就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編F
第7章 表彰、懲戒、損害賠償
今回取り上げる労務問題
「パートは表彰の対象外ですよね?」──表彰制度がパート社員に実質的に適用されていない不公平感
「いきなり戒告って、言い分も聞かずにですか?」──懲戒処分の手続き不備と懲戒種類の限界
「弁償してもらうからね」──パート社員の業務上の過失と損害賠償請求の相当性
はじめに
「パートさんが表彰されたことって、うちの会社では一度もないのですよね」──ある人事担当者がぽつりとこぼした一言です。厚生労働省の「パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査」によれば、正社員とパート社員の間の待遇差について「納得していない」と回答したパート社員は少なくなく、賃金や手当だけでなく、表彰や福利厚生といった「目に見えにくい」処遇の差も不満の温床になっています。
第7章は「表彰、懲戒、損害賠償」を扱う章です。表彰は従業員のモチベーションを高める“アメ”、懲戒は職場秩序を守るための“ムチ”、そして損害賠償は会社の損害を回復するための仕組みです。この3つは方向性がまったく異なりますが、いずれも就業規則に根拠がなければ発動できないという共通点があります。労働契約法第15条は懲戒権の濫用を禁止し、最高裁判例は損害賠償の範囲に信義則上の限界を画しています。就業規則の条文をそのまま適用すればよいという単純な話ではないのです。そして、パート社員に対する運用において、見落とされがちな実務上の落とし穴が潜んでいます。
今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。3つのトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。
登場人物
江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。
画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。
トラブル1:「パートは表彰の対象外ですよね?」──表彰制度がパート社員に実質的に適用されていない不公平感
四月も下旬を迎えた沖縄は、もう立派に初夏だ。街角のブロック塀の陰や庭先には、月桃(げっとう)の白い花が房のように垂れ下がり、甘くさわやかな香りを漂わせている。月桃は沖縄では「サンニン」とも呼ばれ、葉はムーチー(餅)を包むのに使われたり、近年ではアロマオイルや化粧品の原料としても注目されている。一つの植物がこれだけ多くの場面で活躍するのは、その持ち味を見出して活かす人がいるからだ。職場でも、一人ひとりの貢献を見出して称える仕組みがあるかどうかで、働く人の意欲は大きく変わる。あっぱれ商事の画猫さんが、今日も江尾社労士の事務所を訪ねてきた。
画猫さん:「先生、先日の社内表彰式のことでご相談があります。毎年、業績優秀な社員を表彰しているのですが、今年も受賞者は全員正社員でした。入社5年目のパート社員Aさんから、『私は去年、部署で一番多く改善提案を出したのに、表彰の候補にすら入っていませんでした。パートは対象外なのですか?』と聞かれて、返答に困ってしまいました」
江尾社労士:「まず、我が社の就業規則を確認しましょう。パートタイム社員就業規則の第27条を見てください。『パート社員が次のいずれかに該当したときは、その都度審査の上、表彰することがある』とあり、@業務成績が優良で、他の模範と認められたとき、A業務に関して有益な発明考案をしたとき、B災害の防止または非常の際、特に功労があったとき、C以上いずれかに準ずる程度の業務上の功績が認められたとき──と4つの事由が列挙されています。Aさんの改善提案は、少なくともAやCに該当し得ますね」
画猫さん:「条文上は、パート社員も表彰の対象になっているのですね。でも実態としては、選考過程でパート社員の名前が上がってこないのです。推薦するのは各部署の部長ですが、推薦対象を正社員に限定するような運用になっている気がします」
江尾社労士:「その“運用”が問題なのです。就業規則の第27条は、パート社員を表彰の対象から除外していません。にもかかわらず、実態として正社員のみが推薦・表彰されているとすれば、制度と運用の間に乖離があるということになります。これは単なる社内の慣行の問題にとどまりません。パートタイム・有期雇用労働法第8条は、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で、不合理と認められる待遇の相違を設けてはならないと定めています。表彰制度も『待遇』の一つです」
画猫さん:「表彰も待遇に含まれるのですか。賃金や手当のことだけではないのですね」
江尾社労士:「そのとおりです。同法第8条が対象とする待遇には、賃金だけでなく、教育訓練、福利厚生、そして表彰のような制度も含まれます。前回の第6章で学んだ教育訓練の格差と、根っこは同じ問題です。正社員とパート社員が同様の業務に従事し、同様の成果を上げているにもかかわらず、表彰の機会が実質的に正社員に限定されているとすれば、不合理な待遇差と判断されるリスクがあります。さらにパートタイム・有期雇用労働法第14条第2項では、パート社員から待遇差の理由について説明を求められた場合、事業主は説明する義務を負っています。Aさんに『なぜパートは表彰されないのですか』と聞かれて答えられないというのは、この説明義務を果たせていない状態です」
画猫さん:「では、具体的にどう改善すればよいでしょうか」
江尾社労士:「第一に、表彰の推薦基準を明文化し、パート社員も対象であることを明記してください。第27条の事由に照らして、具体的にどのような実績が表彰に値するのかを示す内部文書を作成するとよいでしょう。第二に、各部署の部長に対して、パート社員も推薦対象であることを改めて周知してください。第三に、第27条第2項の表彰の方法──表彰状の授与、賞金または賞品の授与──についても、パート社員と正社員で差をつけない運用を徹底する。Aさんに対しては、これまでの運用に不備があったことを率直に認めた上で、今後は公平な推薦・選考を行う旨を伝えてください」
画猫さん:「改善提案の件数のように、客観的な数字で評価できるものは推薦もしやすいですね」
江尾社労士:「そうです。もう一つ付け加えると、第27条第2項で表彰の方法として『@表彰状の授与、A賞金または賞品の授与』が挙げられています。パート社員を表彰する際に、正社員には賞金を出すけれどパート社員には表彰状だけ、というような差を設けるのも注意が必要です。職務の内容や成果が同等であるなら、表彰の方法も同等にすべきでしょう。表彰制度は金銭的なコストだけでなく、“あなたの貢献を会社は見ていますよ”というメッセージを発信する場です。そのメッセージに雇用形態による格差があっては、かえって士気を下げてしまいます」
画猫さん:「確かに、表彰状だけもらっても、正社員には賞金が出ていると知ったら、むしろ不満が深まりますよね。Aさんの貢献をきちんと見える化して、推薦基準の整備とあわせて、次回の表彰に反映できるようにします」
トラブル2:「いきなり戒告って、言い分も聞かずにですか?」──懲戒処分の手続き不備と懲戒種類の限界
画猫さん:「先生、2つ目のご相談です。先月、パート社員のBさんが、業務時間中に私用のスマートフォンで長時間通話しているのを上司が発見しました。上司はその場でBさんを注意したのですが、Bさんは『家庭の事情で緊急の連絡だった』と反論して、その後も同様の行為が2回続きました。上司は人事部に相談してきて、『もう戒告にしてください』と。人事部長が了承して、Bさんに戒告処分の通知書を渡したのですが、Bさんは『言い分も聞いてもらえなかった。こんな処分は認められません』と怒っています」
江尾社労士:「これは手続きの問題と制度設計の問題が絡み合っていますね。まず手続きから整理しましょう。第28条第2項を見てください。ここには『パート社員に対し懲戒解雇を行う場合は、事実確認、事情聴取、弁明の機会、異議申し立ての受付などを行い検討し、会社が指名した人を長とした懲罰に関する会議を招集して懲戒の種類を決定する』とあります」
画猫さん:「あ……でもこれは『懲戒解雇を行う場合』と書いてありますよね。Bさんの場合は戒告ですから、この手続きは必要ないのではないですか?」
江尾社労士:「条文の文言を厳密に読むと、確かに第28条第2項は懲戒解雇の場合の手続きを定めています。しかし、ここで考えていただきたいのが労働契約法第15条です。この法律は、『使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする』と定めています。これは戒告であっても懲戒解雇であっても同じく適用されます」
画猫さん:「つまり、戒告であっても、客観的に合理的な理由と社会的相当性が必要だということですか」
江尾社労士:「そのとおりです。そして社会的相当性の判断において、本人に弁明の機会を与えたかどうかは重要な考慮要素です。就業規則の条文が懲戒解雇の場合のみ手続きを定めているとしても、戒告についても事実確認と弁明の機会を設けることが、懲戒権の適正な行使として求められます。Bさんが『言い分も聞いてもらえなかった』と怒るのは、手続き的な正当性が確保されていないからです」
画猫さん:「Bさんの場合、上司はその場で注意していますし、その後も2回繰り返したのは事実です。それでも弁明の機会が必要なのですか」
江尾社労士:「はい。現場での注意と、会社としての懲戒処分は別物です。上司がその場で注意するのは指導であり、懲戒処分ではありません。懲戒処分として戒告を行うのであれば、改めて正式な場を設けて──たとえば面談の形で──Bさんにどのような事実があったのかを伝え、Bさん側の事情を聞く必要があります。Bさんは『家庭の事情で緊急の連絡だった』と説明していますね。その事情が真実であれば、第22条第3号@の『会社の許可なく、業務中に私用で携帯情報端末などを使ってはならない』という規定に違反してはいますが、情状酌量の余地があるかもしれません」
画猫さん:「なるほど。もう一つ気になっているのですが、Bさんのケースは戒告で対応しましたが、もし今後もっと重い違反があった場合、うちの就業規則では戒告の次がいきなり懲戒解雇ですよね。第29条を見ると、@戒告とA懲戒解雇の2種類しかありません。中間的な処分がないのは問題ではないですか」
江尾社労士:「非常に鋭い指摘です。正社員の就業規則では、一般的に戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇……と複数段階の処分が設けられていることが多いですが、パート社員の就業規則では、戒告と懲戒解雇の2段階しか用意されていないケースが少なくありません。あっぱれ商事もそうですね。これは実務上、大きなリスクをはらんでいます。ちなみに、第30条第2号Bには、無断欠勤が14労働日を経過した場合の懲戒解雇規定がありますが、同じ状況について第34条第4号では一般退職として扱うこともできるとされています。このように、懲戒解雇と退職の使い分けも難しい局面が出てくるのですが、中間的な処分がないことで、問題はさらに複雑になるのです」
画猫さん:「たとえば、戒告では軽すぎるけれど懲戒解雇にするほどでもない──そういう場合に、適切な処分を選べないということですか」
江尾社労士:「まさにそれです。先ほどの労働契約法第15条は、処分の相当性を要求しています。たとえばBさんの私用スマートフォンの件で、繰り返しの注意と戒告を経てもなお改善されない場合、正社員であれば減給や出勤停止といった段階的な処分を経て、それでも改まらなければ懲戒解雇という流れが取れます。しかし、パート社員の場合は戒告の次が懲戒解雇しかないので、段階的な対応ができません。いきなり懲戒解雇に踏み切ると、処分の相当性を欠くとして無効と判断されるリスクが高くなります」
画猫さん:「では、就業規則の改定が必要ですね」
江尾社労士:「はい。第29条に、たとえば減給──労働基準法第91条の範囲内で賃金を減額する処分──を追加することを検討してください。減給を入れるだけでも、戒告と懲戒解雇の間を埋める選択肢が生まれ、段階的な懲戒が可能になります。改定にあたっては、減給の上限──1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えず、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないという労基法第91条の制限──を明記することを忘れないでください」
画猫さん:「Bさんの戒告処分については、どう対応すべきでしょうか」
江尾社労士:「今回の戒告を撤回する必要はありませんが、改めてBさんに対して弁明の機会を設けてください。面談の場で事実関係と処分の理由を説明し、Bさんの言い分を聞いた上で、それでも戒告が相当であるならばその旨を伝える。そしてその経緯を書面に残すことです。第30条第1号Cの『就業規則その他会社が定めた規則に抵触した行為があったとき』が該当する懲戒事由ですが、処分の正当性は手続きの適正さによって支えられます。手続きを後付けで補完することは本来望ましくありませんが、現段階でできる最善の対応として、Bさんとの面談を早急に行ってください」
画猫さん:「ところで先生、第28条第2項の懲罰に関する会議についてですが、『状況によっては、懲罰に関する会議を開催しないことがある』という但書きがあります。これは会社側の裁量で手続きを省略できるということでしょうか」
江尾社労士:「あくまで懲戒解雇の場合の手続きですが、この但書きは、たとえば横領などの重大な非違行為で緊急に処分する必要がある場合や、事実関係が明白で争いがない場合などを想定しています。しかし、だからといって事実確認や弁明の機会を省略してよいわけではありません。懲罰会議を開催しない場合でも、事実確認と弁明の機会は最低限確保すべきです。これは法律上の要請──労働契約法第15条の懲戒権濫用法理──から導かれるものですから、就業規則の但書きで免除できるものではないのです」
画猫さん:「手続きの重要性、よくわかりました。懲戒の種類を増やす改定と、手続きの明確化をあわせて提案します」
トラブル3:「弁償してもらうからね」──パート社員の業務上の過失と損害賠償請求の相当性
画猫さん:「先生、3つ目のご相談です。パート社員のCさんが、商品の搬入作業中にフォークリフトの操作を誤って、倉庫内の商品棚に衝突し、商品が破損する事故を起こしてしまいました。損害額は約30万円と見積もられています。Cさんの上司が『全額弁償してもらう』と言い出しているのですが、これは可能でしょうか」
江尾社労士:「まず第31条を確認しましょう。『パート社員が、故意、過失や違反行為などにより会社に損害を与えた場合は、損害を原状に回復させ、回復に必要な費用の全部または一部を賠償させることがある』とあります。条文の文言だけを見ると、全額賠償も可能に読めますね」
画猫さん:「はい。『全部または一部を賠償させることがある』ですから、全額もあり得るのだと思っていました」
江尾社労士:「就業規則の条文としてはそう定められていますが、実際に全額を賠償させることができるかどうかは、法律──国のルール──との関係で大きな制約があります。ここで重要なのが、最高裁の茨城石炭商事事件判決です。この判決は、使用者が従業員に対して損害賠償を請求する場合、『損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度』にとどめるべきだと判示しました」
画猫さん:「全額は認められないということですか」
江尾社労士:「少なくとも、軽過失の場合に全額を賠償させることは、ほぼ認められないと考えてください。茨城石炭商事事件では、従業員の過失割合を考慮した上で、使用者が請求できる賠償額は損害額の4分の1程度にとどめるのが相当と判断されました。その理由は、使用者は事業活動から利益を得ている以上、その事業に伴うリスクも負担すべきだという考え方──報償責任の法理──に基づいています。従業員を使って利益を上げている以上、従業員の軽い過失による損害まですべて従業員に転嫁するのは公平ではない、ということです」
画猫さん:「Cさんの場合はどうなるのでしょうか」
江尾社労士:「まず事実関係を丁寧に確認する必要があります。Cさんの過失の程度はどうか──故意なのか、重過失なのか、軽過失なのか。フォークリフトの操作に関する教育訓練は十分に行われていたか。作業環境に問題はなかったか──たとえば倉庫内の通路幅が狭すぎた、棚の配置に無理があったなど。会社側に安全管理上の落ち度はなかったか。これらを総合的に判断して、賠償額が決まります」
画猫さん:「Cさんはフォークリフトの免許は持っていますが、入社時の研修で操作方法を教わった程度で、定期的な安全教育はここ1年ほど実施されていませんでした。倉庫の通路も決して広くはないです」
江尾社労士:「それは会社側にも相当の落ち度がありますね。第26条の教育の規定に照らしても、安全衛生に関する教育を適切に実施していなかったとすれば、会社側の責任も問われます。そうした事情を踏まえれば、30万円の全額をCさんに負担させることは、信義則上認められないでしょう。仮に賠償を求めるとしても、損害額の一部──たとえば4分の1程度──にとどめ、さらに分割払いを認めるなどの配慮が必要です」
画猫さん:「上司の『全額弁償してもらう』という発言は、そのまま実行すると問題がありますね」
江尾社労士:「はい。もう一点重要なことがあります。労働基準法第16条は、『使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない』と定めています。あらかじめ賠償額を決めておくことは禁止されているのです。第31条の『全部または一部を賠償させることがある』という規定は、実際に生じた損害に対して相当な範囲で賠償を求める根拠であって、あらかじめ全額を負担させることを約束させるものではありません。Cさんに対しては、まず事故の原因を客観的に調査し、会社側の安全管理体制の不備も含めて検討した上で、信義則に照らして相当な範囲で賠償を求めるかどうかを判断してください。同時に、再発防止策──定期的な安全教育の実施、倉庫内の動線の見直しなど──に取り組むことが、この問題の本質的な解決です」
画猫さん:「Cさんに弁償を求める前に、まず会社側がやるべきことがあるということですね」
江尾社労士:「そうです。損害賠償は最後の手段です。まずは原因究明と再発防止。そして、第31条の後段にある『この損害賠償の責任は退職後も免れることはできない』という規定も念頭に置いてください。退職後も賠償義務が残るという条文がある以上、在職中に丁寧に話し合いを行い、双方が納得できる解決を図ることが大切です」
画猫さん:「賠償を求める場合、給与から差し引くことはできるのですか」
江尾社労士:「一方的に給与から天引きすることは、労働基準法第24条の全額払いの原則に反しますから、絶対に行わないでください。賠償を求める場合は、別途合意書を取り交わした上で、Cさんの了承のもとに弁済方法を決める必要があります。また、その合意も、Cさんが真に自由な意思で同意していることが求められます。上司が高圧的に『弁償しろ』と迫った結果の合意は、自由意思に基づくものとは言えませんから、あとから無効とされるリスクがあります」
画猫さん:「上司にも、冷静な対応をお願いしなければなりませんね」
江尾社労士:「ぜひそうしてください。損害が発生すると、現場の管理職はつい感情的になりがちです。しかし、事故の原因が複合的であるほど、一人の従業員にすべてを負わせるのは不公平です。Cさんが真摯に反省し、再発防止に協力する姿勢を見せているのであれば、過度な賠償請求は職場全体の信頼関係を壊すことにもなりかねません。会社にとって本当に大切なのは、30万円の弁償ではなく、今後同じ事故を起こさない体制づくりです」
おわりに
画猫さん:「今日は表彰、懲戒、損害賠償と、方向性の全く異なる3つのテーマを学びましたが、共通しているのは“手続きの適正さ”と“バランス感覚”ということでしょうか。表彰はパート社員にも公平に、懲戒は弁明の機会を経て段階的に、損害賠償は信義則に照らして相当な範囲で──どれも一方的な運用ではうまくいかないのですね」
江尾社労士:「よくまとめてくれました。第7章の本質は、まさにそこにあります。表彰も懲戒も損害賠償も、就業規則に根拠があって初めて発動できる仕組みです。しかし、規則に書いてあるからといって、何でもそのまま実行できるわけではありません。法律の枠組み──パートタイム・有期雇用労働法、労働契約法、労働基準法──の中で、手続きの適正さと処分・請求の相当性を確保しながら運用する。この姿勢が、パート社員との信頼関係を守り、ひいては職場全体の秩序を支えることにつながります」
画猫さん:「懲戒の種類の追加と、表彰の推薦基準の整備、それから損害賠償に関する管理職向けの注意事項──今日の学びを形にしていきます」
江尾社労士:「素晴らしいですね。次回は第8章──いよいよ解雇、退職、休職という、雇用関係の“出口”を扱う章に入ります。有期契約の雇止めや、パート社員に休職制度が適用されるかどうかなど、実務で最も判断に迷うテーマが待っていますよ」
参照条文一覧
社会保険労務士 江尻育弘