厚生労働省は、労働基準関係法令違反の疑いで送検され、公表された事案などを、企業・事業場名とともに掲載しています。令和8年9月30日掲載の資料にある全国393件を集計し、どのような事案が送検・公表されているのかを整理しました。沖縄労働局の事案と、九州・沖縄の各労働局の公表状況もあわせてご確認いただけます。
当事務所の分類では、公表事案の約6割が、安全・衛生措置、作業管理、教育・資格などに関する違反でした。墜落防止措置や機械の安全対策など、日常の作業管理に関わる事案が多く見られます。沖縄労働局の4件も、すべてこの類型です。「いつもの作業」であっても、必要な安全措置を講じなければ、重大な災害や送検・企業名公表につながるおそれがあります。
原資料の掲載項目(企業・事業場ごと)を単位として、違反法条と事案概要をもとに、主な違反内容により4類型に分類しました。
出典:厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」。違反法条と事案概要をもとに当事務所で集計し、構成比は件数から計算しました。※複数の違反が記載されている場合は、主な違反内容により1類型に分類しています。
今回の資料に掲載された393件は、参考事項欄にいずれも「送検」と記載されており、その大半が送検と同じ日に公表されています。送検事案は、是正勧告などの行政指導にとどまらず、刑事手続に進んだ事案です。ただし、送検は有罪の確定を意味するものではありません。資料には、送検後に「不起訴」と記載された事案が2件、「有罪確定」と記載された事案が1件あります。また、「個人事業主」として掲載された事案が11件あり、法人でなくても公表の対象になります。
目立つのは、墜落・転落の防止措置に関する事案で、50件余りあります。高さ2〜3m台の屋根や足場など、高所作業とは意識されにくい高さでの事案も含まれます。フォークリフトや貨物自動車など荷役運搬に関する事案と、ドラグ・ショベルなど建設機械に関する事案も、それぞれ30件前後あります。作業範囲への立入禁止をしていない、作業指揮者を置いていない、本来の用途以外に使用した、という内容が中心です。就業制限(労働安全衛生法第61条)に違反して資格のない方に作業をさせた事案は20件です。
このほか、機械の掃除・点検の際に運転を止めていない、覆いや安全装置がない、といった事案が製造・食品加工で繰り返し見られます。特別教育の未実施や、有害物に関する措置、注文者としての情報提供に関する事案もあります。元請・注文者としての措置(同法第30条・第31条等)を問われた事案は12件です。
金額の記載がある65件の中央値は約104万円で、100万円以上が33件です。対象の労働者が1〜3名、期間が1〜3か月という事案が多く、規模の大きな不払でなくても送検されています。
大半は、休業4日以上の労働災害が起きたのに、労働者死傷病報告を遅滞なく提出しなかったものです。虚偽の内容を報告・陳述した事案も11件あります。
36協定で定めた時間を超えたもの、36協定を締結・届出していないか無効だったもの、月100時間以上または複数月平均80時間超の上限規制違反の3種類が中心です。対象の労働者が1名でも送検されています。
沖縄労働局が公表した4件は、いずれも安全衛生措置の違反です。
| 公表月 | 所在地 | 事案の概要 |
|---|---|---|
| 令和7年12月 | 浦添市 | フォークリフトを本来の用途以外に使用させた。 |
| 令和7年12月 | 沖縄市 | 丸のこ盤に歯の接触予防装置を設けていなかった。 |
| 令和8年4月 | 石垣市 | ブロック塀による危険の防止措置を講じずに作業させた。 |
| 令和8年4月 | 石垣市 | 同上(同日に送検された別の事業者)。 |
本島だけでなく離島の現場も対象になっています。コンクリートブロック塀の多い沖縄では、解体や掘削の際に近くの塀が倒れる危険は、身近に起こり得るものです。
| 労働局 | 合計 | 安全衛生措置 | 賃金不払 | 労災かくし等 | 時間外・休日 |
|---|---|---|---|---|---|
| 福岡 | 17 | 9 | 5 | 2 | 1 |
| 鹿児島 | 11 | 8 | 0 | 3 | 0 |
| 大分 | 8 | 4 | 1 | 2 | 1 |
| 熊本 | 6 | 2 | 0 | 2 | 2 |
| 長崎 | 4 | 0 | 3 | 1 | 0 |
| 宮崎 | 4 | 2 | 2 | 0 | 0 |
| 沖縄 | 4 | 4 | 0 | 0 | 0 |
| 佐賀 | 3 | 2 | 0 | 0 | 1 |
単位:件。出典資料をもとに当事務所で集計しました。※労働局別の件数であり、企業所在地別・災害発生地別の件数ではありません。
今回集計した資料では、沖縄労働局の掲載項目に賃金不払や違法な時間外・休日労働の事案はありませんでした。九州の他の労働局では、同じ資料にこれらの事案が掲載されています。4件という少ない件数ですので、「沖縄ではこれらの違反は送検されない」という意味ではない点にご注意ください。
建設・土木では、墜落防止措置や建設機械の安全管理に関する事案に注意が必要です。沖縄労働局の4件のうち2件も、ブロック塀の近くでの作業に関する事案でした。元請の立場にある場合は、下請の労働者が使う足場や通路の安全措置、災害発生時の報告内容についても責任を問われます。
フォークリフトについては、パレットに人を乗せて昇降させるなどの用途外使用、無資格運転、作業範囲への立入りが典型です。機械の清掃や詰まりの除去は、必ず停止させてから行う手順になっているかをご確認ください。時間外労働の事案には、社名から運送業とみられる事業者が複数含まれています。
転倒や腰痛で休業4日以上となった場合の労働者死傷病報告は、業種を問わず義務です。「労災を使わず健康保険で済ませる」という対応は、労災かくしにつながります。36協定については、有効期間が切れていないか、従業員代表が適正な手続で選ばれているかが大切です。
最低賃金の改定時に時給の見直しが漏れていないか、月給の方の時間単価が最低賃金を下回っていないかをご確認ください。少人数の店舗では、休憩が実際に取れているか、割増賃金が正しく支払われているかも対象になります。
公表事案で繰り返し見られた違反を、点検項目に置き換えました。安全衛生委員会や職場巡視の議題としてもご活用いただけます。
| 分野 | 確認すること | 主な対象 |
|---|---|---|
| 墜落 | 高さ2m以上で墜落のおそれがある作業について、作業床を設け、端部・開口部等に手すり・覆い等を設けているか。設置が困難な場合等には、要求性能墜落制止用器具等による必要な措置を講じているか。屋根、脚立、はしごを使う作業も確認します。 | 建設、設備、施設管理 |
| フォークリフト | 運転者の資格、用途外使用の禁止、作業計画と作業指揮者、歩行者との分離。 | 運輸、倉庫、卸売、製造 |
| 建設機械・掘削 | 立入禁止と誘導員、用途外使用、近くのブロック塀・擁壁の倒壊防止。 | 建設、土木、解体 |
| 機械設備 | 覆い・安全装置の有無、清掃・点検時の停止と表示。 | 製造、食品、木工、給食 |
| 元請の責任 | 下請の労働者が使う足場・通路の措置、統括管理の記録。 | 元請となる建設業 |
| 死傷病報告 | 死亡・休業4日以上の災害を遅滞なく報告する社内ルートと、休業1〜3日の災害を四半期ごとに報告する手順があるか。派遣労働者の災害は、派遣元・派遣先双方の報告が必要です。下請労働者の災害についても、雇用する事業者からの報告と、元請への連絡・情報共有の手順を確認します。 | すべての業種 |
| 賃金 | 最低賃金改定時の単価点検、賃金支払日の遅れがないか。 | すべての業種 |
| 36協定 | 有効期間、過半数代表者の選出方法、協定で定めた延長時間・休日労働日数、特別条項の適用回数、法定の上限時間の遵守状況。 | すべての業種 |
※一般則では、時間外労働と法定休日労働の合計を単月100時間未満、2〜6か月の各平均80時間以内とする必要があります。自動車運転の業務や医師などには別の規制があるため、適用される基準を個別に確認してください。
※労働者死傷病報告は、令和7年1月1日から原則として電子申請が義務化されています。
まず取りかかりやすいのは、死傷病報告の社内ルートと36協定の有効性の2点です。どちらも設備投資を必要とせず、書類と手順の確認で対応できます。
法令遵守と、働く方が安心して力を発揮できる職場づくりの両立を、予防の視点からお手伝いしています。
出典:厚生労働省労働基準局監督課「労働基準関係法令違反に係る公表事案」(令和7年9月1日〜令和8年8月31日公表分、令和8年9月30日掲載)。
注記:本記事は、厚生労働省の令和8年9月30日掲載資料に掲載された企業・事業場ごとの項目を単位として、当事務所で集計したものです。同一の災害等に関係する複数の事業者が掲載されている場合は、それぞれを1件として数えています。類型は、違反法条と事案概要をもとに主な違反内容により分類しており、厚生労働省の公式統計ではありません。墜落・荷役運搬・建設機械の内訳は事案概要の用語と条文番号による抽出のため、概数で示しています。また、公表事案は法令違反全体や送検事案全体を示すものではなく、送検は有罪の確定を意味するものではありません。本資料は一般的な情報提供を目的としており、個別の事案については専門家にご相談ください。