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勤務間インターバルが、
努力義務から一段上がるかもしれない

遅番の翌日の早番、時間外のLINE、記録のない前残業。
江尾社労士とさくらの対話で読む 医療機関・社会福祉法人版
労働政策審議会 労働条件分科会(第212回・令和8年10月14日)資料より
2026年10月14日 社会保険労務士 江尻事務所

10月14日、第212回の労働条件分科会が開かれました。議題は二つ。労働契約承継法の通知の電子化と、労働基準関係法制です。後者では勤務間インターバル制度、「つながらない権利」、労働時間の把握の三つが、論点として正面から示されました。

いずれも、夜勤と交替制で回している医療機関・介護施設に直接かかわる話です。第3号は趣向を変えて、事務所の二人の対話でお届けします。

江

江尾社労士医療・福祉の顧問先を多く担当。審議会の資料は、まず数字の表から読む派。

さ

さくら事務所スタッフ。顧問先からの質問を受ける窓口役。前職は介護施設の事務。

今回のいちばんの注目点

勤務間インターバルは、平成31年4月から労働時間等設定改善法の努力義務です。今回の論点は、そのより実効性ある導入促進のために「法的位置付け」を含め、どのような措置を講ずべきか、というものです。努力義務のままでよいかが、正面から問われています。

医療の世界には、すでに先行例があります。医師は、対象となる場合、連携B・B・C水準で勤務間インターバルの確保が義務になっています(適用条件あり)。いっぽう、同じ病棟で夜勤に入る看護職員や介護職員は、いまも努力義務のままです。

今日からできることは、直近1か月の勤務表で「終業から次の始業まで」が何時間空いているかを測ってみることです。遅番の翌日に早番が入る組み方があれば、そこが最初に問われる場所になります。

6.9%
勤務間インターバル制度を導入している企業の割合(令和7年)。平成29年の1.4%から伸びてはいるものの、1割に届きません
57.3%
導入予定も検討もしていない企業のうち、その理由を「超過勤務の機会が少なく、必要性を感じない」とした割合(令和7年)
36.8%
勤務時間外・休日の社内連絡について「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」企業の割合(令和5年)
7,314件
労働安全衛生法66条の8の3(労働時間の状況の把握)に係る違反の件数(令和7年)。5年続けて6千件を超えています
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(6ページ、49ページ、57ページ)。導入率は厚生労働省「就労条件総合調査」(常用労働者30人以上の民営企業が対象)、連絡ルールは同省「労働時間制度等に関するアンケート調査」(令和5年、ウエイトバック集計)、違反件数は同省「労働基準監督年報」に基づきます。

1. 何が議論されたか

さ
さくら
先生、第2号の次号予告では「勤務間インターバルと連続勤務規制」とお書きになりましたよね。今回、連続勤務規制は出てこなかったのですか。
江
江尾社労士
今回は入っていなかったのです。そのかわり、勤務間インターバルと組みになる論点が二つ出てきました。「つながらない権利」と労働時間の把握です。三つとも「働いていない時間を、どう守るか」という一本の線でつながっています。
さ
さくら
議題の一つ目の、労働契約承継法というのは何でしょう。
江
江尾社労士
株式会社や合同会社が会社分割をするとき、労働者や労働組合に送る通知を、いまは書面でしか出せないのです。それを電子化できるようにしようという話です。令和3年の規制改革実施計画で検討が求められていたもので、ようやく具体案が出てきました。医療法人や社会福祉法人は、この法律の対象となる会社分割の当事者ではありません。顧問先への影響は小さいので、表の最後に置いておきましょう。

示された論点を表にまとめました。右端の「確定度」は、審議会の決定ではなく、これまでの議論の流れからみた弊事務所の見立てです。

◎ おおむね固まってきた 労使の方向が一致しており、形は変わっても中身は残る見込みです。
○ 方向性は見えた 見直しの必要性は共有されていますが、どこまで書くかは未定です。
△ まだ白紙 労使が正面から対立しており、着地が読めません。
論点 いまの決まり 検討されている方向 確定度
勤務間インターバル制度 労働時間等設定改善法2条1項。「健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定」を講ずるよう努めなければならない(平成31年4月施行)。時間数の定めはない より実効性ある導入促進のために、「法的位置付け」を含め、どのような措置を講ずべきか ○
「つながらない権利」の在り方 法律上の定めはない。テレワークガイドラインが、時間外のメール送付の抑制やシステムへのアクセス制限などを例示 一部の国で法制化の例も見られるが、各企業が実態に応じて業務上の連絡に関するルールを明確化することについて、どのように考えるか ○
労働時間の把握 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年)と、労働安全衛生法66条の8の3の「労働時間の状況」の把握義務 未だに労働時間の把握が全くできていない事業場があると指摘されていることを踏まえ、把握の在り方をどのように考えるか △
労働契約承継法の通知等の電子化 会社分割の際の労働者・労働組合への通知、労働者からの異議申出は書面で行う 相手方に確実に到達するための措置を講じつつ電子化を可能とする。具体的には、使用者と過半数労働組合等との間で通知等の方法を定め、それ以外の方法を労働者が希望した場合はその希望する方法によることとしてはどうか ◎
出典:第212回労働条件分科会 資料No.1(5ページ)、資料No.2-1「本日ご議論いただきたい論点」(1〜2ページ)。表中の太字部分は資料の原文表現です。

研究会は、インターバルを「義務化を視野に」と書いていました

さ
さくら
インターバルが「○」なのは、なぜですか。「法的位置付け」と書いてあるなら、もう義務化に向かっているように読めますけれど。
江
江尾社労士
何かしら強化される方向は見えています。令和7年1月の労働基準関係法制研究会報告書が「抜本的な導入促進と、義務化を視野に入れつつ、法規制の強化について検討する必要がある」と書いていますし、公益委員からも、今の書きぶりでは周知に限界がある、という意見が出ています。
ただ、どの法律に、どの強さで書くかは、まだ選択肢が並んでいる段階です。だから「◎」ではなく「○」にしました。
さ
さくら
選択肢というのは、どんなものが並んでいるのでしょう。
江
江尾社労士
報告書には、制度の中身と、義務の強さの二つの軸で案が書かれています。下にまとめておきましょう。
軸 報告書に示された考え方
制度の中身 (ア)11時間を原則としつつ、適用除外の職種や、確保できなかった場合の代替措置などを柔軟に設定する
(イ)11時間より短い時間としつつ、柔軟な対応はより絞る
(ウ)経過措置を設け、全面施行までに一定の期間を置く
義務の強さ (ア)労働基準法による強行的な義務とする
(イ)労働時間等設定改善法等で、制度を設けることの義務付けや、事業主への配慮を求める規定を置く
(ウ)あわせて、労働基準法で就業規則の記載事項と位置付け、行政指導等で普及を図る
(エ)現行の抽象的な努力義務規定を具体化する
代替措置 健康観察や面接指導といった事後のモニタリングではなく、代償休暇など労働からの解放を確保するものが望ましい。代替措置によることができる回数の上限を、事業場の労使協議で設定する考え方も示された
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(44ページ)に掲載された「労働基準関係法制研究会報告書 概要」を整理しました。いずれも「考え方」として並記されたもので、どれかに決まったものではありません。

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2. 労使はどこで割れているか

江
江尾社労士
ひとつお断りしておくと、今日の分科会で委員が何を発言したかは、議事録が出るまでわかりません。ここで紹介するのは、資料に整理されたこれまでの分科会での意見です。

勤務間インターバル — 「11時間」と「画一的」で割れています

労働者側
導入率は6.9%にとどまっているのが実態であり、これまでの取組の延長線上では、大幅な導入の増加は難しい。法律による義務化という一段上の措置を講じていくべき。/諸外国のインターバル制度では11時間が原則であることも踏まえ、11時間のインターバルを義務化する方向で検討すべき。/代替措置等の例外は限定的なものとすべき。
使用者側
原則11時間というような画一的な規制には反対。既に導入している企業の多様な方法を認める方向で検討すべき。/初めから罰則付きではなく、猶予期間や経過措置を設け、まずは周知徹底や助成金の活用促進をしていきながら、段階的に制度導入を進めるべき。/中小企業の多くはサプライチェーンの下層に位置し、他律性が高い。代替要員の確保が困難である中で、一律に対応を求めることは困難。
公益
労働基準法への導入と義務化が適切と考えるが、実現は容易ではないことも理解。労働時間等設定改善法に規定を残すにしても、単独の条項に独立させることや、時間数の目安を法律上示すなどの対応が望まれる。/抽象的な努力義務の具体化や配慮義務化といった形でアプローチするという選択肢もあり得る。
さ
さくら
使用者側も「インターバルなんて要らない」とは言っていないのですね。
江
江尾社労士
そこが読みどころです。使用者側も、導入促進そのものを否定しているわけではありません。ただ、原則11時間の画一的な規制や、現時点での一律の義務化には反対・慎重の立場で、「時期尚早」「労使の自治を脅かしかねない」という意見も出ています。企業ごとの柔軟性と、猶予期間を置いた段階的な導入を重視しているわけです。そのうえで、公益委員の「単独の条項に独立させる」「時間数の目安を示す」「配慮義務化」あたりが、落としどころの候補として残っていくのではないかと見ています。

「つながらない権利」 — 法制化か、社内ルールか

労働者側
顧客や取引先との関係を含め、社会全体での意識改革が必要だからこそ、社会規範の醸成にも資するつながらない権利の法制化に取り組むべき。/勤務時間外の連絡に関するルールを労使で協議して導入を検討することを、事業主の措置義務とすることも考えられる。
使用者側
所定時間外の連絡をどうするかは、労働条件というよりは働き方、仕事の進め方、指揮命令の権限にも関わること。/労働基準法で画一的に義務化するのではなく、業務実態を想定しながら議論を進めていくことが重要。/テレワークガイドラインに盛り込まれた内容の周知をまずは行うべき。
さ
さくら
今回の論点の書き方は「各企業が実態に応じて……ルールを明確化すること」でした。法制化より、社内ルールの方向に寄っているように見えます。
江
江尾社労士
よく読めていますね。研究会報告書も、どこまでの連絡は許容できて、どこからは拒否できるのかを労使で社内ルールとして検討していくことが必要で、そのためのガイドラインの策定等を検討すべきだ、という書き方でした。「権利」という言葉の強さとは裏腹に、着地はルールづくりを促す仕組みになる可能性が高いと見ています。

労働時間の把握 — 罰則付きの義務化をめぐって正面から対立

労働者側
上限規制の実効性を高めるため、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を法令へ格上げし、罰則等も含めた義務づけを行うべき。/労基法における労働時間の適正把握の罰則つきの義務化を含めた規制強化を行うべき。
使用者側
労働時間の把握は労働基準法の義務履行の手段として現在の規制に包含されており、健康確保のための把握義務は労働安全衛生法に規定されている。新たな義務付けは過度な規制となり得る。/管理監督者や裁量労働制の適用労働者にも1分単位のような厳密な労働時間把握を義務づけると、制度の実効性そのものを損なう懸念もある。
江
江尾社労士
ここは労使の距離がいちばん遠い論点です。ただ、どちらに転んでも、いま求められている水準は変わりません。ガイドラインに沿って把握することは、すでに使用者の責務です。格上げされるかどうかは、守れていない事業場への効き目の問題なのです。
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(2〜4ページ、46〜47ページ、53ページ、55ページ)「これまでの議論の主な意見の整理」。勤務間インターバルと「つながらない権利」は第204回分科会参考資料No.1に以降の意見を、労働時間の把握は第202回分科会参考資料No.1に他の意見を、それぞれ事務局が加えたものです。読みやすさのため、一部を「/」で区切って並べています。

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3. 数字で見る、いまの現場

導入率は、8年かけて1.4%から6.9%へ

平成29年1.4%
 
平成31年(努力義務化の年)3.7%
 
令和3年4.6%
 
令和5年6.0%
 
令和7年6.9%
 
過労死等防止対策大綱の目標(令和10年度まで)15%以上
 

帯の長さは25%を全幅とした目盛りです。

さ
さくら
努力義務になってからでも6年以上たっていますよね。それで7%弱、というのは……。
江
江尾社労士
労働者側が「延長線上では難しい」と言う根拠がこれです。しかも、導入予定も検討もしていない企業の57.3%が「超過勤務の機会が少なく、必要性を感じない」と答えています。30〜99人の企業では、23.9%が「制度を知らなかった」です。
ここで医療・福祉の方に考えていただきたいのは、残業が少ないことと、勤務と勤務の間が空いていることは別の話だという点です。交替制の職場では、残業ゼロでも、シフトの組み方だけで間隔が短くなることがあります。

導入済みの医療・福祉は、11時間以上が6割

次の表は、制度を導入している(していた)企業だけを対象にした調査です。設定しているインターバル時間数を、全産業と医療・福祉で比べました。

設定時間数 全産業 医療、福祉
9時間未満 7.0% —
9時間以上10時間未満 24.8% 34.9%
10時間以上11時間未満 17.6% 2.3%
11時間以上(11時間台+12時間以上) 44.9% 60.9%

さらに、導入済みの医療・福祉の企業に、インターバルを確保したときの労働時間の扱いを聞くと、43.4%が「特に扱いを考えなくても確保できている」と答えています。翌日の始業を後ろ倒しにする方法は19.4%、一定時刻以降の残業を禁止する方法は17.5%でした。

さ
さくら
導入しているところは、もともとシフトで間隔がとれている、ということでしょうか。
江
江尾社労士
導入済みの医療・福祉企業には、特別な労働時間の調整をしなくても、設定したインターバルを確保できている例がある、ということです。ただし、これは導入経験のある企業だけの結果です。未導入の法人を含む医療・福祉全体で同じように実現できるとは言えません。各法人で実現できるかは、勤務表だけでなく、人員配置や夜勤・呼出の実態も合わせて確かめる必要があります。それから、導入済みでも9時間台に設定している企業が3割を超えています。もし「11時間原則」で決まれば、この層は設定の見直しが要ります。

時間外の連絡、ルールがあるのは6割ほど

特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている36.8%
 
災害時等の緊急連絡を除いて、連絡しないこととしている29.4%
 
翌営業日に対応が必要など、急を要する業務の連絡のみ認めている27.1%
 
急を要しないものでも連絡が取れるようにしている16.0%
勤務時間外や休日には、社内システムにアクセスさせない1.9%

労働者への調査では、勤務時間外の社内連絡に「出社せず通信機器等で対応した」が23.4%、「出社して、または取引先等に出向いて対応した」が8.9%でした。勤務時間外の連絡について「対応したくない」と答えた方は38.0%です。

インターバルと時間外の連絡は、重なって効きます

江
江尾社労士
資料のなかで私がいちばん面白いと思ったのが、労働安全衛生総合研究所のIT労働者58人を1か月追った調査です。インターバルが短い日は、時間外のメールが多くても少なくても、疲労感や仕事からの心理的な切り離しの指標が悪化していました。そしてインターバルが長い日でも、時間外のメールが多いと、心理的な指標が悪化していたのです。
ただし、この研究はインターバルを15時間以上か未満かで区分した、IT労働者の1か月の観察研究です。11時間という制度の基準や、医療・介護職への効果を直接確かめたものではない点は、割り引いてお読みください。
さ
さくら
間を空けても、連絡が来たら休んだことにならない……。今回、二つが同じ日に議論された理由がわかった気がします。
江
江尾社労士
そういうことです。就業者調査では、理想の睡眠時間は「7〜8時間未満」が45.4%で最多なのに、実際は「5〜6時間未満」が35.5%で最多。約7割が理想の睡眠時間を取れていません。インターバルは、その睡眠時間を制度で守る仕組みだと考えると、わかりやすいと思います。

労働時間の状況の把握義務、違反は毎年7千件前後

年 令和3年 令和4年 令和5年 令和6年 令和7年
違反件数 6,414 8,837 7,559 7,324 7,314
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2。導入率・未導入の理由は6ページ(厚生労働省「就労条件総合調査」)。設定時間数は10ページ、労働時間の扱いは15ページ(同省「勤務間インターバル制度に関する実態調査」。令和6年10月1日時点、制度を導入している(していた)企業の有効回答396社。業種別の数値は回答数が限られるため、幅をもってご覧ください。時間数が不明の企業を含むため、合計は100%になりません)。連絡ルールと時間外の連絡は49〜50ページ(同省「労働時間制度等に関するアンケート調査」令和5年)。研究所の調査は42ページ、睡眠時間は41ページ(労働安全衛生総合研究所「令和4年度過労死等に関する実態把握のための労働・社会面調査研究」)、違反件数は57ページ(同省「労働基準監督年報」)。

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4. 医療機関・社会福祉法人では、どこが効くか

(1)医師は義務、看護・介護は努力義務という非対称

さ
さくら
病院の顧問先から「医師の働き方改革のときに、インターバルはもうやった」と言われそうです。
江
江尾社労士
そこは整理してお伝えしたいところです。医師については、医療法に基づく追加的健康確保措置として、対象となる医師に勤務間インターバルの確保が求められています。A水準では努力義務、連携B・B・C水準では義務です。基本は始業から24時間以内に連続9時間の休息で、宿日直許可のない宿日直に従事させる場合には始業から46時間以内に連続18時間を確保する仕組みもあります。
ただし、適用には条件があります。資料では、時間外労働が年720時間を超える、または月45時間を超える月数が年6か月を超えることが見込まれる場合に限る旨が注記されていますし、C-1水準を臨床研修医に適用する場合には別途の規定があります。細部は医療法と同施行規則でご確認ください。
でも、それは医師だけの話なのです。同じ病棟の看護職員、介護施設の介護職員には、労働時間等設定改善法の努力義務しかかかっていません。今回の議論は、まさにその人たちが対象です。
対象 勤務間インターバル 根拠
一般の労働者(看護職員・介護職員など) 努力義務。時間数の定めなし 労働時間等設定改善法
医師(A水準) 努力義務(適用条件あり) 医療法(水準は医療法施行規則)
医師(連携B・B・C水準) 義務(適用条件あり)。始業から24時間以内に連続9時間、または46時間以内に連続18時間(後者は宿日直許可のない宿日直に従事させる場合)。インターバル中に緊急業務に従事した場合は代償休息が必要。C-1水準を臨床研修医に適用する場合は別途規定あり
自動車運転の業務 継続11時間以上とするよう努めることを基本とし、9時間が下限 改善基準告示
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(8ページ)「一般の労働者、医師、自動車運転者に対する時間外労働規制、勤務間インターバルの比較」より抜粋しました。医師の勤務間インターバルには、時間外労働が年720時間または月45時間を超える月数が年6か月を超えることが見込まれる場合に限る旨の注記があります。

(2)夜勤明けだけでなく、「遅番の翌日の早番」も確認

さ
さくら
インターバルと聞くと、まず夜勤を思い浮かべます。
江
江尾社労士
夜勤ももちろん確認が要ります。ただ、夜勤明けの休息が確保されている職場でも、遅番の翌日に早番を組むと、勤務の間隔が短くなることがあります。たとえば、こういうシフトです。
勤務表どおり 遅番 13:00〜22:00 → 翌日 早番 7:00〜間隔 9時間
遅番
休息 9時間
記録と申し送りで30分延びた日間隔 8時間30分
遅番
 
休息 8.5時間
22:00に終業した場合、翌日の始業を9:00以降に間隔 11時間
遅番
休息 11時間
22:30まで延びた場合は、翌日の始業を9:30以降に間隔 11時間
遅番
 
休息 11時間
22:00翌 7:00〜9:30
弊事務所が作成した例です。休憩1時間を含みます。11時間は、勤務表上の終業ではなく実際の終業から数えています。この例のインターバルは終業から次の始業までの時間で、通勤時間もこの中に含まれるため、自宅で休養や睡眠に使える時間は、その分短くなります。
江
江尾社労士
勤務表のうえでは9時間。通勤や食事、入浴などに時間がかかれば、睡眠に使える時間が5時間程度になることもあります。残業ゼロの職場でも、この組み方なら11時間には届きません。前の節で「残業が少ないことと、間が空いていることは別」と言ったのは、このことです。

(3)オンコールと緊急呼出の扱い

さ
さくら
訪問看護ステーションのオンコールや、グループホームの夜間の呼び出しはどうなるのでしょう。
江
江尾社労士
まだ何も決まっていません。ただ、資料には参考になる外国の例があります。ドイツは原則11時間ですが、病院・看護・介護の施設などでは、1か月以内に別の日の休息を12時間以上にすれば10時間まで短縮でき、呼出待機中の出動で休息が短くなった場合も、半分を超えなければ別の時間で調整できます。そのドイツでも、連続休息時間を短縮した割合を職種別にみると、医療・保健職が31%と最も高いのです。
日本で制度化されるとしても、医療・介護の呼出を例外にするか、代償休息で埋め合わせるかという設計が、必ず論点になります。研究会報告書が代替措置は「代償休暇など労働からの解放を確保するもの」が望ましいとしていたことは、覚えておいてよいと思います。

(4)「つながらない」の現場は、シフトのLINEです

さ
さくら
前の職場では、夜10時ごろに「明日、早番に入れる人いませんか」とグループLINEが鳴るのが日常でした。
江
江尾社労士
医療・福祉の「つながらない権利」は、まさにそこです。欠員補充の依頼、利用者さんの容態の申し送り、勤務変更の相談。悪意のない連絡ほど、時間を選ばずに届きます。しかも個人のスマートフォンに、です。
ルールといっても大げさなものでなくて構いません。誰が、どんな用件なら、何時まで連絡してよいか。それと、欠員の依頼は個人宛てではなく、管理者が勤務時間内にまとめて行う。これだけでも、職員の受け止め方はずいぶん変わります。

(5)労働時間の把握は「前残業」と「持ち帰り」が要

さ
さくら
タイムカードは置いてある法人がほとんどです。それでも、把握できていないことになるのでしょうか。
江
江尾社労士
打刻と、実際に働いている時間がずれていることが問題なのです。始業前に電子カルテや介護記録を見て情報を集める時間、終業後に記録を書く時間、参加が義務づけられた研修。ガイドラインは、参加が業務上義務づけられている研修や、使用者の指示による学習の時間は労働時間に該当すると明記しています。
打刻は8時半なのに、電子カルテへのログインは8時、という職員が何人もいれば、それは記録の補正が必要なサインです。ガイドラインは、自己申告の時間と在社時間に著しい乖離がある場合は実態調査をして補正することを求めています。
江
江尾社労士
もうひとつ。安衛法の「労働時間の状況」の把握は、管理監督者も対象です。看護師長や施設長も、把握の外に置かないでください。

(6)承継法の電子化は、労働条件通知書と同じ考え方

さ
さくら
承継法は顧問先には関係が薄い、ということでしたね。
江
江尾社労士
ええ。ただ、介護事業を株式会社で営んでいる顧問先が、事業承継で会社分割を使う場面はありえます。それに、今回の案の考え方は覚えておいて損がありません。労使で決めた方法を基本にしつつ、本人が別の方法を望めばそちらによる。電子化しても「確実に届く」ことを手放さない、という発想です。
労働条件通知書をメールで交付する場合も、労働者が希望した場合に限られます。法人の側で電子交付を進めるときに、同じ物差しで考えておくと迷いません。
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(8ページ・医師等との比較、37ページ・ドイツの制度、44ページ・研究会報告書、56ページ・労働時間の適正な把握のためのガイドライン)。ドイツの数値は、同国連邦労働安全衛生研究所の2023年報告(2021年時点)として資料に掲載されたものです。

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5. 沖縄では、どこがちがうか

さ
さくら
沖縄ならではの事情はありますか。
江
江尾社労士
三つあると思います。

(1)当事者が、県内でいちばん多い業種

江
江尾社労士
第2号でもご紹介しましたが、令和4年就業構造基本調査で、沖縄県の有業者に占める割合が最も高い産業は「医療、福祉」の12万5,700人です。県の労働条件等実態調査(令和7年度)でも、回答した800事業所のうち213事業所、およそ4分の1が医療、福祉でした(これは調査に回答した事業所の内訳で、県内全事業所の構成を示すものではありません)。医療・福祉は県内最大の就業分野であり、勤務間インターバルの検討が、県内の多くの働く人にかかわるテーマだということがわかります。

(2)休息時間から、車の通勤時間が引かれる

江
江尾社労士
国の指針は、インターバルの時間を決めるときに「労働者の通勤時間、交替制勤務等の勤務形態や勤務実態等を十分に考慮」するよう求めています。沖縄は車での通勤が中心で、朝夕は渋滞で所要時間が読みにくい。同じ9時間のインターバルでも、自宅で過ごせる時間は、勤務表の数字よりかなり短くなります。
さ
さくら
22時に終わって、渋滞はないにしても、帰りに40分。翌朝6時20分には家を出る……。たしかに、数字ほど休めていませんね。

(3)台風と、離島の代替要員

江
江尾社労士
労働者調査では、インターバルを確保できなかった理由のひとつに「台風・地震等の自然災害の発生」が挙がっています。台風で交代の職員が来られず、夜勤者がそのまま日勤に残る。沖縄の施設では毎年のように起きることです。制度化されたとき、災害時の例外がどう書かれるかは、県内の法人にとって大事な点です。
それから、使用者側が言う「代替要員の確保が困難」は、離島の診療所や施設ではそのとおりの現実です。11時間を守るために、そもそも代わりの人がいない。インターバルの議論は、人員配置の議論と切り離せません。
出典:第212回労働条件分科会 資料No.2-2(7ページ・労働時間等設定改善指針、24ページ・確保できなかった理由)、総務省「令和4年就業構造基本調査」沖縄県結果の要点、沖縄県商工労働部労働政策課「令和7年度 沖縄県労働条件等実態調査報告書」。通勤時間の例は、弊事務所が作成したものです。

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6. 自社診断 10のチェック

江
江尾社労士
直近1か月の勤務表と出退勤の記録を手元に置いて、「はい/いいえ」で答えてみてください。1から4に「いいえ」があれば、法改正を待たずに整えたいところです。
確認事項
はいいいえ
1
始業・終業時刻を、タイムカード・ICカード・パソコンの使用記録など、客観的な記録で確認していますか。
 
2
自己申告で把握している場合、申告と在社時間の乖離を確認し、必要に応じて補正していますか。
 
3
始業前の情報収集・申し送り、終業後の記録、義務づけた研修の時間を、労働時間として扱っていますか。
 
4
看護師長・施設長などの管理職を含め、労働時間の状況を把握していますか。
 
5
医師が在籍する場合、その適用水準・対象要件に応じたインターバルを勤務表で確保していますか。
 
6
勤務表から、職員ごとの「終業から次の始業まで」の時間を確認できますか。
 
7
遅番の翌日に早番を組む場合、その間隔が何時間になるかを確かめたうえで組んでいますか。
 
8
オンコールや緊急呼出で休息が短くなった職員に、翌日の始業を遅らせるなどの手当てをしていますか。
 
9
勤務時間外の連絡(電話・LINE・メール)について、誰が・どんな用件なら・何時まで連絡してよいかが決まっていますか。
 
10
シフト交代や欠員補充の依頼を、勤務時間外に職員個人のスマートフォンへ送らずに済む仕組みがありますか。
 
左の四角が「はい」、右の四角が「いいえ」です。印刷してご記入いただけます。1から4は、現行法令・ガイドラインに基づく労働時間管理の確認事項です。5は、医師の適用水準・対象要件に応じてご確認ください。6から10は、休息確保や時間外連絡の改善に向けた点検事項です。「いいえ」が直ちに法令違反を意味するものではありません。

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7. 今やるべきこと、今はやらなくていいこと

今やるべきこと

さ
さくら
顧問先に「で、うちは何をすればいいの」と聞かれたら、どうお答えしましょう。
江
江尾社労士
三つです。第一に、勤務表の「すき間」を測ること。直近1か月の勤務表で、終業から次の始業までが11時間を切っている組み合わせに印をつけてみてください。遅番から早番への並びが含まれていないかも、あわせてご覧ください。何回あって、誰に偏っているか。それがわかれば、どの法的位置付けに決まっても、打ち手を選べます。
第二に、打刻と実態のずれを確かめること。電子カルテや介護記録のログイン時刻と、タイムカードの打刻を、数人分だけ並べてみてください。これは法改正と関係なく、いま求められていることです。
第三に、時間外の連絡について、一枚のルールを作ること。緊急時の連絡先と、それ以外は翌日の勤務時間内に、という程度で構いません。職員の皆さんと話し合って決めれば、それ自体が職場の安心につながります。

今はやらなくていいこと

さ
さくら
逆に、慌ててやらなくていいことは。
江
江尾社労士
11時間を前提にした勤務体制の全面的な組み替えと、「つながらない権利」の規程の作り込みです。時間数も、例外の範囲も、代替措置も、どの法律に書くかも、まだ何も決まっていません。いま大きく作り変えると、決まった形に合わせて二度手間になるおそれがあります。承継法の電子化も、顧問先の多くは何もしなくて大丈夫です。
報道で「インターバル義務化へ」という見出しを見かけることがあると思いますが、決まっているのは「法的位置付けを含めて検討する」ということだけです。いま整えるのは制度ではなく、勤務表と記録の現状把握。それがいちばん手戻りのない備えです。

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8. 次号予告 連続勤務規制と法定休日

さ
さくら
次は何が取り上げられそうですか。
江
江尾社労士
第211回で示された進め方では、残る論点は連続勤務規制、法定休日、裁量労働制、変形労働時間制、副業・兼業、テレワーク・フレックスタイム制です。順番は示されていません。
このなかで医療・福祉に重いのは、今回は取り上げられなかった連続勤務規制と、それと組みになる法定休日の特定です。インターバルが「勤務と勤務の間」の話だとすれば、連続勤務規制は、休日を挟まず「何日続けて働かせてよいか」の話です。なお、夜勤明けにそのまま会議に残るような働き方は、それとは別に、会議の時間を含めた労働時間と、次の勤務までの休息を確認する必要があります。
さ
さくら
取り上げられ次第、第4号でお届けします。

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監修 江尻 育弘
社会保険労務士 健康経営エキスパートアドバイザー 医療労務コンサルタント

沖縄を拠点に、医療機関・社会福祉法人・中小企業の労務顧問として、就業規則の設計・改定、労働時間制度の構築、職場復帰支援やハラスメント対策に取り組んでいます。法令遵守と職員のウェルビーイングの両立を軸に、作業を請け負うのではなく、目指す姿にご一緒する伴走者でありたいと考えています。

本文の江尾社労士とさくらは、解説のための登場人物です。

「うちの遅番と早番の間は、何時間あるだろうか」——そう思われたら、
直近1か月の勤務表と出退勤の記録をお手元にご用意のうえ、
江尻までお気軽にご相談ください。

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社会保険労務士 江尻事務所
出典
厚生労働省 労働政策審議会 労働条件分科会(第212回・令和8年10月14日)議事次第、資料No.1「労働契約承継法における労働者等への通知等の電子化について」、資料No.2-1「労働時間法制の具体的課題に関する検討の論点について(勤務間インターバル制度、「つながらない権利」の在り方、労働時間の把握)」、資料No.2-2「労働時間法制の具体的課題について(同)」。資料No.2-2に収録された「これまでの議論の主な意見の整理」は第204回・第202回分科会参考資料No.1に事務局が意見を加えたもの、統計・現行規定・諸外国の制度・「労働基準関係法制研究会報告書 概要」は第204回・第202回・第197回分科会資料を再掲・更新したものです。統計の原資料は、厚生労働省「就労条件総合調査」「勤務間インターバル制度に関する実態調査」(令和6年)「労働時間制度等に関するアンケート調査」(令和5年)「労働基準監督年報」、労働安全衛生総合研究所の調査研究、(独)労働政策研究・研修機構の諸外国調査です。次号予告の論点は第211回分科会資料No.2-1によります。沖縄の数値は、総務省「令和4年就業構造基本調査」沖縄県結果の要点、沖縄県商工労働部労働政策課「令和7年度 沖縄県労働条件等実態調査報告書」によります。
注記
本稿は令和8年10月14日時点で公表された審議会資料に基づく解説です。同日の分科会での委員の発言は、議事録の公表後に確認が必要です。記載した「確定度」は審議会の決定ではなく、これまでの議論の経過を踏まえた弊事務所の見立てです。今後の議論により結論が変わる可能性があります。シフトや通勤時間の例は説明のために弊事務所が作成したものです。個別の勤務体制、労働時間管理、規程のお取扱いについては、実際の運用に即した確認が必要です。
キーワード
勤務間インターバルつながらない権利労働時間の把握労働時間等設定改善法医師の働き方改革 交替制勤務労働政策審議会医療機関 労務管理社会福祉法人 労務管理社会保険労務士 沖縄