第1号でお伝えした9月16日の労働条件分科会では、過半数代表者と並んで年次有給休暇の論点も示されました。示されたのは三つ。時季指定義務の5日、時間単位年休の上限5日、そして年休を取ったときにお支払いになる賃金です。
このうち二つは「変える必要はない」という方向が研究会報告書で一度示されており、大きくは動かない見込みです。ところが残る一つ、年休中の賃金だけは事情が違います。労使双方が統一に異論を述べていない、この分科会でも数少ない論点だからです。
そして年休中の賃金は、医療機関・社会福祉法人でいちばん影響が出る論点でもあります。月給の正職員より、パート・登録ヘルパー・嘱託職員に効くからです。非正規の比率が高く、12月2日に最低賃金の改定を控える沖縄では、なおさらです。第2号は、ここを中心にお届けします。
いま、年休を取ったときにお支払いになる賃金は三つの方法から選べます。平均賃金、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金、そして労使協定を結んだ場合の標準報酬月額の30分の1です(労基法39条9項)。
今回の論点は、このうち「通常の賃金」を原則とするというものです。分科会に示された試算では、日給1万5千円の職員が1日の年休を取ったとき、平均賃金なら9,782円、通常の賃金なら15,000円。同じ1日の休みで5,217円の差が出ます。
そして今日からできることは、自社がどの方法を選んでいるかを就業規則でお確かめになることです。ここが空欄だったり、実際の給与計算と食い違っていたりする例が、決して珍しくありません。
示された論点は三つです。右端の「確定度」は、審議会の決定ではなく、これまでの議論の流れからみた弊事務所の見立てです。
| 論点 | いまの決まり | 検討されている方向 | 確定度 |
|---|---|---|---|
| 年休中の賃金の算定方法 | 労基法39条9項。平均賃金、通常の賃金、標準報酬月額の30分の1(労使協定が必要)の三つから、就業規則等で定めて選択 | 原則として「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」とすることをどう考えるか。その際、「平均賃金」や「標準報酬月額の30分の1に相当する金額」については引き続き労使協定の締結により選択することが可能とすることをどう考えるか | ◎ |
| 時季指定義務の日数 | 労基法39条7項。年10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に、年5日 | 育児休業からの復帰者や退職するなど何らかの理由により年休を与えることができる期間の短い労働者についても5日となっているが、当該日数をどう考えるか | ○ |
| 時間単位年休の上限日数 | 労基法39条4項。労使協定を締結した場合に、年5日を上限として時間単位で取得できる | 上限日数(5日)をどう考えるか。規制改革実施計画(令和7年6月13日閣議決定)は、上限を「例えば年次有給休暇の付与日数の50%程度に緩和すること」などの見直しの要否を含めて労働政策審議会で検討し、令和7年度に結論を得るとしている | △ |
この三つをお読みになるうえで押さえておきたいのが、令和7年1月にまとまった労働基準関係法制研究会報告書の記述です。同報告書は、時季指定義務の日数について「現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われない」とし、時間単位年休の日数についても同じく「現在の5日間から直ちに変更すべき必要性があるとは思われない」としています。
いっぽうで、賃金の算定方法については「日給制・時給制の場合等において、(1)や(3)の手法がとられてしまうと、計算式上賃金が大きく減額され得る」としたうえで、「原則として(2)の手法をとるようにしていくべきではないかと考えられる」と明確に方向を示しました。(2)が通常の賃金です。
そしてもうひとつ、育休復帰者・退職者のお取扱いについては「当該付与期間の残りの労働日が著しく少なくなっている労働者に対してまで、他の労働者と同じ日数の時季指定義務を課すことは、使用者や労働者にとって不合理な制約になる場合があることからも、取扱いを検討することが必要である」としています。日数そのものは動かさないが、期間が短い方の扱いは考える。これが研究会の立ち位置でした。
以下はいずれも、これまでの分科会で実際に出された意見です。どなたがどう主張しているかを知っておくと、今後の報道の読み方が変わります。
使用者側が「異論はない」と述べている論点は、この分科会ではむしろ例外的です。この方向で固まるとみておくのが現実的でしょう。だからこそ、いま自社の方式をお確かめになる価値があります。
労働者側も「何らかの調整が必要なケースは想定される」とは述べています。割れているのは、調整の要否ではなく、按分というやり方を認めるかどうかです。
研究会は「直ちに変更すべき必要性があるとは思われない」としましたが、いっぽうで規制改革実施計画が閣議決定で見直しの検討を求めています。拡大するにせよ据え置くにせよ、何らかの結論は出る論点です。時間単位年休を既に導入されている法人は、上限が動いたときにシフトがどうなるかを頭の片隅に置いておかれるとよいと思います。
分科会資料に示された試算例です。基本給は日給1万5千円、月の所定労働日数は20日、直近3か月の暦日数は92日、直近3か月の労働日数は60日という前提です。
| 算定方法 | 計算 | 1日分 | 労使協定 |
|---|---|---|---|
| @ 平均賃金 | 15,000円×60日÷92日=9,782.60円 (最低保障額 15,000円×60日÷60日×0.6=9,000円を上回るため、こちらを採用します) |
9,782円 | 不要 |
| A 所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金 | 15,000円 | 15,000円 | 不要 |
| B 標準報酬月額の30分の1に相当する額 | 300,000円÷30=10,000円 | 10,000円 | 必要 |
@とAの差は5,217円。年に5日取れば、2万6千円あまりの違いになります。労働者側が「賃金額を低く見積もるために」と述べているのは、この構造を指しています。月給者では差が出にくく、日給者・時給者で大きく開くという点が、この論点の勘どころです。
太い帯が「医療、福祉」、その下の細い帯が調査計(全産業)です。
「医療、福祉」は資料に掲げられた15業種のうち6番目の高さで、2020年実績から10.4ポイント上昇しました。現場の実感と違うとお感じになるかもしれませんが、この調査は常用労働者30人以上の民営法人が対象で、医療法人等も含まれます。数字のうえでは、医療・福祉は年休が取れている業種に分類されています。だからこそ、次の一手は「取らせること」から「取ったときの賃金を正しくお支払いになること」へ移っていきます。
令和7年(2025年)の業種別・導入率です。
「医療、福祉」の導入率は48.4%で、全産業の30.4%を18ポイント上回ります。通院、お子さんの行事、ご家族の介護。時間単位で休みたいというニーズが、もともと強い業種です。上限が動けば、真っ先に影響を受けるのはこの業種だということでもあります。
同じ論点でも、業種によって効き方がまるで違います。月給の正職員だけの職場であれば今回の話はほとんど影響しません。効くのは、日給・時給で働く職員を抱えている法人です。
39条9項は「就業規則その他これに準ずるもので定めるところにより」と定めています。方式は、事業場で統一して定めるべきものです。正職員には通常の賃金、パートには平均賃金、というように運用で使い分けている例を実際に目にすることがありますが、これは本来の姿ではありません。まずは就業規則の年休の条文を開いて、何と書いてあるかをご確認ください。
平均賃金は、直近3か月の賃金総額を暦日数で割ります。週3日勤務の非常勤職員であれば、暦日数のうち実際に働いた日は半分以下ですから、そのまま計算すると1日分が大きく下がります。日給制・時給制には最低保障(労働日数で割った額の6割)がありますが、それでも通常の賃金には届きません。登録ヘルパー、非常勤の看護職員、扶養の範囲で働くパート職員。非正規比率の高い法人ほど、通常の賃金への原則化で人件費が動きます。
通常の賃金は「その日の所定労働時間労働した場合に支払われる賃金」です。日勤8時間、夜勤16時間というように日によって所定労働時間が異なる職場では、年休を取った日がどの勤務だったかで1日分の額が変わります。1か月単位の変形労働時間制を組んでいる医療機関・介護施設では、ここが給与計算ソフトの設定と食い違いやすいところです。原則化されれば、この計算を全職員について正しく行う必要が出てきます。
Bの方式は、過半数代表者との労使協定がなければ使えません。しかも第1号で見たとおり、その過半数代表者の選出手続そのものが、いま法律への格上げを検討されています。Bを採用している法人は、協定書の有無と、その代表者がどう選ばれたかの二つを合わせてご確認ください。どちらかが欠けていれば、そもそもBを選べていないことになります。
現行のお取扱いでは、付与期間の途中に育児休業から復帰した職員についても5日を取得させる必要があります。ただし厚生労働省のQ&Aでは、残りの期間における労働日が、時季指定すべき残日数より少なく、5日を取得させることが不可能な場合にはその限りでないとされています。また、期間中に一度も復職しなかった休職者についても、義務の履行が不可能な場合には法違反を問うものではないとされています。女性職員の比率が高く、産休・育休・私傷病休職が日常的にある医療・福祉では、この判断を毎年どこかで行っておられるはずです。按分が導入されれば計算は明快になりますが、按分計算という新しい事務が増えることも意味します。
退職する職員についても、現在は5日の時季指定義務がかかります。退職日が決まってから急いで5日をまとめて消化していただく、という場面は少なくないと思います。ここも按分の対象として使用者側が検討を求めている部分です。
時間単位年休の労使協定では、対象者の範囲、日数(5日以内)、1日の年休が何時間に相当するか、そして1時間以外の単位で与える場合はその時間数を定めます。所定労働時間が日によって異なる職場では、この「1日の時間数」の決め方が実務の要になります。上限が拡大された場合、拡大の恩恵を受けられるかどうかは、この協定がきちんと整っているかにかかってきます。
今回の論点は全国一律の制度の話ですが、効き方には地域差があります。沖縄には、この三つの論点を全国平均より強く受ける事情が三つあります。
令和4年就業構造基本調査によれば、沖縄県の雇用者(役員を除く)62万6千人のうち、非正規の職員・従業員は39.6%。全国の36.9%を2.7ポイント上回ります。女性に限ると47.5%で、半数近くが非正規です。年休中の賃金の論点は日給制・時給制の職員ほど影響が大きいと述べましたが、その層が全国より厚いのが沖縄です。
同じ調査で、沖縄県の有業者に占める割合が最も高い産業は「医療、福祉」で12万5,700人。沖縄県が毎年行っている労働条件等実態調査(令和7年度)でも、回答した800事業所のうち213事業所、およそ4分の1が医療、福祉でした。今回の論点の当事者が、県内で最も多い業種だということです。
沖縄県最低賃金は、令和8年12月2日から1,023円が1,086円に改定されます。63円、率にして6.16%の引上げです。ここで算定方法の違いが表に出ます。
通常の賃金は、改定後の時給がその日から反映されます。いっぽう平均賃金は直近3か月の賃金総額をもとに計算しますから、12月2日以降しばらくの間は、改定前の単価が混ざった額になります。同じ職員が同じ1日の年休を取っても、12月に取るか3月に取るかで額が変わるということです。通常の賃金への原則化は、このずれをなくす方向に働きます。最低賃金の引上げ幅が大きい年ほど、この差は開きます。
| 区分 | 平均付与日数 | 平均取得日数 | 取得率 |
|---|---|---|---|
| 医療、福祉の正規社員 | 16.7日 | 12.1日 | 72.4% |
| 医療、福祉の非正規社員 | 11.2日 | 9.5日 | 84.9% |
| (参考)全業種の正規社員 | 15.7日 | 11.2日 | 71.1% |
| (参考)全業種の非正規社員 | 9.0日 | 6.8日 | 76.0% |
ひとつ、読み違えやすいところがあります。非正規社員の取得率84.9%は、正規社員の72.4%を上回っていますが、これは「非正規のほうが休めている」という意味ではありません。付与日数そのものが11.2日と少ないためで、実際に取った日数でみれば、正規12.1日に対し非正規9.5日です。取得率の高さが、そのまま休めている証拠とは限らない。年休の数字をご覧になるときの基本です。
直近の給与計算と就業規則を思い浮かべながら、「はい/いいえ」でお答えください。1から7に「いいえ」があれば、法改正を待たずに整えるべき部分です。
第一に、現状把握です。就業規則に何と書いてあるか、実際の給与計算がそのとおりか、Bを選んでいるなら労使協定があるか。この三つを突き合わせるだけで、多くの法人で何かしらのずれが見つかります。法改正とは無関係に、いま是正すべき部分です。
第二に、試算です。通常の賃金に一本化されたとき、支給額がどれだけ変わるのか。日給・時給の職員を1名か2名選んで、いまの方式と通常の賃金とで1日分を計算してみてください。差が小さければ今回の論点は実質的に無風ですし、大きければ予算に織り込む準備が要ります。この試算は30分あればできます。
沖縄の法人であれば、この試算は12月2日の最低賃金改定に合わせて行うのが効率的です。時給の引上げに伴って年休1日分も動きますし、平均賃金方式を採っている場合は、改定が反映されるまでに数か月のずれが出ます。改定対応の作業とまとめてご確認になるのが、いちばん手間がかかりません。
第三に、労働条件通知書への1日の所定労働時間の明記です。通常の賃金は所定労働時間を基礎に計算しますから、そこが書かれていない、あるいは「シフトによる」としか書かれていない契約が残っていると、原則化されたときに計算根拠を示せません。次の契約更新のタイミングが、最も手戻りのない着手点です。
就業規則の年休賃金条項の書き換え、按分計算の仕組みづくり、時間単位年休の上限拡大を前提とした制度設計。これらは今の段階で作り込む必要はありません。条文の形も、按分の計算方法も、上限をどこに置くかも、まだ何ひとつ決まっていないからです。
報道で「年休の賃金が一本化へ」といった見出しをご覧になることがあると思いますが、決まっているのは方向だけです。いま整えるのは制度ではなく、現状の把握と記録。それが今の段階で最も費用対効果の高い備えです。
分科会は、勤務間インターバル制度、連続勤務規制、「つながらない権利」、裁量労働制、変形労働時間制、副業・兼業、テレワーク・フレックスタイム制、過半数代表者等、法定休日、年次有給休暇を、月2〜3回程度の頻度で議論していく予定です(資料No.2-1)。順番は示されていません。
このなかで、医療機関・社会福祉法人にとって最も重いのは勤務間インターバルと連続勤務規制です。医師については、すでに一部の水準で連続勤務時間の制限と勤務間インターバルの確保が求められています。では、同じ院内で夜勤に入る看護職員や、夜勤明けにそのまま会議に出る介護職員はどうなるのか。この非対称がどう扱われるかが、次の焦点になります。
取り上げられ次第、第3号でお届けします。
沖縄を拠点に、医療機関・社会福祉法人・中小企業の労務顧問として、就業規則の設計・改定、労働時間制度の構築、職場復帰支援やハラスメント対策に取り組んでいます。法令遵守と職員のウェルビーイングの両立を軸に、作業を請け負うのではなく、目指す姿にご一緒する伴走者でありたいと考えています。
「うちは、どの方式で払っているだろうか」——そう思われたら、
就業規則の年休の条文と、直近の給与明細をお手元にご用意のうえ、
江尻までお気軽にご相談ください。