定めによります。あっぱれ商事の場合、外部研修の費用補助に関する規定が現状ではないようですから、検討が必要ですね。パート社員に対しても自己啓発支援制度を設ける──たとえば業務に関連する資格取得の費用を一定額まで補助する、eラーニング教材を正社員と同じ条件で利用できるようにする──といった施策が考えられます」

画猫さん:「正社員と同じ研修を全部受けさせるのは現実的に難しいかもしれませんが、何も用意しないのは法的にも実務的にも問題があるということですね」

江尾社労士:「そうです。パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項は、パート社員から求めがあった場合に、通常の労働者との待遇の相違の内容と理由について説明する義務を事業主に課しています。『なぜ正社員にはマネジメント研修があるのにパートにはないのですか』と聞かれたとき、合理的な理由を説明できなければ、この説明義務に違反する可能性があります。単に『パートだから』では説明になりません」

画猫さん:「職務内容の違いに応じた合理的な理由が必要なのですね。具体的にはどう整理すればよいでしょうか」

江尾社労士:「教育訓練を3つのカテゴリーに分けて考えると整理しやすくなります。第一に、法律上すべての労働者に義務づけられている教育──安全衛生教育がこれにあたります。雇用形態に関わらず全員が対象です。第二に、職務遂行に必要な教育訓練──パートタイム・有期雇用労働法第11条第1項の実施義務の対象で、同じ職務内容であれば同じ教育を実施しなければなりません。第三に、キャリア形成を目的とした教育──正社員向けのマネジメント研修や幹部候補研修などです。これについては職務内容や人材活用の仕組みの違いに応じた合理的な理由があれば、対象者を限定することが許容されます」

画猫さん:「第三のカテゴリーでも、パート社員には何もしなくてよいわけではないのですよね」

江尾社労士:「そのとおりです。マネジメント研修の対象にしないとしても、パート社員の職務に応じたスキルアップの機会──たとえばPC操作スキルの向上研修、接客マナー研修、食品衛生や情報セキュリティの定期講習など──は提供すべきです。パートタイム・有期雇用労働法第11条第2項の努力義務や、第26条の趣旨を踏まえれば、パート社員にも何らかの教育機会を確保することが求められています。教育の内容を職務内容に合わせることと、教育の機会そのものを奪うことは、まったく別の話です」

画猫さん:「カテゴリー分けの考え方、とてもわかりやすいです。それと先生、パート社員が研修を受ける場合、本人にも責任はありますよね」

江尾社労士:「もちろんです。会社が教育訓練の機会を提供する義務を負う一方で、パート社員にも、提供された教育訓練に真摯に取り組み、習得した知識やスキルを業務に活かす責任があります。第22条の服務心得は、『自己の職務は正確かつ迅速に処理し、常にその能率化を図るよう努めること』と定めていますが、教育訓練を通じた能力向上はまさにこの義務の一環です。会社と従業員が互いの責任を果たすことで、教育訓練は意味を持つのです」

画猫さん:「そうですね。では、あっぱれ商事として具体的にどこから手をつければよいでしょうか。何から始めるべきか、優先順位を教えていただけますか」

江尾社労士:「まず最優先は、現在パート社員に実施している教育訓練の棚卸しです。雇入れ時の安全衛生教育は全員に実施できているか、その記録は残っているか。次に、職務遂行に必要な教育訓練──今回の情報セキュリティ研修のようなものですね──の対象者にパート社員が含まれているかを確認する。そして第三に、来期の教育訓練計画にパート社員向けの施策を盛り込む。一気にすべてを整えるのは難しいですから、法的リスクの高い順──法律上の義務が明確なものから順に──着手するのが現実的です」

画猫さん:「棚卸し、対象者の見直し、来期の計画──この3ステップで進めてみます。それから、離職したパート社員の方々が指摘してくれた『成長の機会がない』という声は、これから改善していくための貴重なヒントですよね」

江尾社労士:「そのとおりです。退職面談で正直な声を聞けたことは、むしろ幸運だったと考えてください。声を上げずに黙って辞めていく人のほうが圧倒的に多いのですから。教育訓練の充実は、パート社員の定着率向上だけでなく、職場全体のスキル底上げにもつながります。テッポウユリが潮風の吹く厳しい環境でも根を張って花を咲かせるように、教育という土壌があってこそ、人は成長できるのです」

おわりに

画猫さん:「今日は勉強になりました。第26条はたった1条ですが、その背後にある法律や実務上の論点はとても奥が深いですね。正直、教育の章はさらっと読み飛ばしていたのですが、パート社員の教育機会の確保が法的な義務であること、研修時間は労働時間であること、教育機会の格差が待遇の不合理な相違と評価されうること──どれも知らなければ大きなリスクになる問題ばかりでした」

画猫さん:「ところで先生、もう一つだけ。パート社員が教育訓練を通じてスキルを高めた結果、正社員への転換を希望するケースも出てくると思うのですが、そのあたりの接続はどう考えればよいですか」

江尾社労士:「よい着眼点です。第7条の正社員転換制度を思い出してください。第3章で学んだように、会社は正社員募集の内容をパート社員にも周知する義務があります。教育訓練を受けてスキルアップしたパート社員が正社員に応募する──これは制度として最も健全な形です。教育訓練と正社員転換制度を連動させることで、パート社員にとってのキャリアパスが見えてくる。そうなれば、教育は単なる法令遵守ではなく、人材の定着と成長を促す戦略的な投資になります」

江尾社労士:「教育は“投資”です。パート社員への教育を“コスト”としか見ない会社は、結果として人材の定着率が下がり、採用・教育のやり直しでより大きなコストを負担することになります。第26条は、会社がパート社員の成長を支える責任を定めると同時に、パート社員が教育訓練を通じて職務能力を高める義務も含意しています。互いの成長を支え合う関係こそ、就業規則が目指すべき姿でしょう。次回は第7章の表彰・懲戒・損害賠償について取り上げます。懲戒処分の手続きや、パート社員に特有の懲戒の問題など、実務で悩みやすいテーマが並んでいますよ」

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

第8条

労働時間および休憩時間

トラブル2

第22条

服務心得

トラブル1、3

第26条

教育

トラブル1、2、3

第44条

時間外労働・法定休日労働・深夜労働の手当等

トラブル2

第52条

災害補償

トラブル2

 

社会保険労務士 江尻育弘