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「就業規則の読み方・活かし方」本則編
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就業規則の読み方・活かし方_パートタイム社員編

就業規則の読み方・活かし方 パートタイム社員編H

9章 賃金

今回取り上げる労務問題

・「私の残業代、ちゃんと計算されていますか?」──法定内残業と法定外残業の区別、割増率の適用誤り

・「正社員と同じ仕事なのに、なぜ手当がつかないのですか?」──同一労働同一賃金の観点からみた待遇差の説明責任

・「休業手当が思ったより少ないのですが……──シフト制パート社員の平均賃金と休業手当の計算

はじめに

「先月の給与明細を見たら、残業したはずなのに割増がついていないのですが」「正社員にはある手当が、パートの私にはないのはなぜですか」──賃金に関する疑問や不満は、パート社員から寄せられる相談のなかでも特に多いテーマです。厚生労働省が公表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」によれば、賃金に関する相談は毎年上位に位置しており、労使トラブルの火種になりやすい分野であることがわかります。

9章「賃金」は、基本給の構成から時間外・休日・深夜の割増手当、通勤手当、賃金の支払方法、臨時休業時の休業手当、さらには賞与や退職金の取扱いまで、パート社員の処遇の中核を定める章です。条文の数は9つ(第43条から第51条)ですが、その一つひとつが日々の給与計算に直結するため、誤った運用は未払賃金のリスクに直結します。加えて、パートタイム・有期雇用労働法の施行以降、正社員との待遇差の合理的説明が求められる場面も増えました。

今回は、株式会社あっぱれ商事の人事部総務課で働く画猫さんが、顧問の江尾社労士のもとを訪れました。賃金をめぐる3つのトラブルを通じて、就業規則の読み方と活かし方を学んでいきましょう。

登場人物

江尾社労士:社会保険労務士として20年以上のキャリアを持つベテラン。

画猫さん:株式会社あっぱれ商事の人事部総務課に所属して3年目。

トラブル1:「私の残業代、ちゃんと計算されていますか?」──法定内残業と法定外残業の区別

五月の沖縄は、梅雨入りを間近に控えた初夏の空気に包まれている。那覇市内の住宅街では、軒先や石垣のそばに植えられた月桃(サンニン)が、白い蕾の先をほんのりとピンクに染めて花房を垂らし始めていた。清涼感のある独特の香りが風に乗って漂ってくると、沖縄の人々は「ああ、もうすぐ梅雨だな」と季節の移ろいを感じる。月桃の葉は抗菌・防虫の効果があるとされ、古くからムーチー(餅)を包む素材として暮らしに根づいてきた。そんな月桃の花が咲き始めた頃、画猫さんが江尾社労士の事務所を訪ねてきた。

画猫さん:「先生、パート社員のAさんから給与明細について質問がありまして。Aさんは16時間・週5日の契約なのですが、先月、上長の指示で2時間ほど残業した日がありました。ところが給与明細を確認したところ、割増賃金がついていなかったのです。Aさんは『残業したのに割増がないのはおかしい』と言っています」

江尾社労士:「なるほど。これは現場でとてもよくある誤解です。まず、第44条を確認しましょう。ここには、法定労働時間を超えて労働した場合に時間外労働手当を支払うと定められています。ポイントは『法定労働時間を超えて』という部分です。Aさんの所定労働時間は16時間ですから、2時間の残業をしても、合計は8時間。労働基準法が定める法定労働時間──18時間──の範囲内に収まっていますね」

画猫さん:「つまり、Aさんの2時間は『法定内残業』であって、割増の対象にはならないということですか」

江尾社労士:「そのとおりです。ここで整理しておきましょう。残業には2つの種類があります。1つ目は『所定時間外労働』──個別の労働契約で定めた所定労働時間を超えるが、法定労働時間の範囲内の労働です。2つ目は『法定時間外労働』──法定労働時間、つまり18時間・週40時間を超える労働です。労働基準法第37条が割増賃金の支払いを義務づけているのは後者、法定時間外労働の部分です。第44条第2項を見てください。『所定労働時間を超え、法定労働時間に達するまでの所定時間外労働手当については、法定の単価に所定時間外労働時間数を乗じたものを支払う』とあります。つまり、Aさんの2時間には割増率はつきませんが、通常の時間単価での支払いは必要です」

画猫さん:「なるほど。割増はつかなくても、2時間分の賃金自体は支払わなければならないのですね。Aさんにはどう説明すればよいでしょうか」

江尾社労士:「給与明細を一緒に確認して、所定時間外の2時間分が通常単価で計上されているかどうかをまず確かめてください。もし計上されていなければ、それは未払い賃金の問題になります。その上で、割増がつくのは18時間を超えた部分からであること、これは我が社の就業規則の第44条だけでなく、労働基準法第37条にも基づく全国共通のルールであることを説明すれば、Aさんも理解しやすいでしょう」

画猫さん:「ところで先生、もしAさんが3時間残業して合計9時間になった場合は、どうなりますか」

江尾社労士:「その場合、最初の2時間(6時間から8時間まで)は所定時間外労働として通常単価、8時間を超えた1時間が法定時間外労働として1.25倍の割増単価になります。さらに注意が必要なのは、第44条第1項の表にある月60時間超の取扱いです。20234月から中小企業にも適用されている規定ですが、1か月の法定時間外労働が60時間を超えた部分については、割増率が1.50倍に引き上げられます。あっぱれ商事の第44条にもこれが明記されていますね」

画猫さん:「パート社員でも月60時間超の割増が適用されるのですか」

江尾社労士:「当然、適用されます。第11条第1項で『原則として、パート社員には法定時間外労働および法定休日労働は命じないものとする』と定めてはいますが、例外的に法定時間外労働が発生した場合には、正社員と同じ割増率が適用されます。これは労働基準法の強行規定ですから、就業規則で排除することはできません。給与計算の担当者がパート社員だからと月60時間超の割増を適用し忘れることがないよう、計算フローに組み込んでおくことが大切です」

画猫さん:「ちなみに先生、深夜労働の割増はどうなりますか。Aさんのシフトが午後2時から午後8時の日に残業して午後11時まで働いたとすると……

江尾社労士:「よい質問です。第44条の表を見ると、深夜労働割増は『法定の単価×0.25×深夜労働時間』と定められています。Aさんのシフトが午後2時から午後8時で、そこから午後11時まで残業したとしましょう。始業の午後2時から数えて8時間目は午後10時です。つまり、午後8時から午後10時までの2時間は、所定労働時間(6時間)を超えてはいますが、法定労働時間(8時間)の範囲内なので、割増なしの通常単価です。午後10時以降の1時間は、法定時間外であると同時に深夜帯にも該当しますから、時間外の1.25に深夜の0.25を加えた1.50倍がつくことになります。このように、始業時刻を起点に8時間を数えることが計算の出発点です。深夜と時間外が重複する場合の計算は複雑になりやすいので、給与ソフトの設定を含めて確認しておくとよいでしょう」

画猫さん:「なるほど。それから、第44条第3項にある『1年間の法定時間外労働が360時間を超えた部分』の追加割増も気になります」

江尾社労士:「第44条第3項は、36協定で特別条項を設定する場合の年間上限に対応した規定です。年360時間を超えた法定時間外労働に対して、さらに法定の単価の0.25を上乗せして支払う仕組みです。ただし、第1項の表に基づいて計算した時間外労働手当と重複しては支払わないと定められていますから、月ごとの割増計算ですでに上乗せ分が支払われている場合には、年間の追加割増との二重払いにならないよう調整する必要があります。パート社員は原則として法定時間外労働を命じないこととされていますから、年360時間超になることは通常考えにくい。しかし、規定として存在する以上、給与計算のロジックには組み込んでおく必要があります」

画猫さん:「わかりました。所定時間外と法定時間外の区別、深夜との重複計算、月60時間超のルール、年360時間超の追加割増──これらを整理して給与計算マニュアルに反映させます」

トラブル2:「正社員と同じ仕事なのに、なぜ手当がつかないのですか?」──同一労働同一賃金と待遇差の説明責任

画猫さん:「先生、もう1件ご相談があります。入社5年目のパート社員Bさんから、こんな質問を受けました。『正社員には皆勤手当や食事手当があるのに、パートの私にはありません。同じ時間帯に同じ仕事をしているのに、納得がいかないのですが』と」

江尾社労士:「パートタイム・有期雇用労働法第8条が定める、いわゆる『不合理な待遇差の禁止』に関わる問題ですね。まず確認しておきたいのは、あっぱれ商事のパート就業規則の構造です。第43条を見てください。賃金の構成は『基本給、○○手当、時間外労働手当、休日労働手当、深夜労働割増および通勤手当』とあります。正社員にある皆勤手当や食事手当がこの構成に含まれていないのであれば、それはパート就業規則上、制度として存在しないということです」

画猫さん:「はい。あっぱれ商事では、パート社員に皆勤手当と食事手当は支給していません。Bさんにはどう説明すればよいのでしょうか」

江尾社労士:「ここで重要なのは、パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項の説明義務です。パート社員から求めがあった場合、事業主は正社員との待遇の相違の内容と理由を説明しなければなりません。単に『パートだから支給しない』では、不合理な待遇差とみなされるおそれがあります。最高裁の判例を見ると、皆勤手当について重要な先例があります。ハマキョウレックス事件の最高裁判決(平成3061日)では、契約社員に皆勤手当を支給しないことが不合理であると判断されました。その理由は、皆勤手当の趣旨が『出勤を確保する必要性』にあり、その必要性は雇用形態にかかわらず同じだからです」

画猫さん:「ということは、あっぱれ商事でも、パート社員に皆勤手当を支給しないことは問題になりうるのですか」

江尾社労士:「手当の趣旨・目的がポイントです。正社員の皆勤手当が『出勤率の向上による業務の安定運営』を目的としているなら、パート社員にも同じ必要性がある以上、不支給は不合理と判断されるリスクがあります。皆勤手当以外の手当についても注意が必要です。日本郵便事件の最高裁判決(令和21015日)では、契約社員に年末年始勤務手当や祝日給などを支給しないことが不合理とされました。この判決は食事手当を直接扱ったものではありませんが、手当ごとにその趣旨・目的を精査し、雇用形態の違いだけで不支給とすることが合理的かどうかを検証すべきだという考え方を示しています。食事手当についても、その趣旨が勤務時間中の食事費用の補助であるなら、パート社員にも同様の必要性がないか検討する余地があります。大切なのは、一つひとつの手当について『なぜ正社員には支給し、パート社員には支給しないのか』を合理的に説明できる状態にしておくことです」

画猫さん:「基本給の格差についてはどうですか。Bさんは『時給換算すると正社員より低い』とも言っています」

江尾社労士:「第43条第2項には『本人の職務、能力および経験などを勘案して個別の労働契約において定める』とあります。基本給の決定基準が就業規則に明記されていること自体は良い設計です。ただし、実際の運用として、パート社員の職務内容、責任の範囲、人事異動の有無、キャリアパスなどが正社員とどう異なるのかを整理しておかなければ、格差の説明はできません。パートタイム・有期雇用労働法第8条は、待遇差の不合理性を判断する際に、@職務の内容、A職務の内容・配置の変更の範囲、Bその他の事情の3要素を考慮するよう定めています。この3要素に沿った説明資料を準備しておくことをおすすめします」

画猫さん:「第50条の賞与や第51条の退職金についても、説明が求められる場面がありそうですね」

江尾社労士:「おっしゃるとおりです。第50条は『業績に応じて賞与を支払うことがある』と定め、第51条は『原則として退職金は支払わない』としています。長期勤続のパート社員が増えるなかで、賞与の不支給や退職金ゼロに対する疑問は確実に増えています。メトロコマース事件の最高裁判決(令和21013日)では退職金の不支給が不合理とまでは言えないとされましたが、反対意見もあり、今後の判例の動向には注意が必要です。いずれにせよ、Bさんへの対応としては、まず面談の機会を設け、各手当・賃金項目について正社員との違いの内容と理由を丁寧に説明してください。そして、法的に問題がある待遇差が見つかれば、制度の見直しも検討する。この姿勢が大切です」

画猫さん:「わかりました。まずは正社員とパート社員の待遇比較表を作成し、手当ごとの支給趣旨と格差の理由を整理します」

江尾社労士:「比較表を作る際のポイントをお伝えしておきます。まず、各手当について、@その手当の支給目的は何か、Aパート社員に支給しない理由は何か、Bその理由は職務内容や配置の変更の範囲の違いで合理的に説明できるか──この3点を一つずつ検証してください。たとえば通勤手当については、第45条でパート社員にも支給すると定めていますね。これは、通勤費用は雇用形態に関係なく発生するものだからです。同じ論理で、食事手当も勤務時間中の食事費用の補助であれば、パート社員にも支給すべきではないかという議論になりやすい」

画猫さん:「手当の見直しを提案するとなると、コストの問題もありますよね」

江尾社労士:「そのとおりです。ただし、不合理な待遇差を放置したまま訴訟に発展した場合、過去に遡って差額の支払いを命じられるリスクがあります。そちらのほうがはるかにコストも信用の失墜も大きい。予防的に待遇を見直しておくことが、結果的には会社を守ることにつながります。第49条の賃金改定の際に、パート社員の基本給の評価基準もあわせて見直す機会にしてはいかがでしょうか」

トラブル3:「休業手当が思ったより少ないのですが……──シフト制パート社員の平均賃金と休業手当

画猫さん:「先生、3つ目のご相談です。先月、設備点検のために店舗を3日間臨時休業にしたのですが、パート社員のCさんから『休業手当の金額が思ったより少ない』と言われまして。Cさんは週3日勤務のシフト制で、15時間の契約です」

江尾社労士:「休業手当の問題ですね。まず第48条を確認しましょう。『会社の都合によりパート社員を臨時に休業させる場合には、休業1日につき平均賃金の60%に相当する額の休業手当を支払う』と定められています。これは労働基準法第26条の内容を就業規則に落とし込んだものです。ここで問題になるのが『平均賃金』の計算方法です」

画猫さん:「平均賃金は、直前3か月間の賃金総額を、その期間の総日数で割るのですよね」

江尾社労士:「原則はそのとおりです。労働基準法第12条第1項が定める計算式は、『算定事由の発生した日以前3か月間に支払われた賃金の総額÷その期間の総日数(暦日数)』です。ところが、Cさんのように週3日勤務のシフト制パート社員の場合、この原則どおりに計算すると、勤務していない日(週4日)も分母に含まれるため、1日あたりの平均賃金が非常に低くなってしまいます」

画猫さん:「確かに。週3日しか勤務していないのに、分母が暦日の90日前後になると、1日あたりの金額はかなり小さくなりますね」

江尾社労士:「そこで重要なのが、労働基準法第12条第1項ただし書の『最低保障額』です。日給制、時間給制、出来高払制の場合には、『賃金の総額÷実際に労働した日数×60%』で計算した金額を最低保障額とし、原則の計算結果と比較して高い方を平均賃金として採用します。Cさんは時間給ですから、この最低保障額の計算が適用されます。具体例で見てみましょう。仮にCさんの直前3か月間の賃金総額が36万円、暦日数が91日、実労働日数が36日だったとします。原則の計算では、36万円÷91日=約3,956円。最低保障額の計算では、36万円÷36×0.66,000円。この場合、最低保障額の6,000円のほうが高いので、平均賃金は6,000円になります。休業手当はこの60%ですから、1日あたり3,600円です」

画猫さん:「原則の計算だけで済ませてしまうと、Cさんの休業手当は1日あたり約2,374円にしかならないのですね。最低保障額の計算を怠ると、1,200円以上も少なくなってしまう」

江尾社労士:「そのとおりです。シフト制のパート社員は勤務日数が少ないため、原則計算だけでは不当に低い平均賃金になりやすい。最低保障額の確認を怠ると、労働基準法第26条違反──つまり、休業手当の未払いになるおそれがあります。これは労働基準法第120条により30万円以下の罰金が科される可能性もある問題です」

画猫さん:「第48条第2項の、1日の一部を休業させた場合のルールも確認しておきたいのですが」

江尾社労士:「よい着眼点です。第48条第2項は『1日の所定労働時間のうち一部を休業させた場合で、その日の労働に関する賃金が前項の額に満たない場合はその差額を休業手当として支払う』としています。たとえば、Cさんが5時間の予定で出勤したものの、2時間で業務を切り上げて帰宅させた場合、実際に働いた2時間分の賃金と、平均賃金の60%を比較して、不足があればその差額を支払う必要があります。これを見落とすケースも少なくありません」

画猫さん:Cさんの件は、最低保障額で再計算して、差額があれば追加で支払うということですね」

江尾社労士:「そうです。そして再発防止のために、給与計算担当者に対して、シフト制パート社員の平均賃金は必ず原則計算と最低保障額の両方を算出し、高い方を採用するというルールを周知してください。第48条第3項には『別途で労使協定を締結した場合は、その協定によるものとする』という規定もありますので、臨時休業が頻繁に想定される業態であれば、休業手当の計算方法や支給水準について労使協定で取り決めておくことも一つの選択肢です」

画猫さん:「わかりました。まずはCさんへの差額支給を手配し、そのうえで平均賃金の計算フローを見直します」

江尾社労士:「もう1点、補足しておきます。第47条の賃金の支払方法も関連します。第47条第1項は『通貨で直接パート社員に、その全額を支払う』と定めています。これは労働基準法第24条が定める賃金支払いの五原則のうち、通貨払い・直接払い・全額払いの3つに対応する規定です。残る2──『毎月1回以上払い』と『一定期日払い』──は第46条の賃金計算期間及び支払日が担っています。休業手当の不足分が判明した場合は、次の給与日まで待つのではなく、速やかに追加支払いを検討すべきです。全額払いの原則からすれば、不足が生じた時点で会社には是正の義務があります」

画猫さん:「ちなみに先生、臨時休業ではなく、会社の業績悪化でシフトを減らした場合──たとえば、週3日の契約なのに週2日しかシフトに入れなかった場合は、休業手当の対象になりますか」

江尾社労士:「鋭い指摘です。労働契約で週3日と定めている以上、会社の都合でシフトを週2日に減らした1日分は、会社都合による休業に該当する可能性があります。この場合も第48条が適用され、休業手当の支払いが必要になります。シフト制のパート社員の場合、労働契約書に週の勤務日数や勤務曜日がどこまで明記されているかが判断のポイントです。第8条第2項が『具体的には個別の労働契約にて定める』としているのは、まさにこうした問題を防ぐためです。労働条件通知書にシフトの基本パターンを明記しておくことで、何が『所定の勤務日』で何が『休業』なのかを客観的に判断できるようになります」

画猫さん:「労働条件通知書の記載内容も見直す必要がありそうですね。計算フローの整備とあわせて対応します」

おわりに

画猫さん:「今日は勉強になりました。賃金の章は条文を読んだだけでは実務に落とし込みにくい部分が多いですね。所定時間外と法定時間外の区別、同一労働同一賃金の説明義務、平均賃金の最低保障額……どれも給与明細の数字に直結する話ばかりでした」

江尾社労士:「賃金は、会社と従業員の信頼関係のいちばん目に見える部分です。第43条から第51条は数字と計算式の世界に見えますが、その背後にあるのは『働いた分はきちんと報いる』『格差があるなら合理的に説明する』という基本的な誠実さです。就業規則の条文を正しく理解し、法律の趣旨と照らし合わせて運用する──その積み重ねが、パート社員の安心と職場への信頼につながります」

画猫さん:「割増賃金の計算フローの見直しと、正社員・パート社員の待遇比較表の整備、それから平均賃金の計算マニュアルの作成、この3つから着手します」

江尾社労士:「いいですね。それともう1つ。第49条の賃金改定についても、評価基準を明確にして、パート社員にフィードバックする仕組みを整えておくとよいでしょう。『賃金の改定』と一口に言っても、昇給の可能性があるのか、据え置きもありうるのか、その判断はどんな基準に基づくのか──こうした点が不透明なままでは、パート社員の不満は解消されません。評価の透明性は、モチベーションの土台です」

画猫さん:「評価面談をパート社員にも実施するよう、制度を見直してみます」

江尾社労士:「ぜひそうしてください。次回は第10章の災害補償を取り上げます。パート社員の労災対応や通勤災害の取扱いなど、『うちのパートさんには関係ない』と誤解されがちなテーマですよ」

参照条文一覧

条文番号

条文タイトル

主な関連トラブル

8

労働時間および休憩時間

トラブル3

11

時間外労働、休日労働および深夜労働

トラブル1

43

賃金構成

トラブル2

44

時間外労働・法定休日労働・深夜労働の手当等

トラブル1

45

通勤手当

トラブル2

46

賃金計算期間及び支払日

トラブル3

47

賃金の支払方法

トラブル3

48

臨時休業中の賃金

トラブル3

49

賃金の改定

全トラブル

50

賞与

トラブル2

51

退職金

トラブル2

 

社会保険労務士 江尻育弘