人事評価コラム|評価制度の歴史から考える
評価制度の価値は、評価の理由を事実で説明できるかどうかで決まります。職員から「なぜ私の評価はBなのですか」と聞かれたとき、「頑張りが足りなかったから」「協調性がいまひとつだったから」としか答えられないなら、その評価は本人を納得させることも、会社を守ることもできません。
日本では長く、人事評価は「上司が部下をよく見て判断するもの」と考えられてきました。これに対してアメリカでは、半世紀以上前から、評価は法廷で差別がなかったことを示す“証拠”として扱われてきました。この違いがどこから生まれたのかをたどると、これからの人事評価制度で大切にすべきことが見えてきます。
2026年10月1日から、「説明を求められる」ことが前提になります。
パート・有期雇用の方を雇い入れるとき、「待遇差の内容や理由の説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。評価や処遇の理由を説明できる準備が、どの職場にも求められる時代になりました。
この記事でお話しすること
1半世紀の流れを、年表で 2「悪意がなくても差別になる」グリッグス判決 3上司の評価も「テスト」とみなされた 4日本でも、評価は説明を求められ始めている 5説明できる評価のための、三つのこと差別を禁じた一つの法律が、裁判を通じて、評価のあり方そのものを変えていきました。
起点は1964年に成立した公民権法の第7編(Title VII)です。人種、肌の色、宗教、性別、出身国を理由に、採用・賃金・昇進・解雇などで差別することを禁じました。ただ、法律が「差別するな」と定めただけでは、評価の実務は変わりませんでした。評価のあり方を根本から変えたのは、その後に続いた裁判と、裁判が求めた「説明の水準」でした。
グリッグス判決の考え方は、まもなく日常の人事評価にも及びました。
問題とされた評価
基準 「協調性」「信頼性」など抽象的な項目。
評価者 仕事ぶりを日常的に見ていない上司が判断。
根拠 印象や記憶による判断で、記録がない。
求められるようになった評価
基準 期待する行動を具体的に記述した基準。
評価者 実際に観察できる立場の評価者と、その訓練。
根拠 期中の事実を記録し、理由を示せる状態。
出典:Brito v. Zia Co., 478 F.2d 1200(10th Cir. 1973)の認定事実をもとに江尻事務所で整理しました。
1978年には、EEOCなどの行政機関が共同で「従業員選抜手続に関する統一ガイドライン」を定め、選抜や評価の基準は職務分析に裏づけられたものであるべきだという考え方が定着しました。1988年のワトソン判決では、連邦最高裁が、上司の裁量による主観的な昇進判断にも差別的効果の法理が及ぶと明言しています。
日本にはアメリカほどの訴訟文化はありません。それでも、評価や処遇の理由を説明する責任は、この数年で確実に重くなっています。
パートタイム・有期雇用労働法により、正社員との待遇差の内容と理由を、求めに応じて説明する義務が会社に課されています。2020年10月15日の日本郵便事件最高裁判決は、手当や休暇の一つひとつについて、その趣旨に照らして差が合理的かを問いました。「正社員だから」という説明は、もう通用しません。
さらに2026年10月1日からは、雇入れ時に「待遇差の内容や理由の説明を求めることができる」旨の明示が必要になります。あわせて指針やガイドラインも見直され、説明は資料を使って行うこと、賃金は職務の内容や成果、能力、経験などを踏まえて決めることが、より具体的に求められました。
東朋学園事件(最高裁・平成15年12月4日)では、賞与の出勤率要件の計算で産前産後休業などを欠勤扱いにした部分が公序に反し無効とされました。育児休業などを理由とする不利益取扱いの禁止、能力不足を理由とする降格や解雇での裁量権濫用の判断、評価を使ったハラスメントなど、評価の中身と手続きが問われる場面は広がっています。
アメリカの歴史から取り入れたいこと
取り入れるのは、形ではなく、
「説明できる」という理由のほう。
日本の評価制度も、「育成と処遇の道具」から「説明責任を果たす道具」へと性格を変えつつあります。職務給や分厚い職務記述書を、そのまま導入する必要はありません。
中小企業がまず始めたいのは、次の三つです。
評価が“証拠”になった歴史は、会社を訴訟から守る話だけではありません。基準がはっきりしていて、事実にもとづいて評価され、理由を話してもらえる職場では、職員は安心して力を出せます。説明できる評価は、心理的安全性と成長の土台でもあるのです。
まずは、いまの評価シートを手に取り、一つひとつの項目について「この点数の理由を、事実で説明できるか」と問いかけてみてください。答えに詰まる項目が、評価制度の見直しの入口です。
執筆・監修:社会保険労務士 江尻育弘
社会保険労務士 江尻事務所(沖縄県中城村)。人事評価制度・賃金制度の設計、就業規則の作成・改定、同一労働同一賃金への対応を、医療・福祉・保育をはじめとする沖縄の事業所とともに考えながらお手伝いしています。
評価制度のご相談は、江尻事務所へ
いまの評価シートで説明できるかの点検、役割の定義、就業規則・賃金規程とのつなぎ方、評価者研修、そしてパート・有期の方への待遇差説明の準備まで。貴社の実情に合わせてご提案します。江尻までお気軽にご相談ください。
お問い合わせはこちら出典・参考:Griggs v. Duke Power Co., 401 U.S. 424(1971)。Brito v. Zia Co., 478 F.2d 1200(10th Cir. 1973)。Watson v. Fort Worth Bank & Trust, 487 U.S. 977(1988)。日本郵便事件(最一小判令和2年10月15日)。東朋学園事件(最一小判平成15年12月4日)。厚生労働省Webマガジン「2026年10月からパートタイム・有期雇用のルールが変わります」。
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